2004年は相次ぐ情報漏えい事件が社会問題化し、企業にとってはセキュリティへの取り組みがますます問われた年でもあった。そうした中、ジュニパーネットワークスは、ファイアウォール/VPNで知られるネットスクリーン・テクノロジーズを買収。セキュリティという観点からインフラ構築を提供できる体制を固めた。「セキュリティ対策は保険ではなく、継続的な努力が求められる」と語る同社の大須賀社長に話を聞いた。

ITmedia 2004年を振り返ってみて、どんな1年でしたか?

大須賀 2001年ごろからDSLが普及し始め、2004年にはその伸びも一段落すると言われていましたが、思ったよりも普及の速度が落ちなかったというのが実感です。おかげで当社のルーター関連製品の出荷も、比較的好調に推移しました。

 また、DSLやFTTHなどの急速なブロードバンド環境の普及によって、ネットワークそのもののあり方が変わってきました。誰もが気軽にインターネットに接続できるようになって便利になった反面、ウイルスやワームなどのセキュリティ対策やWinnyに代表される知的財産権などの問題が新たに浮かび上がってきました。

セキュリティは保険ではなく常に備えるべきもの

ITmedia 不正侵入や個人情報の流出事件が相次ぎ、セキュリティの話題に注目が集まりました。

大須賀 企業が取り組むべきセキュリティ対策として、外部からの攻撃や不正侵入対策はもちろんのこと、内部からの情報漏えいに対してどう対応するかについても問われるようになってきました。個人情報保護法が制度化され、相次ぐ個人情報の流出事件で損害が表面化したことによって、企業の情報やセキュリティに対する認識が変わってきたように思います。


ネットスクリーンの買収により、セキュリティ分野に進出したジュニパーネットワークス。「ネットワークとセキュリティの両方で、顧客の期待に応えたい」と語る大須賀氏

 当然のことながら、われわれの顧客からもよりセキュアで高速なネットワーク構築が求められるようになってきました。最低限のセキュリティも確保されていないようなネットワークでは、もはやユーザーは使用しません。ジュニパーの製品と言うと、従来はキャリア、サービスプロバイダー向けのネットワーク機器が主流でしたが、ネットスクリーンの買収によってネットワークセキュリティ技術も提供できる体制を整えました。今後はネットワークとセキュリティの両方の点で、顧客の期待に応えていくつもりです。

ITmedia これから施行される個人情報保護法なども含めて、企業経営にとってセキュリティ対策がますます重要だということでしょうか?

大須賀 セキュリティ対策に関しては、「転ばぬ先の杖」のような考え方を持っておられる方々も多いようですが、決してそうではないと思います。火災保険や地震保険のようなものではなく、頻度からいえば災害などよりはるかに遭遇することが多い危険です。甚大な被害を被ってから「あのとき、ああしていればよかった」と後悔しても遅いのです。これは保険なのではなく、日頃から必要な防御であって継続した努力が求められるということを、われわれはもっと認識することが大事だと思います。

ITmedia 今年は台風や地震など自然災害も多く、ITというインフラについても備えの重要性が認識されたのでは?

大須賀 特定の地域で、台風や地震などの天災が起こった場合、伝送路が壊れるようなことはどうしても起きます。そのようなときに、伝送路を迂回させる仕組みや、トラフィックが集中したときに分散させる仕組みなどが、電話のネットワークに比べて、IPネットワークではまだまだ不完全と言わざるを得ません。今後は、ネットワーク全体での冗長性や危機管理対策といったことが、ますます問われてくるでしょう。IPネットワークの標準化を進めるにあたって、信頼性や品質を落とさずに、既存の電話回線などから移行させる取り組みがこれからも重要だということです。

コアと同時に、中小規模向けの製品も積極的に取り組む

ITmedia 2005年はどんなことに取り組みますか?

大須賀 ネットワーク市場において当社が競争力を持つハイエンドの分野、キャリアやサービスプロバイダー向けのコア/エッジルーティング機器については、従来通り注力していきます。ただ、これだけブロードバンド回線が安価になって普及してくると、コンシューマーの世界もずいぶん変わってきました。とくにローエンドの企業ユーザー市場に注目しています。

 これまではコストとの兼ね合いで専用線を引けなかったような中小規模の事業主が、専用線ではなく普通のブロードバンド回線を利用して、ネットワークを構築するようになってきました。そこで使うルーターなども、企業間通信をしっかりサポートできるようなセキュアかつ信頼性を持った製品が求められます。と同時に、中小規模向けの製品では、価格も重要なポイントです。われわれはこのマーケットに対しても、的確な価格と品質を持った製品を提供したいと考えています。

ITmedia 中小規模向けでも、セキュリティが鍵になりそうですね。

大須賀 Webブラウザを用いるだけで、社外から安全かつ容易に社内のサーバにアクセルできるとあって、SSL-VPNのマーケットが急速に立ち上がっています。VPNが企業向け通信の主流になるにつれ、今後は中小規模向けのSSL-VPNアプライアンス製品が伸びていくと予想しています。当社はこのマーケットではトップシェアを維持していますが、PKI機能のサポートなど、より安全なアクセス環境を提供して、マーケット全体の拡大に寄与していきたいと考えています。

 また、セキュリティアプライアンスに関して言えば、外部からの攻撃を防御する装置(ファイアウォール機能)と外部からの不正侵入を検知する装置(IDS機能)が別デバイスだったりするので、これらをもっと導入しやすくすることも考えています。例えば、これらが1つの筐体で対応できれば、設置性もよくなり電力消費も少なくて済みます。実際、中小規模の事業所では設置スペースにも限りがあるため、装置点数を少しでも減らしたいと考える顧客は大勢います。ジュニパーとネットスクリーンの統合の成果として、省スペースで複数の機能に対応するパッケージを提供していきたいですね。

ITmedia コアの方ではどのような動きがあるのでしょうか?

大須賀 処理速度のみを追求するのであれば、われわれの現在の技術でも90Tレベルのような製品はすぐにでも提供することができます。しかし、サイエンスプロジェクトではないので、いたずらに速度だけを追い求めても仕方がありません。現在、使っているネットワーク環境を、継続性を考えながらスムーズに発展できるような仕組みを提供していかなければなりません。当社はネットワーク/セキュリティベンダーとして社会的な責任を負っていますので、既存の設備に対応した製品を安定して供給することが大切だと考えています。

ITmedia 2005年に注目する分野があれば教えてください。

大須賀 2005年に企業内や企業間のネットワークがすべてIPv6に統一されるというわけではありませんが、とりわけ日本、中国、韓国などの極東地域で、IPv6がさらに注目を集めるとみています。実際に米国では、IPv6に対応していない製品は購入が見送られるといったケースも増えてきています。今後は国内においても、IPv6への対応が必須になるでしょう。

 IPv6の利用用途として、必ずしもコンピュータにだけ割り当てるのではなく、例えば流通などの現場で、運ぶ物品に対してアドレスを割り当てて管理するといった用途も考えられます。このように、アドレスの再利用の問題なども含めて、解決していかなければならないことが多くあります。われわれはIPv6に早くから取り組み、昨年は数多くの対応製品も発表しました。ジュニパーの持つ技術力を生かして、IPv6がマーケットに浸透していくような努力を続けていきたいと思います。

年末年始は12月31日まで仕事があるため、あまり長くは休めないと言う大須賀氏。「日帰り温泉に行ったり、ゴルフをしたりして気分転換を図りたいと思っています。正月休みはできるだけメールを読まないようにして、仕事から離れたいですね。本当に大事な用件であれば、携帯電話に連絡が来ますので……」

[ITmedia]

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