SFC Open Research Forum 2005
〜知の遺伝子進化を加速せよ〜
イラスト入場無料
2005/11/22(火)-23(水)
六本木アカデミーヒルズ40
主催:慶應義塾大学SFC研究所
ただいま事前参加申込受付中!
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写真1■左から環境情報学部の脇田玲専任講師、政策・メディア研究科の梅嶋真樹助手、同研究科の羽田久一講師、同研究科の三次仁助教授

ドラゴンボールのスカウター? ORFのRFIDプロジェクトが提示するユビキタスサービス像

SFCは11月22日〜23日の2日間、六本木ヒルズで産官学連携による研究成果を披露する「SFC Open Research Forum 2005」を開催する。昨年に引き続き、今年もRFIDを用いたインフラを構築。一歩も二歩も先を見据えたRFIDの「利活用」に焦点を当てる。

 「昨年はまだRFIDが配られること自体が珍しかった」――Auto-IDラボは今年も「SFC Open Research Forum 2005」(ORF)で、RFIDプロジェクトに取り組む。参加者のタグにRFIDを取り付け、会場内の行動を可視化し、RFIDによるユビキタス社会のサービスを披露するという。

 NTTコミュニケーションズ株式会社をはじめとする産学連携で研究を行うAuto-IDラボ・ジャパンは、2003年から慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に拠点を置き、RFIDに関する研究開発、標準化、ビジネスモデルの創造といった活動を行ってきた。2年目を迎えるORFのRFIDプロジェクトは今年、技術的な社会実験という枠を一歩抜け出し、「利活用」に主眼を置いたサービスとして来場者に提供する。

 今年のORFで参加者はどんな体験ができるのか? Auto-IDラボ・ジャパンの三次仁氏(NTTコミュニケーションズ株式会社からの特別研究教員)、梅嶋真樹氏、羽田久一氏と、脇田玲氏にその魅力を語ってもらった。

テーマは「RFIDをどうやって楽しんでもらうか?」

ITmedia 昨年のORFではRFIDを用いた社会実験を行っていますね。昨年と比較すると今年はどのようなものになるのでしょうか?

梅嶋 昨年は、まさにコンシェルジェサービスのためにRFIDのインフラを作ったようなものでした。今年は、しっかりとしたインフラはもちろんですが、その上でコンシェルジェサービスを含む複数のアプリケーションを乗せ、より現実社会に近い形のサービスとして提供します。昨年は「社会実験」と読んでいましたが、今年はサービスと呼んでいるのもそのためです。

脇田 昨年に引き続き、センサーからのログを何らかの形で実空間に可視化してみたいと考えています。会場に大型のスクリーンをいくつか設置して、そこに全体の群集の動きや興味の傾向を映し出し、個人の情報をかぶせることで固有の情報を表示して見せます。

 そういった情報が表示されれば、参加者が次の自分の行動が取りやすくなる。そうやってORF全体を楽しめるようにしたいなと。女性に一番人気があるブースはどれかとか、どの業界の人が多いとか、そういったことが見えてくるようになります(笑)


写真2■環境情報学部の脇田玲専任講師

ITmedia 具体的にはどのように可視化されるのでしょうか?

脇田 透明のスクリーンを使用して、背景にメタ情報が抽象されるようにしたい。ドラゴンボールのスカウターみたいに、自分が見ている背景のブースの上に情報が重なって見えるような感じですね。昨年は1通りの見せ方しかできなかったのですが、今年は5通りぐらいの見せ方を用意して、リモコン操作でいろいろな見方を選べるようにするつもりです。

梅嶋 昨年はまだRFIDが配られること自体が珍しく、「これで何をするんだろう」と手に取ったタグを眺めているような人が多かった。しかし今年あたりからは、RFIDを何に使うのかを問う時代になってきました。

 昨年はRFIDを受け取るか受け取らないか、承諾書を一人一人に書いてもらっていたんです。それほど、RFIDに敏感なときだったと思います。でも、今年は携帯電話と同様に、どんどん使っているうちに利活用の中から新しい開発が生まれくる。そういう段階にきていると思います。

 脇田さんも言うように、今年のORFはRFIDをどうやって楽しんでもらうかにシフトしています。インフラにおいても昨年は、リーダーが六本木ヒルズ内の狭い空間に100カ所もあること自体が世界的な新しさだったのですが、今年は「どうしたら皆に使いやすくなるか」を考えて構築します。インフラサイドで取り組む研究者も、多くのサービスが多くの場所へ提供されるようになることを想定しています。


写真3■政策・メディア研究科の梅嶋真樹助手

ITmedia 昨年と比べると技術的な進歩がそれを可能にしているのでしょうか?

三次 技術的なものというよりは、今年の4月に電波省令が改正されて、UHF帯が使いやすくなったのが大きいですね。昨年は、リーダーのアンテナを下に向けなければいけなかったのが、今年はそれがなくなりました。加えて、電波省令が改正された後、すぐに日本のメーカーが製品を投入してくれましたので、今回のORFで早速使っています。

梅嶋 昨年は、何枚のタグを読み取れて、その読み取り率が上がったということが成果でした。今年は多様な環境で読み取り能力を維持する研究成果が土台にあると感じます。正直いうと、昨年はまさに「RFID博覧会」という様相でしたが、今年は次世代のユビキタスインフラのユビキタスサービスの説明会になるはずです。

羽田 僕が担当しているのはインフラになるので、参加者にはあまり見えない部分かもしれませんが、RFIDはさまざまなアプリケーションが乗る汎用的なインフラになり、その幅が広がっています。

脇田 アプリケーションにも、人によっていろいろな使い方ができる幅が必要です。その中でユーザーが自分で面白さを見つけてほしいですよね。人によって使い方が無限に変わってくるようなものにしたいと考えています。

新しいことをやるのに産学連携の枠組みなんて関係ない


写真4■政策・メディア研究科の三次仁助教授

ITmedia 産学連携で取り組む。その良さはどのようなところにありますか?

梅嶋 某ITメーカーの人に言われたのですが、技術開発の人間とビジネスモデル開発の人間が一緒にいるというのは、会社ではなかなかありえないことです。つまり、意見の交換ができないまま、お互いがお互いのことを究めている。情報交換をするには、上司から名刺を渡されて、「お前、この人に会ってこい」といわれてトップダウンでやるしかない。しかし、SFCの場合は、お互いが未完成段階から議論して作っていこうという考え方があります。

 三次さんが話されたように、アンテナを下に向けなきゃいけなくてもORFではUHF帯を使っていました。「下を向けてでもやろう」というのはSFCらしさですよね。当然、下を向けてでもやってきたのがSFCですから、その制限がなくなれば、もっと面白いことができると考える。ORFの「RFIDプロジェクト」というのは、そういうものを目に見える形で見せていこう。しかも、産学連携で企業も学校も関係なく、共同でコラボレーションしてやっていこう、という場なのです。

 新しいことをやろうとしたとき、本当は産と学に句切りはないはずです。学にある知識と、産にある知識が融合すればよいのですから。SFCはその境界を極限までなくしています。極端な話をすると、三次さんをはじめ、ここにいる研究者の存在自体が産学連携なわけです。

 日本においてUHF帯が使えなかったという去年の現状というのは、ビジネスモデルにおいて最悪な状態でした。世界各国では、UHF帯のタグを付けた商品を小売店に置こうという取り組みをしている。なのに、日本だけは実験すら許されない。非常な危機感がありました。それを三次さんの頑張りでUHF帯が使えるようになった。これは産だけの問題でなく、私たちもUHF帯を使って世界の研究者とコラボレーションできない。通信インフラの世界における、ものすごい市場創造だと思っています。

ITmedia 産と学という枠組みだけでなく、技術開発とビジネスモデルも連携しているというわけですね。


写真5■政策・メディア研究科の羽田久一講師

梅嶋 脇田さんと話していても、「アプリケーションを選ぶのはユーザーです」と考えています。「勝手にシナリオを書いてこっちに入れ込むな」と。いろいろなものを出して見てもらおうというビジネスモデルサイドの考えを、インフラサイドが応えようとしている。こちらの要望を最初は無理ですといっていても、2、3日たつと「何とかやってみるよ」といってくれます。

羽田 デザインを行っている人は、僕らが気付かないことをやってみたいというので、こちらもすごく面白い。今回のORFでは使用するタグのうち、HF帯のタグだと電波が30〜50センチくらいしか飛びません。だから、どうしても参加者にリーダーにかざしてもらうという作業が必要になる。僕らだとタグが30センチまで寄らないなら、なんとか1メートルまで実現させてやると考えがちだけど、そうじゃなく自然と寄ってきてもらうアプローチを持っているんです。

脇田 逆に僕らは技術がないので、そこで解決しようと思ってもできない。僕らから見ると技術をやっている先生のところにいると、いろいろなものがある。秋葉原じゃないけど「宝の山」のような感じがしますよ。

梅嶋 私は、羽田さんや三次さんが技術開発を行っていて、それをどのような形で世の中に出せるのか、明確なメリットを説明しないといけないと思っています。それをやるには、自分は影になりながら、協働が誘発されるプラットフォームを作ろうと。

 RFIDの世界では今後、産学の「産」に消費者も入ってくるはずです。ポジティブに見れば、RFIDを使うと、どこに何があるから分かるからいろいろなサービスが実現できるわけですが、悪い使い方をすると、誰が何を持っているか分かってしまうという問題もある。

ITmedia プライバシーの問題ですね。

梅嶋 2002年ごろからプライバシーは大きな問題となってきました。EPCグローバルではプライバシーを守るガイドラインが作られ、日本では経産省と総務省がガイドラインを策定し、個人情報保護法もできた。しかし規制というのが唯一の解決策かといえば、そうじゃない。ORFで先生方に協力してもらったのは、参加者が情報を開示すればするほど、多くのサービスを受けられるというモデルです。

 開示された情報を使って、脇田さんをはじめとする6つのサービスが動くのですから、当然、たくさん開示したほうが人と人のつながりが分かるようになって、面白くなってきます。しかも、それが会場内で見られるわけですから、情報を開示することで大きな価値が生まれてくる。

 面白いのは、事前登録の状況を見ると、フルにサービスを受けたいという人と私はこれだけでよいという2つに大きく分かれている点。ひょっとすると、次のユビキタスの社会は、マスサービスでなく個人が求めたものに個別に対応するというサービスになってくるかもしれない。マスの時代は終わったのかもしれない。すると、大量生産、大量消費に根ざしたマスマーケティングは大きく変わってくる。SFCにいるデザイナーも、そういうアプリケーションをデザインしたいと考えているのだから、相関関係が徐々にでき上がってきているのを感じます。

脇田 ポジティブとネガティブな両面があって、それの両面を見ているのがSFCらしさでもあると思っています。

梅嶋 ビジネスショーは20年前から入場券を発送して、名刺を渡してお土産の袋を抱えて帰るというギブアウェイのスタイルが変わっていません。しかし私たちは、こういう周り方をした人にはこういうサービスをすればよいのでは、と考えられるようなことを企画しています。

 さまざまな企業のマーケティングの人とこの取り組みの話を説明すると、今後10年でこのモデルはいろいろなところで現れるといいます。例えば、デーパートではテナントごとで分断されているけど、動線がわかれば、テナント同士のコラボレーションが活発になる。人の動きが可視化されると、マーケティングも変わってくる。そこで「消費者はどうか」となり、プライバシーの問題が出てくるはずなんです。ならば、消費者とも協働してみようと。そこまでのコンセプトを視野に入れてからユビキタス時代におけるプライバシーの問題に取り組まないといけない。しかし、残念ながら今の日本ではそこまで考えられていません。技術と政策、ビジネスデザインが分断されているので、それができないわけです。

ITmedia なるほど。今回のORFで参加者にどのような体験をしてもらいたいのでしょうか?

梅嶋 ORFの目的は、コラボレーションを探すためにあるのだから、あるブースに行ったら自分と同じ感性の人が見つかって、共同開発を決めたというのが究極の形になってくると思います。今回の、脇田さんのアプリケーションはそれを誘発できると思います。

脇田 そう、やりたいのは誘発です。ただ、電子メールがそうであるように、つながっていない環境は保証されなくなる。そうすると、孤立して生きるという権利もとても重要になってくる。ITというのは、何かを伸ばすだけでなく、失われたものを回復させる側面もあると思います。

羽田 ビジネスショーに行くと、各社がそれぞれに自分のブースで似たようなことをやっていたりするのですが、それを各社のブースをまたがって、数の力で相互作用を生み出せる。アイデアを持っているのは、僕らだけではないわけで、それをみんなが共有する。そういったことをマス展開できるようになってきます。

脇田 インフラというのは、まったくそういうことだと思います。インフラは社会を変えてしまう。世の中全体がパブリックなものから私有へ変化して、そして私有から共有へと変化してきていますが、手に触れる財だけではなく、行動だったり思想だったり、あらゆるものがそういう方向に向かう。新しい社会を築く強力なエンジンになると思います。

蒲田の町工場はなぜ強かったのか?

梅嶋 最近、協働という言葉に最も関心がありますね。最近読んだ本によると、蒲田の町工場がなぜ強いかというと、町工場同士に企業秘密がないかららしいのです。例えば、梅嶋ネジ工場が作ったものを隣の羽田金属加工に持っていくと、誘発されて羽田さんが脇田さんの製品と組み合わせるとすごいことになると教えてくれる。そして梅嶋が脇田さんのとこにいくと、三次さんのところでアンテナを付けてくれて、無線で情報が飛ぶようになったよ、といったことが起こる。ただ、こういった蒲田の町工場みたいな関係を今の社会に再現しようとすると、なかなか難しい。

 ネットワークという“つなげる”道具が出てきた。蒲田のような成功実例を持っている日本なら、すごい大きなモデルができると思っているんです。脇田さんの言う、失われたものを回復するというか、そのようなコラボレーションを誘発するようなプラットフォームができるんじゃないか、と。

 世の中全体の関心が管理のことばかりをやっているので、「SFCも同じだろう」と見られがちですが、本当はそうではありません。ただ、管理と協働は紙一重なもの。ビジビリティという言葉がありますが、これは管理と協働の両方に使えてしまう。ORFでは、これをコラボレーションとして使う例としてやっていくつもりです。

脇田 誘発ということでは、マクルーハンが晩年に「メディアの法則」という本の中でテトラットという話をしているのですが、そこには「拡張」「反転」「回復」「衰退」の4つの側面がありますね。RFIDが何をもたらすか、といえばこの4つがやっぱりあると思うんです。参加者がそれをどのように感じられるのか興味があります。

三次 本当はそれを自動認識できるといいのかもしれませんね。RFIDのポイントは自動認識ですから、意識的ではなく、自動的に認識できる。

脇田 センサーされているのとされていないのでは、認識がかわるのでしょうから、見た目上同じ行動をしていても、その意味は違ってくるわけで、あらゆる社会の前提が変わるのでしょうね。

梅嶋 情報を誰か一人が管理するという考え方でなく、自分の持っている情報を出し合うことで価値を生む。情報を交換するコストを低下させることができれば、価値が生まれる回数が増える。そうなると、従来のITの利活用というのが今までとはまったく違ったものになってきます。情報交換コストはいまでも高いと思われているのだけど、実は下がってきていて、価値を生む源泉はいかに編集するかに既に移行してきていますね。最先端技術と最先端ビジネスモデルの設計が融合すると、どんなユビキタスなモデルが設計できるのか。ORFでそれが分かるはずです。

提供:慶應義塾大学 SFC Open Research Forum
企画:アイティメディア 営業局/制作:ITmediaエンタープライズ 編集部/掲載内容有効期限:2005年11月30日