エネファーム、覚えておきたい3大勢力:日曜日の歴史探検
家庭用燃料電池、統一名称「エネファーム」が普及へのステップに入っています。この業界の3大勢力はそれぞれの強みを生かし、この勝負に取り組んでいます。今回は、エネファームの勢力図についてみてみましょう。
家庭用燃料電池、統一名称「エネファーム」が普及へのステップに入っています。エネファームの登場した背景とその仕組みについては「エネファームは何がすごいのか」を参照いただくとして、今回は、各社の動向を簡単に紹介したいと思います。
燃料電池(FC)は作動温度が低い順から固体高分子形(PEFC)、リン酸形(PAFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)、固体酸化物形(SOFC)の4タイプが開発されています。このうち作動温度が60度程度のPEFCは、家庭用で日本が世界に先駆けての実用化に入りました。
エネファームのベンダーは現在のところ、パナソニック、ENEOSセルテック、そして東芝燃料電池システムの3社がしのぎを削っているのは前回もお伝えしたとおりです。このほかのベンダーとして、実証段階で試作機を作ったものの、商品化のめどが立たず、SOFCでの商品化に戦略を切り替えつつあるトヨタ自動車/アイシン精機の勢力や、商業化に踏み切る直前になってFC事業からの撤退を決定した荏原バラードなどのプレイヤーもいますが、現在、家庭用FCの事業化に乗り出したベンダーは上述の3社だけといってよいでしょう。すでに各ベンダーとも実用化開発を開始して10数年の歴史を持っており、それぞれに特徴があります。
高い総合効率を実現するパナソニック
パナソニックは1999年にFCラボを発足させ、その後FC事業開発部(2001年発足)、事業化プロジェクト(2003年発足)と全社プロジェクトとしてFC事業を展開してきました。同社の2009年機種では発電効率38%、排熱回収効率55%、総合効率では93%と高い性能が出ており、これが同社の強みとなっています。同社は東京ガスとパートナーを組んで開発を展開していますが、この高効率は、高効率給湯器でオール家電を普及させてきている電力会社には強いプレッシャーとなっているようです。なお、荏原バラードの撤退により、東京ガス向けに荏原バラードが提供する予定だった分もパナソニックが引き受けることになっています。
同社の今後の大きな課題は、やはり小型化と低コスト化です。現在、同社のFCのコスト構成比はスタックに30%、FPS(改質機)に30%、貯湯タンクに30%程度と思われます。貯湯タンクには今後あまり技術的な進化の余地がないと思われるため、今後、貯湯タンクのコストがに占める比率が大きくなってくることが予想されます。共通モジュール化した製造法などでタンク部分のコストを下げていく努力が続けられるでしょう。なお、同社は出荷段階で100万円を切る水準の第2世代機を2012年にリリースする予定となっています。
実績と生産能力を誇るENEOSセルテック
システムの開発/企画/管理、生産を三洋東京マニュファクチャリングに委託、スタック開発とシステム販売は自社で手掛ける形で事業化した新日本石油も1986年から開発を進めてきました。同社はその後、三洋電機とFC事業で提携し、2008年4月合併会社「ENEOSセルテック」を設立し強化を図っています。
同社の強みはその実績。大規模実証で全体の40%を設置した実績をベースに、LPG改質で35%、排熱回収効率50%のシステムを導入する構えです。また、都市ガス改質システムや灯油改質システムも製品ラインに計画しており、幅広い製品ラインで需要に応える姿勢です。
販売は新日本石油と10月に統合予定のジャパンエナジーおよびコスモ石油にOEM供給する予定となっており、生産能力は、2015年までに現在の1万台から4万台へ拡充することを目指しています。設備投資の積極性に注目したいところです。
コストダウンに自信をみせる東芝燃料電池システム
3社の中で最もコストダウンが進んでいるのが東芝燃料電池システムです。同社は1980年代末からPEFCを開発。米ユナイテッド・テクノロジーズ(UTC)とは現在も相互技術ライセンス契約を結んでおり、PAFCからの開発と合わせて30年に及ぶFC開発の成果がPEFCに現れています。
2000年以来改良を加えてきたシステムはすでに10代目のモデルとなっていますが、現在の最大のテーマはコストダウン。効率競争からコストダウン競争にシフトし、開発を進めています。その成果は顕著で、2005年モデルと比べて、最新機種では3分の1以下のコストダウンに成功しており、FCベンダーで最も低コストを実現した機器の生産につながっています。今後量産体制が整えばさらにコスト削減が見込めるため、安価なFCを求めるユーザーからの注目を集めそうです。
PEFCは普及のフェーズに入りましたが、家庭用FCを普及させていく鍵は、そのコストにあります。現在の設置コストは300万円程度で、この価格をまずは100万円台まで下げ、最終的には50万円台に引き下げていく絵を各ベンダーが描いています。今後各社ともどう量産体制に持っていくかが課題となっており、各社の手腕が注目されます。
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