連載
» 2001年12月01日 12時00分 公開

TOC導入のポイントTOC──全体最適による業務改革戦略ガイド(3)(1/2 ページ)

[竹之内隆,@IT]

<今回の内容>

  • スループット会計に根差す管理指標の適用
  • TOC、JIT、SCM──敵か味方か?
  • 各担当者へのアドバイス


 前回(「制約を解決するSCMソフトと思考プロセス」)は、どこに着目し、どこから改革に着手すべきかに関して、まずは制約条件をとらえることからスタートするという点に触れた。制約条件が物理的な制約と方針制約のような企業組織に根差す問題に分かれること、および物理的な制約であればSCMソフトなどで特定し一気に解消されるが、企業組織に根差した方針制約は取り扱いが難しいという点も指摘した。企業のトップ層でさえ全体最適な観点から施策を打ち出しているかといえば、必ずしもそうではないケースが散見される。こうした場合、思考プロセスを適用してプロジェクトメンバー全員でブレークスルーする必要がある。

スループット会計に根差す管理指標の適用

市場に機敏に対応した生産の必然性

 第1回の中で従来のコスト管理の世界では前提条件として、各部門、工程を個別指標に基づいた改善をすれば企業全体の収益性が改善するし、各製品の標準原価を下げると企業のトータルコストは減るという考え方にあるが、その前提は事実無根であると指摘した。そこでの代表的な指標として以下のような例を紹介した。

コスト管理の世界の指標

  • 設備稼働率=稼働時間/操業時間
  • 標準原価=資材費+作業時間×ローディング
  • 時間当たり生産高=生産高(加工高)/操業時間


 これまで製造業に属する多くの企業が、その方針の筆頭に「品質第一」という標語を掲げていた。わが国の製造業で品質、原価、納期をうたわない企業はないくらいだった。そこには「良いものを作れば必ず売れる」という確信があった。しかし、現在のデフレ経済下ではいかがなものであろう。

 企業側で企画した製品を大量生産して、「安く」「速く」供給するというコンセプトは近年の大手スーパーの蹉跌からも実態を読み取れるのではないだろうか。いまでは大量生産・多量消費の拡大再生産サイクルは、わが国経済の一昔前の実態になってしまったといえる。

 さらに、消費は二極化しているように思われる。し好品はメディアの影響から一過性のブームが起きると途方もないピーク性を持ち、短期間で驚くほどの消費を喚起する。しかし、そうした製品でも極めて短期間しか受け入れられない。それは、例えば有名なミュージシャンのCDの消費行動に代表されるだろう。たった1カ月間ほどで数百万枚が購入されるが、翌月からはピッタリとその売り上げは止まるのである。良くも悪くもメディアの発展は、個人の消費行動に影響を与えている。

 その一方で、個人や個々の企業の欲求にピッタリ合う製品・サービスが購入される傾向もある。いわゆるカスタムメードへの流れである。自分にピッタリの洋服や靴は、少々高価であっても売れている。PCもインターネットから自分で仕様を選定して購入することが当たり前になった。HDDが××GbytesでCPUは××MHzのPCを自分の好みで選択し、少し急いで配達してもらうか、ゆっくりと船便で送ってもらうかまで決めることができ、それによって購入単価も個人によって変わってくる仕組みだ。

 前者は販促イベント・広告に多額の予算を投じてテレビ、新聞、雑誌という旧式のメディアからインターネット、iモードなどのニューメディアに至るまで一斉に告知し、マルチメディアを利用しつつ、段階を追った情報漏えいによる消費者の扇動を行う。じらしつつ、発売直前に消費者の関心のピークを持っていくのである。

 後者は購入者の希望を製品に取り込むことで「自分だけの××」という一種の満足感を誘い水にする。

 いずれも、売れるものをいち早く生産し供給することが、現代のサプライチェーンのポイントになっている。タイミングを外したローコスト生産は無意味なのである。

 こうした経済環境下で品質、原価、納期をどれほど管理していても、“在庫”になってしまえば意味のないことはお分かりいただけるであろう。いかにコストを下げても、高品質であっても、それが売れないモノを作るための努力であれば意味はないのである。

マインドウェアの導入

 わが国の製造業関係者にはTQC経験から、コストダウンの信奉者が圧倒的である。そこでの問題は「製販コントロール」「製販統合」「サプライチェーン・マネジメント」という売りに結び付く改革という視点が具体化されずに、「できる部分から着手する」という旧式の改善活動になってしまうことにある。これは方針制約であり、行動制約という信念に近い、マインドウェアの変換が第一義的に重要だということを示唆している。

 TOCでは、売れるものを売れる順番で製造し、しかもスループットという変動費利益を把握し、これを制約工程の占有時間当たりで評価する。制約工程の時間当たりスループットで製品を評価することで、販売戦略と生産を結び付けようとしている。

製品ROA= Σt〔(売価−材料費)×販売数量〕−Σt〔コストをa に応じて配賦〕
総資産×Σt(a÷z)×(t÷1年)
t=対象期間、a=製品Aを生産するために使用した時間、z=設備を使用した時間の総和

 すなわち、製品の実売粗利{(実売単価×数量)?資材費}と生産効率を両にらみで最適化することで売れるモノへ生産設備・人員という資源を集中投資するよう現実的に促す指標の提供を狙う。

 営業部門はしゃにむに商談に走り、低粗利でもビッグディールを狙うが、生産部門はまったく別世界で大量生産による原価削減という在庫の積み増しを行う。──これでは大口商談の欲しい製品の納期は危うく、かつ生産部門は商談の優先順位とは別の評価指標で生産活動をコントロールしてしまう。企業サプライチェーンとしてはぶつ切りで、1+1が2にさえなれない。製販コントロール、製販統合、サプライチェーン・マネジメントを実現するための管理指標(KPIとも呼ばれる)は以下のようになる。

ALT 製版コントロール、製版統合、SCM実現の管理指標(KPI)

 製品別、製品群別に売り上げとスループットをとらえることに加えて、地域・仕向け地ごとに同様の売り上げ、スループットを把握することで販売計画と施策策定の前提をそろえる。加えて、販売計画の対象製品を作るのにどの程度の制約工程を占有してしまうかを時間で測定する。これによって時間当たりのスループットが測定される。

■スループット/製造所要時間

 売りやすく(成果が出ている)、作りやすい製品を特定することで、チャネル横展開や設計に工夫をしやすくする。さらに売る計画、販売の意思に対して在庫を完成品、仕掛品を引き当てて売る順番に棚卸資産をキャッシュ化していく。

■販売計画(需要予測)/棚卸(製品在庫・部品在庫)

これが毎週の製販コントロールに活かされて、結果的に販売活動に生産活動がシンクロする製販統合に結び付くのである。



 ここで指摘してきたわが国の企業の根本的な問題は、マインドウェアの変換という方針制約、行動制約に起因することから、TOC思考プロセスからプロジェクトをスタートすることが求められる

 過去を支えてきた信念であるコストダウン、工程改善と、新たな全体最適化の葛藤はたとえようのないほどのもので、厳しいやり取りが繰り広げられる。

 参加する役員、プロジェクトメンバーは全員が信念を持っているのだから、当たり前ではあるが真剣な討論である。そしてその熱の入る方向は「TOCや製販コントロール、製販統合、サプライチェーン・マネジメントという概念は非現実的である」とか、「自社には不適合な概念である」などと否定的に見られがちである。しかしながら、従来の改善思考ではデフレ経済を乗り切るのは不可能なことに気が付いてもいるのである。

 具体的かつ現実的なやり方とは、「現状のできるところから改善を……」ではないことにやがて全員が気付く。自覚された問題の構造は、解決策を求めて苛立ちをエスカレートさせる。ここで全員参加のブレークスルーアイデアを求めて対立解消図を利用したり、ブレーンストーミングを行ったりすることが通常となる。問題構造を逆転するビジネスモデルの糸口や、製販コントロールの仕組みのアイデアを抽出することがポイントである。

 一般的には、コンピュータシステムを導入することで、いきなり解決するほど問題の構造が明確化されていないケースが99%以上である。同様に現状では、TOCへの理解も信頼もほぼゼロからのスタートがほとんどである。

 わが国では、製造業を筆頭にTQC(Total Quality Control)に代表される改善活動にはなじみがあるのだが、TOCというとまだまだ新参者で理解者は少数派なのだ。とはいえ、TOC思考プロセスは新QC七つ道具の問題点連関図に非常によく似ており、進め方によっては受け入れられやすいのではないかとも考えている。われわれはコンサルティングのスタート時点で思考プロセスを利用している。

TOC、JIT、SCM──敵か味方か?

 TOCをご存じなくても“JIT”(Just In Time)は身近な言葉になっていることであろう。もともとJITは低成長化においても無駄を徹底的に排除し、利益を最大化するためにコスト管理、品質管理、数量管理、工程管理の諸手段を体系化したものといえる。どちらかといえば「目で見る管理、実物管理」を標ぼうし、ソフトウェアというよりは設備思想の強い改善の体系と解釈できる。

 また、サプライチェーン・マネジメント(SCM)も近年ではなじみの言葉・概念になってきている。SCMは、JITとは逆に計画志向で、IT利用を全面に打ち出している。また、工場中心ではなく製版統合やBtoBという企業間関係を対象にサプライチェーンを形成しつつ、企業価値最大化を狙う。では、TOC、JIT、SCMは相いれない概念なのだろうか?

ALT TOC、JIT、SCMの関係性は──

SCMの方法論としてのTOC、JIT

 SCMは企業価値最大化のためにIT技術を徹底活用することで顧客から原材料までのモノの流れを情報の力で制御し、需要変動に最適な供給を実現しようというマネジメント手法である。前述したが、SCMを実現するためにはソフトウェアを適用する前に、問題の構造を共有化しなければあぶはち取らずになりかねない。

 ここにおいてTOC思考プロセスが有効である。また、ソフトウェアを適用するだけで現実の生産工程はそのままでは何も改善されない。従って、TOC 5ステップを適用したり、JIT改善によるハード改善を適用したりすることで初めてサプライチェーンは高次元に移行できる。

 もう少し、例を挙げて解説しよう。

 最近では、JIT改善に集中する工場関係者が増えている。他方で本社を中心にSCMプロジェクトを立ち上げるケースが多く見受けられる。JITとSCMは実際には両立するのだが、対立すると誤解されている場合がある。

 ある自動車部品メーカーがその典型例だった。工場はJITと称してセル生産を導入していた。仕掛かり削減のために部品配膳の仕組みを改めたり、コンベヤーラインをU字ラインに変更したりして流れ生産を実現しようとしていた。

 そこへ本社サイドからサプライチェーン・マネジメントと称してプロジェクトが立ち上がった。工場関係者はちゅうちょしたが、SCMのほうは様子を見ながらJITを継続することにした。コンサルタントとして参加した私(筆者)は工場関係者に次のように伝えた。

 「冷静に考えると工程バラシからU字ラインへの機械設備のレイアウト変更や段取り時間の短縮、多能工育成は小ロット化への前提作りでもあり、作業者数の少人化(弾力化)につながるので、SCMで推進する需要の変化に弾力的に対応する生産・供給体制の基礎になる。JITでは引き取りカンバンないしは生産指示カンバンを製造着手のトリガーに使用するが、これをすべての工程連鎖に使用できるかといえば、見込み生産と受注生産が混在する工場では完全なカンバン運用はできない。そこでSCMソフトとJITの連動が効果的な運用を生み出すのである。SCMソフトはサプライチェーン全体に時間軸を提供する。いつからいつまでに、どの部品と設備を使用して何を加工・組み立てなければいけないかを明確化する。まさに分秒単位で設備能力にかなった実施可能な計画を指示していく。これに沿って工程はカンバンで運用することが可能である。部品の手配や出庫指示も同様にSCMソフトの指示が時間軸を提供してくれる」

 SCMではしばしば週次コントロールを標ぼうするが、JITとどのように連携してよいかが分からずに対立するケースもあるようだ。これもMRPに代表されるSCMソフトのタイムバケットを週次+日次にすれば事なきを得るはずである。SCM、JITの相乗効果を上げることができるわけである。

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