業務の自動化に向けてRPAとAIエージェントを組み合わせたUiPathの「エージェンティックオートメーション」は、いわゆる「エージェンティックAI」とどう違うのか。AIエージェントの効果的な活用のヒントとともに探る。
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これまでRPA(ロボティックプロセスオートメーション)を手掛けてきたUiPathが、RPAとAIエージェントを組み合わせた「エージェンティックオートメーション」を新たに打ち出し、企業の業務の自動化をさらに推進するソリューションを展開し始めた。エージェンティックオートメーションは、マルチベンダー・マルチタスクのAIエージェントをオーケストレーションさせながら全体をマネジメントする「エージェンティックAI」とどう違うのか。そこにAIエージェントの効果的な活用のヒントもありそうだ。
「どんどん賢くなるAIをビジネス価値に変えるにはどうすればよいか。それにはAIを現場の業務やシステムとつなぎ、アクションを実行可能とし、協働させながら管理する仕組みが必要だ。それを実現するのが、UiPathのエージェンティックオートメーションだ」
米UiPathの日本法人UiPathの会長 CEOを務める長谷川康一氏は、同社が2025年12月10日に都内で開催したプライベートイベント「UiPath FUSION Tokyo」の基調講演で、この機に来日した米国本社のCEOで創業者のダニエル・ディネス氏と共に登壇し、こう切り出した。
長谷川氏はエージェンティックオートメーションの定義について、「RPA(ロボット)とAIエージェント、人がそれぞれの特性を生かして協働すること」と述べた。それぞれの特性を生かした協働とはどういうことか。
同氏は、「定型的な業務はロボットに“実行”させ、自律的に動けるAIエージェントは“判断”が必要な業務を担い、その判断について人がチェック(承認)する形だ。AIエージェントの業務を定型化できれば、後はロボットに任せて自動化でき、AIエージェントを効果的に生かせる仕組みとなっている」と説明した(図1)。
さらに、長谷川氏は「エージェンティックオートメーションは、業務全体のワークフローに基づいた業務プロセスをエンド・ツー・エンドで自動化できる」と説明した(図2)。
その上で、「私は、AIエージェントだけで業務全体を自動化するのは技術的にも投資対効果の観点からも現実的ではないと見ている。AIエージェントをもっと効果的に活用することを考えるのが得策だ。ロボットとうまく組み合わせて使えば、現場の的確な情報を捉えてAIエージェントの品質もさらに向上させられる」とも話した。
こうした見方については、ディネス氏も「UiPathはこれまでRPAによって業務の自動化に寄与してきたが、生成AIおよびそれを使ったAIエージェントはさらにそれを推進できる技術ということで、世の中に出てくるのを待ち望んでいた」と語り、「指示に従って定型業務をこなすRPAに対し、AIエージェントはさまざまな業務をインテリジェントにこなせる。これらを組み合わせたエージェンティックオートメーションは、業務を自動化する最適なソリューションだと確信している」と力を込めた。
長谷川氏はエージェンティックオートメーションについて、「単に業務を自動的に処理するだけでなく、モニタリングによって継続的に改善を図ることにより、現場からイノベーションを生み出せると考えている」とも述べた(図3)。
これについては、「これまで培ってきたプロセスマイニングの技術を使ってさまざまな業務現場のプロセスを解析することにより、最適な形に向けて継続的に改善を図れる。そして、エンド・ツー・エンドで最適化を図る。私は、これからAIによってイノベーションを起こすのはAI技術者だけでなく、業務現場で課題を解決していく人たちだと確信している。エージェンティックオートメーションはそのお役に立ちたい」(長谷川氏)とも説明した。
興味深いのは、UiPathが推進するエージェンティックオートメーションのパートナーエコシステムにおいて、AI関連の名だたるベンダーが名を連ねていることだ(図4)。
長谷川氏はパートナーエコシステムについて、「エージェンティックオートメーションの価値を最大化するために、それぞれに優れた特性を持つAIと組み合わせてお客さまに活用していただくことが目的で、UiPathとしては今後も積極的に拡大を図りたい」としている。
以上、UiPathの戦略や思惑がよく分かる講演だったが、エージェンティックオートメーションは、今この分野で話題のキーワードとなっているエージェンティックAIとどう違うのか。筆者の今回の取材においても最大のポイントはそこにある。
エージェンティックAIについては本連載でもたびたび説明してきたように、「マルチベンダー・マルチタスクのAIエージェントをオーケストレーションさせながら全体をマネジメントを行する技術であり、利用環境」のことだ。特にマルチベンダーへの対応がカギになるというのが、筆者の見立てだ。なぜならば、多くの企業では異なるベンダーの業務ソフトウェアがすでに幾つも使われているからだ。そこにAIエージェントが組み込まれていくことで、企業の業務全体の自動化を図り、そこから新たなイノベーションを生み出していこうというのが、エージェンティックAIの目指す姿だ。
そう考えると、目的は同じだが、先に紹介した長谷川氏による「RPA、AIエージェント、人がそれぞれの特性を生かして協働すること」というエージェンティックオートメーションに対し、エージェンティックAIはAIエージェントの活用を前提としているところが違うと見て取れる。
そこからさらに考えると、エージェンティックオートメーションはエージェンティックAIに至る過程の状態とも推察できる。一方で、業務の自動化という目的に向け、AIエージェントだけでなくRPAとの組み合わせによって最適で投資対効果の高い仕組みを作り上げることができれば、エージェンティックオートメーションが最適なエージェンティックAIになり得るのではないかとも考えられる。
そうした考えを基調講演後の記者会見でぶつけてみたところ、ディネス氏は次のように答えた。
「エージェンティックオートメーションは、エージェンティックAIの応用の仕方だ。エージェンティックオートメーションは、エンタープライズの業務プロセス全体を対象としてエージェンティックAIを適用するものでもある。その意味では、エージェンティックオートメーションがエンタープライズにおける業務の自動化に最適なソリューションだと考えている」
エージェンティックAIはエンタープライズの業務プロセス全体が対象との解釈もあるので、上記はディネス氏の見解ともいえる。ただし、UiPath自身もAIエージェントの展開を積極的に進めているので、「UiPathならではのエージェンティックAIがエージェンティックオートメーション」と筆者は受け止めた。
ただ、そう考えると、AIエージェントだけが選択肢ではないし、投資対効果の高いところからAIエージェントを活用すればよいとの柔軟な捉え方ができるだろう。その意味でもエージェンティックオートメーションは柔軟性のある取り組みといえそうだ。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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