自動車大手、トランプ関税の逆風下でAIに活路 トヨタ、フォード、GMの事例CIO Dive

自動車大手の各経営陣が財務報告で述べたところによると、各社は顧客体験の向上やコスト最適化、利益拡大のためにAI活用を進めているようだ。

» 2025年07月11日 08時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

CIO Dive

 自動車メーカーは、米国の貿易政策の変動による経済不安という逆風に直面しながらもAIの導入を推進している。

大手自動車メーカーによるAI活用

 財務における負担は深刻だ。General Motors(以下、GM)は2025年の関税コストが最大で50億ドルに達すると見込んでいる(注1)。トヨタ自動車(以下、トヨタ)は関税の影響で純利益が21%減少すると予測しており(注2)、Ford Motor(以下、Ford)は関税によって2025年の粗利益が約25億ドル減少すると見込んでいる(注3)。

 経済不安が高まる中で、大手自動車メーカーは効率向上やコスト削減、事業を支えることを目的に、AIおよび自動化、データ分析能力の強化に取り組んでいる。

トヨタ、次の一手はAIエージェント

 トヨタは、車両開発の効率化や、顧客満足度を高めるアシスタントの構築にAIを活用する方針を示している。同社の佐藤恒治氏(社長兼CEO)は、2025年5月の初めに開催された第4四半期の決算説明会で次のように述べた(注4)。

 「データベース型の車両開発やサービスの進化、顧客とともに成長するAIエージェント、車載センサーを活用したサービスなど、データとAIが生み出す多様な価値を具現化していきたい」

 2024年にトヨタは、AIエージェントの早期導入企業となり、Microsoftとの提携の下でナレッジの蓄積と共有を支援するために約9つのAIエージェントを導入した(注5)。各エージェントはそれぞれ異なる専門分野と役割を持ち、設計効率に関するエンジニアの質問に答えたり、規制基準を満たすためのより良い方法を提案したりしている。このAIシステムは「Microsoft Azure OpenAI Service」の上に構築され、OpenAIの大規模言語モデル(LLM)「GPT-4o」を使用している(注6)。

 Microsoftは、2024年11月に投稿したブログの中で次のように述べた(注7)。

 「この独自のシステムは、トヨタ自動車の設計データを基盤として構築されている。データには過去の技術設計レポートや最新の規制情報だけでなく、ベテラン技術者による手書きの文書も含まれている。将来的には、ユーザーが選択することなく、システム自らが適切なエージェントを選び出すようになる予定だ」

FordはAIとロボットを活用

 Fordのクマール・ガルホトラ氏(最高執行責任者)は、2025年4月の初めに開催した2025年度第1四半期の決算説明会で「当社は複数のパートナーとともにAIプロジェクトに取り組んでおり、大幅なコスト削減が見込まれている」と述べた(注8)。

 Fordの幹部によると、同社は製品開発システムにAIを導入しており、設計プロセスの作業期間を既に数週間分短縮しているという。また、スペインの組立工場に導入したBoston Dynamicsのロボット犬をはじめとして、AIを搭載したロボットの活用にも取り組んでいる。

 「このロボットには、視覚や聴覚、振動とオイル漏れの感知に活用できるセンサーが搭載されている。工場内を一日中歩き回り、人間よりはるかに早く異常を察知できるため、私たちの予防保全のやり方が根本的に変わった」(ガルホトラ氏)

GMは「CAIO」任命しNVIDIAと提携

 GMもパートナー企業と連携してAI能力を強化している。同社は2025年3月に半導体メーカーのNVIDIAと提携し(注9)、AIを搭載したハードウェアやソフトウェアを車両に統合する取り組みを推進すると発表した。この提携は、GMが初の最高AI責任者(CAIO)を任命してからわずか数週間後のことだった(注10)。

 GMのメアリー・バーラ氏(CEO)は、2025年5月の初めに開催した2025年度第1四半期の決算説明会で次のように述べた(注11)。

 「私たちはビジネスの効率化と迅速化を推進するためにAIを活用できると考えており、現在も多くのパートナーシップの構築を進めている。また、全社横断的にAIに関する取り組みを推進するために、新たにAI部門のトップを採用した。私の直属の幹部にはそれぞれ、AIを活用して業務プロセスの改善やコスト削減を実現する目標を課している」

 GMは、安全性の強化や品質向上、効率化のためにもAIを活用している。同社が2025年3月に投稿したブログによると、稼働中の生産ラインをシミュレーションするデジタルツインを導入し(注12)、計画プロセスの最適化によって時間とコストを削減しているという。その他の活用例としては、バッテリーパックの潜在的な漏れの特定、溶接や塗装の検査、電気自動車の充電器を設置する最適な場所の選定などが挙げられる(注13)。

© Industry Dive. All rights reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR