TOC導入のポイントTOC──全体最適による業務改革戦略ガイド(3)(2/2 ページ)

» 2001年12月01日 12時00分 公開
[竹之内隆,@IT]
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各担当者へのアドバイス

 ここで企業組織内の工場生産関連部門/物流部門/営業・マーケティング部門/情報システム(SE)の方々にアドバイスを提供して筆をおきたいと思う。

 まずはすべての方々に共通していえることだが、「プロジェクト・マネジメント」および“SCM”に関する教育や参考文献やミーティングを通じて、他部門との相乗効果を上げていく創造活動を効率よく確実に推進するすべを身に付けてほしい。SCMについてはソフトウェアの持つ機能についても、各ベンダーの協力を得て正しく把握しよう。

 また、SCMは製造・販売・物流と異なるバックボーンを持つ組織が協働するので、第三者の中立的な参画も有効な推進方法といえる。コンサルタントを有効活用しよう。

工場の生産関連部門の方々へのアドバイス

[1]プロジェクト目的を真摯に理解すること。

  • 企業価値を高めるために在庫削減やトータルリードタイムを削減するのであって、削減そのものは手段でしかない。これを自己目的化してはならない。生産関連部門は改善慣れしているがクローズした組織での目標達成に向けての活動が多く、他部署とのかかわりの中で最適化を推進することには慣れていない。要注意である。削減そのものは手段でしかない。これを自己目的化してはならない。生産関連部門は改善慣れしているがクローズした組織での目標達成に向けての活動が多く、他部署とのかかわりの中で最適化を推進することには慣れていない。要注意である。
  • 営業部門への不信感からJIT活動を隠れみのにするタイプの発言が見られることも多い。「小ロット化と段取り短縮をしなければSCMは機能しないのだから、工場はJIT専念でよいはず」といったたぐいの発言はこのデフレ経済下では、会社を破綻させかねない思想であることを強調しておきたい。

[2]SCMソフトの機能を実機ベースで確認し、自社の供給プロセスにおける適用可能性を評価すること。

  • 工場生産関連関係者は、一般に情報システム部門に対して要求は出すが、実現はソフト部門の仕事であると「主客二元論」に立つ傾向にある。現実の作業では、パッケージ化されたSCMソフトを利用することが多く、開発作業よりは業務適用を検討する工数が大半になる。情報システム部門の工数よりは、現業部門が主体的にソフト選定からプロトタイピングまでを推進する気概が必要といえる。開発作業よりは業務適用を検討する工数が大半になる。情報システム部門の工数よりは、現業部門が主体的にソフト選定からプロトタイピングまでを推進する気概が必要といえる。

[3]JIT適用を中途半端にせずに徹底的に実践すること。

  • 繰り返しになるがJITはSCMの前提になる。形式的なJIT化ではなく本質的なJIT改善を真摯に推進してほしい。

物流部門の方々へのアドバイス

[1]単純な保管・配送効率の見直しではなく、ビジネスモデルを再考する観点が必要である。

  • 物流センターの統廃合検討はいわずもがなで、ほかにも営業活動の中に納品時点での現地調整活動などが存在するときは、庫内加工の一種として現地調整プロセスを集約化するなどの検討が必須である。
  • SCMで海外工場との関係を含めたプロジェクトになると、週次化の制約条件が輸入プロセスであるケースが多くなる。船上在庫期間が長過ぎるという議論である。この際に、需要予測から期間契約の航空便が採算に乗らないか、国内の安全在庫水準を変更することで対応できないかなど、多角的な検討が必須である。

営業・マーケティング部門の方々へのアドバイス

[1]一般に販売計画の精度を議論されることが苦痛を伴うので営業部門の方々は、SCMには他部門の努力を要求し、情報部門は現状維持を主張しがちである。特に海外REP(代理店)の在庫動向をシステムの不備で把握できないという発言が散見されるが、手段はFAXであれ何であれ、まずは在庫動向と販売情報を把握することに注力してほしい。

情報システム(SE)担当の方々へのアドバイス

[1]高機能のSCMソフトを見ると万能に思えるが、導入に関してはビジネスモデルの再考からであることを再認識してほしい。

  • 情報システム部門の人間は、SCMパッケージの高機能ぶりを見ると、システムを土台に議論を推進したほうが現実的と判断しがちである。しかし、一社として同じサプライチェーンはない。基本はTOC思考プロセスから入って、ビジネスモデルを再考することからのスタートである。バリュー創造ポイントにSCM高機能ソフトを適用すると効果的であろう。一社として同じサプライチェーンはない。基本はTOC思考プロセスから入って、ビジネスモデルを再考することからのスタートである。バリュー創造ポイントにSCM高機能ソフトを適用すると効果的であろう。

[2]システムインターフェイスおよびSCMの基礎データの蓄積(DBの整備)が前提である。

  • SCMシステムはそれ自体にマスタDBを持つよりは、基幹システムからデータを受理して処理するアーキテクチャになることが通常である。インターフェイス開発の議論の30%近くを占めることは覚悟されたい。また、SCMの前提になる基礎データの蓄積があまりにも不完全なら、ERPのような基幹システムの整備を優先すべきである。インターフェイス開発の議論の30%近くを占めることは覚悟されたい。また、SCMの前提になる基礎データの蓄積があまりにも不完全なら、ERPのような基幹システムの整備を優先すべきである。

 手前みそではあるがシーアイエスのホームページではITに関する基礎を解説している。またSCM、TOCの事例も掲載している。ご一読願いたい。参考文献は以下を参照されたい。

SCM サプライチェーン経営革命

福島美明著

日本経済新聞

1998年9月

ISBN4-532-14684-4

1600円+税

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TOC戦略マネジメント

竹之内隆、加藤治彦、村上悟著

日本能率協会マネジメントセンター

1999年4月

ISBN4-8207-1419-8

2500円+税

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計画の科学

加藤昭吉著

講談社ブルーバックス(B-35)

1965年4月

ISBN4-06-117635-8

820円+税




本連載は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。


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Profile

竹之内 隆(たけのうち たかし)

シーアイエス株式会社 取締役。日本の製造業、総合商社でサプライチェーンマネジメントおよびERP(統合業務情報システム)の構築を軸としたコンサルティングに実績がある。立石電機、産能大学経営コンサルティングセンター研究員、日本総研 上席主任研究員を経て、1999年から現職。

1997年4月から1999年3月まで経営情報学会「変わりつづける組織分科会」研究部会長を務める。APICS:American Production and Inventory Control Society(アメリカ生産管理・在庫管理学会)の正会員。オペレーションズリサーチ学会、スケジューリング学会会員。

著書に「TOC戦略マネジメント」(能率協会マネジメントセンター 1999年4月)、「TOCハンドブック」(日刊工業新聞社 2000年6月)などがある。

現在、シーアイエス(株)で「プロジェクト管理者養成コース」「サプライチェーンプランナー養成コース」「キャッシュフローマネジメントコース」の講師をも担当。当記事の内容は、「サプライチェーンプランナー養成コース」で学ぶことができる。

シーアイエス株式会社

エンドユーザーの経営改革を支援するためのIT戦略の立案から先端システムの開発・導入、さらに全社的なビジネスプロセスの改革まで、幅広いシステムコンサルティング事業を手がける。1988年の創業以来、IT戦略コンサルティングに加え、サプライチェーンやCRM(営業支援)を中心とする基幹ソリューションの提供、ならびにグループウェアを中心とするネットワーク製品群の自社開発を通じて、現在進行しつつある「IT革命」を顧客企業において先導してきた。また、IT教育分野においても、「Knowledge Transfer」の実現を理念に掲げ、専門のトレーニングセンター『Knowledge Academy』を持ち、IT技術者の育成やエンドユーザーの情報リテラシー教育など、多岐にわたる教育サービスを提供している。1999年、マイクロソフト社との包括的事業提携を行い、日本企業としては初めて米国マイクロソフトより20%相当の出資を受けた。

ホームページ:http://www.cis.co.jp/


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