ガートナーのアナリストが教える、AI導入したいなら壊すべき5つの壁CIO Dive

放置すれば変革の足を止め、コストを膨らませ、競争力を損なってしまうような、組織に深く根付いた行動や思考の傾向をCIOは見抜く必要がある。

» 2026年01月30日 10時00分 公開
[Gabriela VogelCIO Dive]

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「CIO Dive」は米国のビジネスパーソン向けWebメディア「Industry Dive」の一媒体です。「CIO Dive」が発信する情報からITmedia エンタープライズの専門記者が厳選した記事を「Industry Dive」の許可を得て翻訳・転載しています。

編集者注:以下は、Gartnerのガブリエラ・フォーゲル氏(バイスプレジデント・アナリスト)による寄稿記事である。

 組織はAIで変革を実現しようと急いでいるが、真のボトルネックは技術面ではなく、人の準備状況にある。多くのリーダーは人材面におけるコストを未だに過小評価している。その結果、従業員はこれからの働き方の中で自分の居場所を見い出せずにいるのだ。将来の職場における自分の姿を従業員が思い描けなければ、テクノロジーがどれほど高度であっても変革は停滞する。

 課題の大きさは明らかだ。Gartnerの最新調査によると、CEOの56%は今後5年間で管理職層のフラット化を計画している。一方、CIO(最高情報責任者)の91%は、AIによって引き起こされるスキルの変化を把握、追跡できていない。

 リーダーの5人に4人以上はAIの精度を全く測定しておらず、「ヒューマン・イン・ザ・ループ」という前提も崩れつつある。これらの数字は単なる統計ではない。戦略的な盲点が存在していることを示す証拠なのだ。

 AIの価値は、人が機械と共存し、適応しながら力を発揮できるかどうかにかかっている。その中心にあるのは、AIを人間のように捉えてしまう本能だ。この感覚を適切にコントロールできれば、AIの活用は進み、イノベーションも生まれる。しかし、放置するとAIとの対立意識や仕事を奪われる不安や現場のモチベーション低下を招いてしまう。

 こうした力学を二次的なものとして扱うことは、単なる見落としではなく、戦略上の失敗にほかならない。

 深く根付いた行動上の反射的な傾向や組織の力学から成る、5つの重要な人材面の障壁にCIOは正面から向き合う必要がある。これらを放置すれば変革は停滞し、コストは膨らみ、競争優位性は失われるだろう。

1 AI離脱効果

 従業員がAIを自らの価値やアイデンティティに対する脅威だと受け取ると、不安が生じ、やがて距離を置くようになるケースが少なくない。

 このような「AI離脱効果」は単なる抵抗ではなく、不確実性や地位および公平性の喪失があると感じることに対する理にかなった反応だ。リスクを感じた従業員は仕事への関与を失ったり、燃え尽きたり、離職したりする可能性があり、変革は停滞し、AI施策の価値も損なわれてしまう。

 CIOは、こうした不安に正面から向き合う必要がある。共感マップを作成し、キャリアについて率直な対話の場を設け、エンゲージメント低下の兆候を継続的に把握することが求められるのだ。離脱という行動は、経営が決して見過ごしてはならないシグナルだ。将来を見据えた役割に関する議論を明確に行い、変化に適応しようとする人材は積極的に後押しすべきだ。

 持続的な変化を実現するためには、導入後少なくとも3カ月から6カ月にわたり、人材やビジネス、テクノロジーにおける各KPIが全てプラスの成果を示している必要がある。

2 ミドルマネジメントの崩壊

 AIはマネジメントのあり方を大きく変えつつある。これまで知識や文化の仲介役を担ってきたミドルマネジャーは、裁量が縮小し、価値そのものが問われるようになっている。AIを活用して明確な成果を示すことへのプレッシャーも高まっている。

 この変化を乗り越えるために、CIOや経営層は「変わらないもの」にあらためて注力し、長期的に求められる役割や期待について明確に示す必要がある。抵抗感を否定するのではなく、対話と支援につなげるための出発点として受け止めるべきだ。

 マネジャーを役割の再設計に関与させることは、仕事の中で自らの存在意義を形づくる助けになる。門番から導き手へと役割を移行する人を称え、マネジメントにおけるヒロイズムを再定義することは、AIへの適応を新たなリーダーシップの形として捉える文化を築く上で不可欠だ。

 移行期に経験を積み、新たなアイデンティティを築こうとするマネジャーを積極的に支援しなければ、企業文化の劣化や組織に蓄積されてきた知見の喪失は避けられないだろう。

3 行動上の盲点

 機械がより多くの業務を自動化し、人間の能力を模倣するようになるにつれて、私たちが人間固有だと考えてきた特性は変化し、ときには薄れていく。組織がこうした変化を把握および監視しなければ、気付かないうちに重要な能力を失ってしまうリスクがあるのだ。

 スキルの衰退や経験の圧縮、感情面への影響、孤立、過度な依存など、AI導入によって生じる行動面での副次的な影響は、多くの場合目に見えず、把握もされていない。Gartnerの調査では、CIOの91%がこうした隠れた変化を監視していないことが明らかになっている。

 CIOは行動面への影響を検知し、対処する責任の所在を明確に割り当て、顕在化しつつあるリスクを特定し対応するための部門横断的な場を設ける必要がある。得られる成果の一つひとつに対して、その裏で起きている行動の変化を追跡し、盲点が障壁になる前に見えないものを可視化しなければならない。

 CIOがこうした見えない影響を可視化できていないのであれば、それは組織の将来の能力を賭けに出しているのと同じことになる。

4 完成度のパラドックス

 よくある落とし穴は、人間のミスには目をつぶる一方で、AIには超人的な水準を求めてしまうことだ。現在、生成AIのエラー率はおよそ25%とされているが、CIOの84%はAIの精度を把握していない。ここに矛盾がある。人間のパフォーマンスがどの程度なのかを測定および理解しないまま、AIに完璧さを求めてしまっているのだ。

 経営層は「人間とAIのチームは常に最善の結果を生む」という神話にも疑問を投げかける必要がある。場合によっては、両者を組み合わせるよりも人間だけもしくはAIだけの方が良い結果をもたらすこともある。リスク許容度や越えてはならない一線を明確にし、研修や信頼構築を通じて協働における落とし穴に対処すべきだ。

 CIOがあらゆる選択肢を測定し、比較していないのであれば、それはデータに基づいた意思決定とは言えない。その結果、価値や効率、競争優位性を取りこぼしている可能性がある。さらに悪いことに、どこで損失が生じているのかさえ把握できなくなってしまうのだ。

5 シャドーAI

 公式なソリューションが遅い、利用できない、あるいは不十分な場合、従業員は非公式なAIに頼るようになる。これは過去のコンシューマー向け技術の波と共通しているが、AIは知識を扱う技術であるため、機密性の高い知的財産が露出するなどより大きなリスクを伴う。

 深刻なリスクは、代替されることへの恐れからシャドーAIの利用が常態化する場合に現れる。従業員は不安や抵抗感を抱えたまま、ひそかに能力を高めようとする。それは単なる創意工夫ではなく心理的な危機信号でもあるのだ。

 取り締まるのではなく、CIOはシャドーAIのあらゆる事例を組織における「信頼」の指標として捉えるべきだ。シャドーAIを可視化し、価値あるものへと転換していく必要がある。

 リーダーは、従業員が非公式なソリューションを共有できる場を設け、隠れた工夫をベストプラクティスへと昇華させた人材を評価および称賛すべきだ。シャドーAIの利用者は、公式なAIソリューションの構築を支援する推進役となり、創意工夫が可視化され、正当に評価される存在になり得るのだ。

出典:5 human readiness barriers for enterprise AI value(Cybersecurity Dive)

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