高電圧直流給電――データセンターは交流から直流へ:日曜日の歴史探検
データセンターにかんするトピックは、今、IT業界で注目を集めるトピックの1つです。データセンター全体のエネルギー効率を改善する動きが盛んですが、その1つの方法として、これまでの交流給電に代わり、直流給電を用いようとする動きが活発化しています。
「グーグルの最新のデータセンターは非常識なほど進化している」というPublickeyのエントリが注目されていることからも明らかなように、最新最先端のデータセンターにかんするトピックは、今、IT業界で注目を集めるトピックの1つといえます。
構築よりも維持のコストをいかに削減するかがポイントとなる昨今のデータセンター事情。ブレードサーバなどの普及によってラック当たりの集積度が高まり、それとともにラック当たりの消費電力は急激に向上しています。グリーンITへの関心が高まっていることもあり、データセンター全体のエネルギー効率を改善する動きが盛んですが、その1つの方法として、これまでの交流給電に代わり、直流給電を用いようとする動きが活発化しています。
改めて説明するまでもありませんが、交流給電はエネルギー効率の悪い給電方式です。データセンターに設置される機器を直流で駆動させるメリットを一言で説明すると、「電源の変換段数の削減」であるといえます。交流方式の電源を使用する場合、電力会社から供給された交流の電力は、データセンター設備のUPS(無停電電源装置)などのバックアップ用電池に蓄電するために、いったん直流に変換され、機器に入力する前に再び交流に変換しています。プロセッサやHDDなどの部品は直流給電方式であり、ここでもう一度直流に変換されるので、変換段数は4段となります。
一方、直流給電の場合は変換段数が2段ですむため、変換ロスによるエネルギー損失を削減できるほか、発熱の抑制によって空調容量も抑制できます。これらは数多くの実証実験から証明されており、例えば、米国でEPRIが中心となって行ったデータセンターの直流化実証実験では、交流給電に比べて10%近い効率化がよいと評価されていますし、国内であればNTTグループが行った実証実験(後述)で、交流給電に比べて20%近い効率化と、一けた高い信頼性が得られるとの評価結果が得られたようです。
NTTグループの動向を注視
データセンターの直流化。国内でその流れを推進しているのが、上述したNTTグループです。NTTグループは2008年6月に「直流給電推進の取り組み方針」を打ち出しました。すでにNTTファシリティーズでは、「DC POWER」というブランドで直流48ボルト給電を展開していますが、ラック当たりの電力密度が昨今急激に上昇していることから、48ボルト給電ではやや心もとないものがあります。例えばラック当たりの消費電力を15キロワット程度と仮定すると、直流48ボルトでは300アンペアを超える電流を供給する必要があります。これだけの電流を供給するには、給電ケーブルを太くせざるを得ず、そのことで配線上の問題や冷却のための通気が妨げられる問題が生じます。
このため、NTTグループが掲げた方針では、単に直流給電を推進するだけでなく、より高効率な給電を実現する高電圧直流給電技術の開発を重点的に推進する姿勢が打ち出されています。高電圧直流給電は、既存の通信装置が利用する48ボルトの電圧よりも高い、380ボルト程度の電圧で給電を行うものです。高電圧で給電を行うため、給電ケーブルの銅断面積を数分の1から10分の1程度にまで小さくすることができ、送電効率が改善できることになります。
2009年に入ると、NTTデータが自社のデータセンターで、高電圧直流給電システムの実証実験を開始しました。これは、NTTファシリティーズとNTTデータイーエックステクノが開発を進めている高電圧直流給電システムをNTTデータの社内システムの一部に導入するというもので、この施策によりデータセンターの消費電力を最大20%程度削減することを目指しています
このように高電圧直流給電の実証実験は各国で進められていますが、現時点では、電圧などが一本化されておらず、220ボルトから550ボルトまでさまざまです。そのため、標準化あるいは規格化の動きが業界全体で急速に進みつつあるところです。
NTTグループでは、2010年度には高電圧直流給電の導入開始を目指すとしており、標準化にも積極的に働きかけていく姿勢です。今後、データセンターの利用を検討されている場合は、高電圧直流給電への対応具合も視野に入れて検討する必要が出てくるでしょう。
最先端技術や歴史に隠れたなぞをひもとくことで、知的好奇心を刺激する「日曜日の歴史探検」バックナンバーはこちらから
関連記事
- 都市鉱山とレアメタル――現代の発掘現場
わたしたちの生活に溶け込んでいるレアメタル。今、その再利用を巡って盛んに議論が交わされています。現代の鉱床はリサイクルという形で操業されていくのかもしれません。 - 銅」を超えろ――鉄系超伝導体
電子のスピードの減衰もエネルギーの減衰も発生しなくなる超伝導状態。環境エネルギーの切り札として考えられているこの超伝導に鉄系超伝導体が登場したことで、物性物理学界が盛り上がっています。 - Beyond CMOS――有機分子がシリコンを駆逐する日
トランジスタの主流を占めるシリコン系CMOS。このまま高集積化を進めることは困難になりつつあります。半導体業界が1つのコンセプトとして示している「Beyond CMOS」では、シリコンから有機分子に軸足が移っていくかもしれません。 - 鉱石ラジオ――変わらぬその魅力
20世紀初頭に登場し、日常生活に定着する前にその姿を消し去ってしまった鉱石ラジオ。鉱物の結晶を通して電磁波による通信を翻訳するというロストテクノロジーには、わたしたちが忘れかけている何かがあるかもしれません。 - モノからヒトへ――群知能ロボットの進化
精巧に人体を模倣することに成功したロボット。しかし、自律的かつ協調的に行動するには別の研究成果を活用する必要があるようです。ロボットがヒトに進化するには何が足りないのでしょうか。 - クレイトロニクスは仮想現実を超越するか
電話やファクシミリ、テレビといった発明が人類のコミュニケーションを進歩させてきましたが、ではその次は? 今回は、仮想現実や拡張現実(AR)といった技術のさらに先を行くクレイトロニクスを紹介します。 - 鉄腕アトムの歴史をつむぐ現代の技術者たち
毎週日曜に最先端の技術の今と昔をコラム形式で振り返る「日曜日の歴史探検」。セカンドシーズンは、ロボットに焦点を当てていきたいと思います。鉄腕アトムの誕生からすでに6年以上たっているって、知ってました? - ASIMOまで駆け抜けたホンダのロボット開発
ロボットマニアを自称するなら、和光基礎技術センターは欠かせない存在です。設計と製造をくり返して二足歩行のヒューマノイド型ロボットが世に送り出されるまでには、10年以上の歳月を要したのです。 - 超高層建築物は現代版「バベルの塔」となるか
摩天楼――現代に生きるわたしたちはこうした言葉からどの程度の高さをイメージするでしょうか。東京タワーの3倍以上の高さを目指して開発計画が進められている超高層建築物は現代版バベルの塔なのでしょうか。 - 1ポンドの福音とならなかった超音速旅客機「コンコルド」
コンコルド――もしかすると若い方の中にはこの飛行機を知らない方もいるかもしれません。イェーガーが破った「音の壁」を民間の旅客機ではじめて破ったコンコルドは、1機1ポンドというあり得ない価格で売られた機体でもあります。 - 「音の壁」の向こうから生還したチャック・イェーガー
1940年代、軍用機パイロットが恐れていた悪魔「音の壁」。その壁の向こうに人類ではじめてたどり着いたチャック・イェーガーは、「自分の義務を果たしただけ」と偉業を振り返る最高にダンディーな人物です。 - Xの時代――宇宙を進むスペースプレーン
レーガン大統領時代のスターウォーズ計画。子ども心にワクワクしたものですが、それらの技術はさまざまな形で具体化しています。今回は、スペースプレーンの現在と軌道力学での戦闘について考えてみます。 - 無人戦闘攻撃機「X-47B」にゴーストは宿るか
無人の戦闘攻撃機は人的被害を減らすことに貢献しますが、泥沼にはまる危険も備えています。今回は、無人戦闘攻撃機「X-47B」が登場したいきさつとその影響について考えてみたいと思います。 - 超音速“複葉翼機”の研究開発を支える流体科学とスパコン
日本SGIが先日開催した「Solution Forum '08 Autumn」のHPCセッションでは、流体科学が実生活にどのように役立っているのかを東北大学流体科学研究所の早瀬所長から語られた。超音速複葉翼機「MISORA」も紹介されるなど研究者の夢がスパコンで形となっていた。 - 到達から探査、そして有人へ――火星探査今昔物語
有人火星探査が発表されて20年がたとうとしています。映画「WALL・E/ウォーリー」さながらに火星で人類を待つ火星探査機は、後どれくらいで人類に再び会うことができるのでしょうか。 - マインドシーカーから20年目の「ブレイン・マシン・インタフェース」
生体の神経系と、外部の情報機器の間で情報空間を共有するためのインタフェースである「ブレイン・マシン・インタフェース」(BMI)。いつまでも空想の世界だと思っていると、現実に驚くかもしれません。 - 日曜日の歴史探検:宇宙に飛び出す高専生のピギーバック衛星
子どものころロケット花火が好きだった方であれば、宇宙やロケット、そして人工衛星にひそかな興味を持ち続けているかもしれません。H-IIAロケット15号機のピギーバック衛星として高専生が製作した「KKS-1」、通称「輝汐」は若い力が詰まっています。 - 日曜日の歴史探検:GUI革命を先導している男と先導しかけた「alto」
「マウスでアイコンをクリック」――今でこそ理解できる言葉ですが、それは、1人の男の長く続く革命の成果でもあるのです。1973年に開発された「alto」はその後多くの伝道師を生み出すことになります。 - 日曜日の歴史探検:海の底にロマンを求めたトリエステ号
これまでに到達した人類の数は、月に到達した人数より少ない――そんな場所がこの地球にも残っています。今回は、約50年前にトリエステ号が挑んだ有人深海探査を紹介しましょう。 - 日曜日の歴史探検:世界各地の巨大な風車が示すもの
何十基もの巨大な風車がぐるぐると回る姿は荘厳です。世界中では再生可能エネルギーのうち、風力発電がコスト的にこなれてきたこともあって普及期に入っています。キープレーヤーの変化もはじまっていますが、日本では……。 - 日曜日の歴史探検:2010年、自律走行車は建機から
無人・完全自律走行は、普通乗用車ではなく、ダンプトラックなどの建機で先に実現されそうです。巨大な鉄のかたまりが無人で動く世界にわたしたちは何か異質なものを感じるかもしれません。 - 日曜日の歴史探検:ようやく蒸気から電磁へ変わらんとするカタパルト
空母から航空機を大空に打ち上げるのに使うカタパルトは蒸気から電磁へと変わろうとしています。甲板に立ちこめる蒸気、という映画のワンシーンも昔話として語られる日が近そうです。 - 日曜日の歴史探検:AndroidはZaurusにまたがるか
15年近くの長きにわたってビジネスマンや玄人開発者に愛されてきたシャープのZaurusが生産を停止していたことが明らかとなった。この間、シャープは何を得て、次に何をしようとしているのかを考えます。 - 日曜日の歴史探検:LZWに震え上がった10年前の人たち
温故知新――過去の出来事は時を越えて現代のわたしたちにさまざまな知恵を与えてくれる。この連載では、日曜日に読みたい歴史コンテンツをお届けします。今回は、GIFファイルの運命に大きな影響を与えたLZW特許について振り返ってみましょう。 - 日曜日の歴史探検:“キー坊”にならなかったHappy Hacking Keyboard
キーボードにある「Scr Lock」キー。何のために使うか知ってます? 必要最小限のキーとキーバインドで最大の効果を得ようとした男が15年ほど前のキーボード業界を大きく揺るがしました。今回は、キーボードの未来を切り開いた男、和田英一の物語です。 - 日曜日の歴史探検:「しまったー♪」が頭の中で1日中ループしていた10年前
9万9800円という価格を印象づけたCMが10年ほど前にお茶の間をにぎわせました。そう。オペラ調に「しまったー」と始まるアレです。今回は10年ほど前のソーテックを見てみましょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.