HISが月100時間を削減 AIエージェントで法人出張の見積もり、どう自動化した?:AIニュースピックアップ

HISが、法人出張の見積もり業務にAIエージェントとロボットを導入し、月100時間の業務時間削減につなげた。2023年ごろからAIによる効率化を試し、目指す精度を得られずにいたHISの転機になったのは何か。

» 2026年10月27日 12時00分 公開
[金澤雅子,ITmedia]

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 旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)は、法人出張(BTM)の手配業務のうち、顧客からの電子メールを基にした見積もり業務にAIエージェントとロボットを導入した。2026年4月半ばに運用を開始し、同年7月には見積もりメールの一定割合を人による修正作業なく送付できるようになったという。

コロナ後の出張需要の回復、手配業務が負担に

 HISは海外旅行を主力としてきたが、コロナ禍によって海外旅行ビジネスが1%ほどに急減したことを受け、他の事業に人員を振り向けたという。その後は法人出張の需要が急回復し、限られた人員での対応を迫られた。HISは法人事業を次世代の成長領域の一つに位置付けているが、手作業による属人的なオペレーションが根深く残っていた。

 法人営業が扱う出張業務は見積もりや予約、請求、入金、発券、チケット納品の6工程で進む。このうち最初の見積もり業務には平均20分かかっていた。電子メールで届く依頼は顧客企業や担当者によって記載内容や形式がばらばらで、案件によっては、要望や規定に合う航空券を提示するまで何度もやりとりを重ねる必要があった。コンサルタントの熟練度による品質のばらつきも課題だったという。

 HISが自動化したのは、この6工程のうちの見積もり業務だ。同社は「UiPath Platform」を使い、AIエージェントとロボットを組み合わせて、顧客のメールを読み取って見積もりを作成し、システムに登録するところまでを自動化した。2026年7月時点で、拠点における業務時間は月100時間短縮されている。

 ただし、ここに至る道のりは平たんではなかった。HISは2023年ごろからAIによる見積もり業務の効率化を目指してきたが、従来型のAIでは数カ月かけても目指す性能が得られなかった。今回は何が違ったのか。そして、6工程のうち見積もりだけ、しかもその一部に対象を絞った狙いはどこにあるのか。

従来型AIでは精度が出ず、UiPathの事例が転機に

 HISが2023年ごろから取り組んだ実証は、グループ企業の知見を活用して依頼メールを読み解くものだった。依頼メールが非定型で、十分な精度で読み取れなかったことが従来型のAIで成果が得られなかった理由の一つだ。

 転機が訪れたのは2025年だった。HISの法人営業の顧客として取引関係にあったUiPathから、同社のAIを使えば見積もり業務の自動化が可能だという情報を得た。例として挙がったのが、英国の航空会社ブリティッシュ・エアウェイズだった。ブリティッシュ・エアウェイズはコールセンター業務の改善にUiPathのAIとロボットを使い、ランダムに届く電子メールの内容を読み取って、後続の作業をロボットにつなげていた。以前の実証ではできなかった自動化の事例を聞き、HISはUiPathの採用に踏み切った。

HISにおける課題・解決策・効果(出典:UiPathの事例紹介サイト)

対象を単純往復に絞って自動化、社内規定の壁も突破

 HISは6工程全てではなく、「フェーズ1」として最初の見積もり業務の自動化から着手した。対象は、出発地と目的地を往復する「単純往復」に絞った。複数地点を巡る周遊は見積もり作成の難易度が高く、コンサルタントの専門性が必要になるためだ。まず単純な作業を自動化し、そこで生まれた時間を周遊に関する業務へ振り向ける狙いがある。

 出張全体の6割が単純往復で、出張の3分の1ほどは顧客企業が出張管理システム「HIS BTM Portal」から直接発注する。そのため、手作業で処理している単純往復案件は出張全体の約4割を占める。これらの負担を減らすことをプロジェクトの目的に据えた。

 見積もりの作成とシステムへの登録までの工程を自動化し、メールの送信は自動化の対象外で、送信の一歩手前までをシステムが担う。見積もりの精度を高めるため、約半年にわたって試行錯誤を重ねたという。

 社内のAI利用規定が大きな関門の一つだったという。AIに顧客情報を扱わせる場合は、企業のセキュリティ上の制限が厳しくなる。大手金融機関での採用事例などを基に、AI活用が課題解決につながると説明し、ようやく稟議(りんぎ)が通った。

約400件を修正なしで送付、関東の全顧客に展開

 2026年7月には、対象メール1000件のうち約400件で、AIが生成した文面を人間による修正なしで送付できるようになった。

 当初は利用顧客を絞ってスタートしたが、同年8月からは関東地区の全顧客に利用を広げ、利用者は右肩上がりで増えているという。フェーズ1の目標は月300時間以上の削減で、HISはこの目標について、対象案件を増やせば達成可能としている。手作業での修正が必要な残りの案件を減らせば、効果はさらに高まる見通しだ。

次は予約や発券へ拡大、人の役割は残す

 HISは今後、フェーズ2で単純往復以外の見積もりに対応するとともに、見積もりに続く予約、請求、発券といった業務まで任せられるようにする。さらにフェーズ3では、精度を高めた上で、顧客プロファイルと企業の購買ルール、コンサルタントの属人的なスキルの3つを組み合わせ、AIを活用したシステムがより適切に返答できる状態を目指すとしている。

 HISは、AIを業務に活用しても決定権を持つのはあくまで人だとしている。企画や手配をAIとロボットで担うケースにおいて、人が最終的な決定権を持つことが顧客への価値提供になるという考えだ。簡易的な作業はシステムに任せ、「旅行のプロ」であるコンサルタントが提案や緊急時の対応で顧客接点や体験価値を増やせるよう支援することで、選ばれる旅行会社であり続けたいとしている。

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