機は熟したデジタルサイネージ市場:アナリストの視点(2/2 ページ)
販売促進や広告配信の在り方を変える新たなメディアがデジタルサイネージだ。企業やロケーションオーナーの期待も厚く、市場規模は右肩上がりで拡大を続ける。デジタルサイネージ市場の今をアナリストが読み解く。
サイネージ導入後のサービスが市場拡大に貢献
今後拡大が見込まれる分野は、コンテンツの制作や配信業務の請負など、デジタルサイネージ導入後のサービスだ。この分野もかつては金融機関や医療機関向けに特化したサービスが多かったが、市場の拡大とともに幅広いユーザーにサービスが提供されるようになった。
メディアプレーヤーを使った配信システムなどの累計数は、2008年で約4万台。その46%がコンテンツ制作および配信を外部に委託していると推測される(図2)。サーバなどの専用機器を持たずに配信システムを構築できるASP/BPO(業務プロセスアウトソーシング)サービスが拡大していることもあり、業者に委託する比率が年々高まっている。
2008年におけるコンテンツ制作・配信サービス市場は、前年比130%弱の約53.5億円となった。配信システム数が増え、外部企業への委託比率も高まったことで、2010年には84.5億円(2008年比157.9%)に膨らむ試算だ。
(注)同調査ではスタンドアロン型のコンテンツ制作市場は含んでいない。同ユーザー向けの市場は配信対応ユーザー以上に大きな市場があると推定できる。
広告ビジネスを媒介するデジタルサイネージ
今回の調査では、デジタルサイネージを活用した広告市場の算出にあたり、対象とする媒体を「ビルボード」「交通広告」「インストアメディア他」の3つに分類した。
| 媒体 | ディスプレイ | 設置場所 |
|---|---|---|
| ビルボード | フルカラーLEDディスプレイ | 屋外(ターミナル駅/商店街/繁華街/ビル壁面) |
| 交通広告 | 液晶/PDPモニター主体。一部プロジェクターを利用 | 構内/構内および車両内 |
| インストアメディア他 | 液晶/PDPモニター主体。一部電子POP/プロジェクターを利用 | 屋内(施設/店舗内) |
デジタルサイネージを活用した広告の市場規模は、2008年には170億円になった(図3)。そのうち半数を占めるビルボードは、10年以上前から屋外映像広告として事業が成立している。現在全国で120〜130基の広告媒体が運用されており、クライアントへの広告費や広告出稿量は設置場所で大きく変わる。昨今の景気低迷で屋外広告の出稿が伸び悩んでおり、現在ビルボードで収益が上がっている事例は全体の20%以下とみられる。
広告媒体としての期待が最も大きいのは、交通広告の分野だ。JR東日本が運営する鉄道内デジタルサイネージ「トレインチャンネル」を筆頭に、JR各社や私鉄にも導入が広がっている。車両だけでなく、駅構内や駅ビルでもデジタルサイネージを使った商品広告が採用されているなど、映像広告としての普及が期待される。鉄道以外では空港やバス、タクシーの車内広告なども始まるなど、今後の市場拡大における中心分野となる。
スーパーマーケットやコンビニエンスストア、家電量販店など店舗や商業施設で展開するインストアメディア(一部アウトドアメディアを含む)も注目を集めている。病院や自動車教習所での広告ビジネスを始め、スーパーやコンビニでも同じビジネスが始まるなど、今後も参入企業が増えていく見通しだ。
デジタルサイネージ市場の方向性
機器や配信システムの低価格化、専用コンテンツをPCで作成できるツールなどもあり、コンテンツの配信に対応していないシステムも需要が拡大している。だが、同市場に参入する企業が照準を絞っているのは、コンテンツ配信のメリットが生かせるネットワーク対応型のデジタルサイネージだ。コンテンツ配信における統一ルールの不在や広告評価を測る指標が定まっていないなど課題もあるが、デジタルサイネージのプラットフォームはコンテンツの配信や広告ビジネスなどさまざまな展開ができる。デジタルサイネージ市場は、ビジネスの事業化に当たり機は熟し始めており、今後も大きな伸びが期待できるだろう。
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