米政府機関のCISAが、2020年に公開した内部脅威対策の指針を6年ぶりに改訂した。背景にはAIの普及と働き方の変化がある。正規の権限を持つ内部者は、組織のAIシステムをどう脅かすのか。
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米国のサイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)は2026年9月9日(現地時間)、組織の内部関係者による脅威への対策指針「Insider Threat Mitigation Guide」(インサイダー脅威対策ガイド)の更新版を公開した。2020年の初版公開以来の改訂だ。ガイドは、アクセス権や組織に関する知識を持つ現職や元職の従業員などがもたらす脅威を対象とし、悪意ある行為だけでなく意図しない行為も含めている。対象読者はセキュリティ部門や人事部門でインサイダー脅威対策を担う実務者と、組織の各階層のリーダーだ。CISAは今回の改訂で、内容を従来のものより簡潔な形式に再構成した。
改訂の背景には被害の増勢がある。CISAがガイドで引用した調査によると、インサイダー脅威インシデントに伴う1組織当たりの年間コストは2023年の約1620万ドルから2024年には約1740万ドルに増えた。インシデントの封じ込めには平均で81日を要するという。
ハイブリッドワークやリモートワークの定着とAIの業務利用の広がりによって、初版の公開時には想定しきれなかったリスクが生まれている。
CISAが新たに挙げたのは、機械学習モデルの学習データに不正なデータを混入させる「データポイズニング」をはじめとする、組織のAIシステムを標的にした内部者の手口だ。
更新版ガイドは、AIとインサイダー脅威に関する考慮事項を新設した。組織がイノベーションのためにAIへの依存を強める中で、AIシステム自体が攻撃対象になるという認識を示している。内部のデータストアにアクセスできる内部者は、学習過程で誤解を招くデータを意図的に注入し、予測結果をゆがめたり偏った出力を招いたりできる。デプロイ後のモデルのパラメーターを操作する「モデル改ざん」によって、不正な取引を見逃させたり機密文書を誤分類させたりする恐れもある。自組織のAIシステムの脆弱(ぜいじゃく)性を知る内部者は、それを突く攻撃の足掛かりにもなり得る。
悪意がない従業員も脅威になり得る。機密情報の取り扱いが承認されていないAIツールに業務情報を入力すれば、意図せず情報を漏らすことになるためだ。外部の攻撃者がAIを使って内部者を欺く手口への言及もある。AIが生成したフィッシングメッセージや偽のユーザープロフィール、映像や画像、音声のディープフェイク(AIで合成した偽コンテンツ)を使ったソーシャルエンジニアリング攻撃だ。
対策としてCISAは、AIの利用方法に関する従業員教育と既存のAIツールの保護、機密データの分類を挙げた。情報システムの不正利用を防ぐ利用規約といった法的な手当ても、必要に応じて見直すよう促している。
ハイブリッドワークやリモートワークに関する考慮事項も加わった。オフィスの外で働く従業員については、書類やIT機器の物理的なセキュリティ、自宅のインターネット回線の安全性、共有ドライブなどへのデジタル情報の分散を考慮する必要があるとした。
行動面の兆候を検知しにくくなる問題も指摘した。同僚や上司と日常的に顔を合わせない従業員に懸念すべき兆候が表れても、周囲は気付きにくい。CISAは、協働の促進だけでなく兆候の検知の観点からも、社外で働く従業員と定期的に関わり続けるよう求めた。セキュリティ標準や業務手順の更新、リモートワーク環境を想定した従業員研修も対策に挙げている。
この他に更新版ガイドは、ハラスメントや暴力への「ゼロトレランス」(違反者を例外なく処分する一律厳罰の方針)に慎重であるべきだとの見解を示した。程度や事情を考慮せずに自動的に処分を発動する運用は、意図しない結果を招きかねないためだ。
ガイドは全113ページで、脅威の定義から検知・特定、評価、管理までの流れに沿って対策プログラムの構築手順を解説している。
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