第4章 映画・小売に見るデータマイニング導入手順の実例マーケターのためのデータマイニング講座(2/2 ページ)

» 2002年02月08日 12時00分 公開
[田畑殖之, 木暮大輔,エス・ピー・エス・エス株式会社]
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 2つ目は、海外での事例です。

 CRISP-DMのモデリングまでのステップで得られたデータマイニングの成果が、実践の場面でいかに応用されているかという、展開のステップを中心とした考察です。

2.Todd & Holland社 事例

 Todd & Holland社は米国イリノイ州に本社を構え、世界中のお茶と道具を専門に扱う小売店です。ここではSPSS社によりCRISP-DMに沿ってのコンサルティングが行われ、そのプロセスを標準化し、得られた結果を展開するためのシステムが導入されています。つまり、データマイニングを核とした、CRMがシステムとしてすでに具現化されているわけです。

 ここであらためてCRMの定義を引くと(第1章記事参照)、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)とは、顧客との関係を長期的に改善、維持することにより企業の収益を最大化するという経営戦略です。これをシステマティックに展開するには、顧客とのすべての接点(タッチポイント)から得られる情報を一括管理し、これを利用して顧客とのコミュニケーションを円滑にすることで、良好な関係を築いていこうというわけです。

 Todd & Holland 社では、オンラインショップ、店舗、コールセンター、マーケティングキャンペーンの主に4つのタッチポイントで顧客とのコミュニケーションを取っています。以下ではそれぞれの接点別にデータマイニングがどのように展開されているかを見ていきます。

オンラインショップでの取り組み

 最初に、オンラインショップでの取り組みを紹介します。Todd & Holland社のWebサイトでは、商品の詳細情報を掲示することによって顧客とのコミュニケーションを取っていましたが、これではサイトを訪れたすべての顧客に対して同じメッセージが表示されているわけで、ここの顧客に適切な対応がされているとは必ずしもいい難い状況でした。

 そこで、オンラインショップの部分にレコメンデーション機能を導入することにより、顧客との効率的なコミュニケーションを図り、結果として収益を増加させることがビジネスの目的として掲げられました。レコメンデーション機能とは、例えば顧客がアールグレー茶を購入するために買い物籠(かご)に入れるボタンをクリックするといったアクションを起こすことにより、同時に購入された実績の高い(併買確率の高い)商品群を推奨することをいいます。

 この機能により、顧客はあたかも店で店員から、自分が購入した特定の商品に関係のある別の商品の情報を受けていることになり、満足度の向上につながります。Todd & Holland社としては、購入を決定した顧客に適切なタイミングで適切な情報を提供することになり、効率的にクロスセルのチャンスを生かすことができるわけです。

実店舗でのレコメンデーション

 第2のタッチポイントは、店舗です。Todd & Holland社すべての店舗でFSPのシステムが導入されていて、ロイヤルティ・カードの会員については、いつだれが何をいくらで購入したかがデータとして残る仕組みになっています。また、レジにはキオスク端末が設置されていて、ここでオンラインショップ同様レコメンデーションが行われます。

 ロイヤルティ・カードを持っている顧客には、購入履歴、属性を踏まえたレコメンデーションが、非会員には併買確率の高い商品群がキオスク端末に表示され、店員から顧客へ口頭で、推奨商品の紹介が行われます。

コールセンターの改善

 第3のタッチポイントは、コールセンターです。ここでは、顧客リストに従って電話での積極的な販売が行われています。

 ここで顧客との良好な関係を築くために重要なことは、適切な商品を適切なメッセージで適切なターゲットに伝えることです。データマイニングによって、販売を行う商品に対しての顧客ごとの購入確率を算出し、スコアの高い顧客のみ抽出したリストを使い、上から順に販売を行っていくのです。さらに顧客はあらかじめセグメント分けされており、どのようなライフスタイルや購買パターンを持つグループに属するかが分かっているため、何が適切なメッセージであるかも推測できるのです。

 Todd & Holland社ではCTIを導入し、オペレータがPC画面上の顧客リストで名前をクリックするだけで自動発信され、顧客に語りかけるメッセージが表示されるシステムになっています。データマイニングとCTIが連動され、コールセンターでの営業効率が向上しただけでなく、不要なものを不適切なメッセージで押し売りする結果になってしまうということが少なくなり、良好な関係の構築という元来の目的が見事に達成されることになりました。

効果的なキャンペーンの実現

 第4のタッチポイントは、キャンペーンです。ここでいうキャンペーンとは、顧客との接点を持つために行われる一時的なイベントのことをいいます。

 例えばTodd & Holland社では、入荷したての新鮮な茶葉のセールスプロモーションとして、DMによるキャンペーンを行っています。

 また、新たに市場に登場するような新商品については、テストマーケティングを行っています。 そこで得られた反応と顧客の属性や購入履歴の関係をマイニングし、ターゲットとする顧客を予測してリストを作成するのです。

 コールセンターでの例と同様に、適切なセグメントに対して適切なメッセージを添えてDMが発信されます。さらに、既存商品についてはキャンペーン・マネージメントが行われており、過去の同様なキャンペーンへの反応に関する情報を加えてデータマイニング(モデリング)を行い、購入確率の予測精度を飛躍的に向上させています。


 今回ご紹介した2つのデータマイニング事例はマーケティング分野における活用ということで取り上げましたが、今日においてはさまざまな業種、業態で採用、活用の実績があります。今日の厳しいビジネス状況を勝ち抜くための必須手段であるという認識が浸透しているゆえんであるといえます。

 前章でも若干触れましたが、データマイングにおける日本企業の今後の課題は、データを日々、管理・運用しているシステム部門と、分析業務を担う部門との融合です。データマイニングを行いやすく、戦略立案がタイムリーにそして的確で確固たる裏付けをもって行える、そんな組織を作ることが必要なのです。


連載記事の内容について、ご質問がある方は<@IT Business Computing会議室>へどうぞ。


Profile

田畑 殖之(たばた しげゆき)

SPSS ビジネスインテリジェンス事業部プロフェッショナルサービスグループ

大学卒業後、システム・インテグレータ企業にて、システム・プログラマとして、主に金融系企業でのシステム構築に携わる。その後、外資系IT企業にてシステム・パフォーマンス・アナリストを10年以上経験。IT関連プロジェクトの立ち上げやマネージメントを数多く手掛ける。2001年4月より現職。

木暮 大輔(こぐれ だいすけ)

SPSS ビジネスインテリジェンス事業部プロフェッショナルサービスグループ シニアコンサルタント

ニューヨーク市立大学大学院社会調査プログラムで、マーケティングリサーチ、統計解析を学ぶ。1997年よりSPSSにてテクニカルサポートを担当。その後、製品教育プログラムのデザインやコンサルティング教育を数多く手掛け、2001年4月より現職に至る。

エス・ピー・エス・エス株式会社

米国SPSS Inc.の日本法人として1988年に設立。設立以来、統計解析ツールSPSSを中心とした製品群と、関連サービスを提供。CRMなどの分野を中心にデータマイニングが注目される中、1999年5月、データマイニングツールClementineを発売。国内データマイニング分野では、最大級のユーザー数を誇る。2001年からは、データマイニングプロジェクトの標準であるCRISP-DMに沿ったコンサルティングサービスの提供など、顧客のビジネスを成功に導くソリューションを提供している。

代表取締役:イアン・スタンレイ・デュエル

東京都渋谷区広尾1-1-39

ホームページ:http://www.spss.co.jp/


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