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» 2002年05月14日 12時00分 公開

ミドルサイズERP大研究(1):中堅・中小企業にとってのERPの意味と効用

近年、中堅・中小企業においてERP(Enterprise Resource Planning)の導入が盛んだという。これまで「欧米生まれのERPは日本の企業に合わない」などといわれ、普及がなかなか進まなかったが、なぜいま導入されようとしているのか。その背景とトレンドを見てみよう

[小林 秀雄,@IT]

大企業に引けを取らないERP導入率

 ERPパッケージといえば、大規模なシステムであり、大手企業が導入するものというイメージがある。導入費用も数億円というレベルになる。事実、SAPのR/3やオラクルのE-Business Suiteなど、有力なERPパッケージを導入している企業の多くは大企業である。だが、実は大企業と中堅・中小企業のERPパッケージ導入率には、思われているほどの差がないのだ。

 ERPの普及に取り組んでいるERP研究推進フォーラムの「企業アプリケーション・システムの導入状況に関する調査」(2001年7月)に、従業員の規模別ERPパッケージ導入率の調査結果が掲載されている。それによると、ERPパッケージを「導入済み」とした回答と、「利用範囲を拡大中」という回答を合計したERP導入企業は、従業員1000人超の企業で16.9%、300人以上1000人未満の企業では11.8%という結果が示されている。企業の規模で導入率に差があるのは事実だが、中堅企業もERPの導入を意欲的に推進しているといえる。

 一方、矢野経済研究所が実施した調査では、中堅企業(年商100〜500億円)のERPパッケージ導入率は20.5%で、中小企業(年商50〜100億円)は19.6%と、中堅企業と中小企業のERPパッケージ導入率はほとんど差がないという結果が出ている(「2001年中堅・中小企業におけるERPパッケージの導入実態調査」)。

中堅・中小企業のERP導入率。中堅企業:年商100〜500億円の製造業・流通サービス業/中小企業:年商50〜100億円の製造業・流通サービス業(「2001年中堅・中小企業におけるERPパッケージの導入実態調査」矢野総合研究所 2001年6月14日より)

 この2つの調査を見ると、大企業がERP導入をけん引しているのだが、ERP導入に対して中堅・中小企業も大企業に引けを取らないことが浮かび上がってくる。

コックピット経営の基盤に

 中堅企業が(中小企業も)ERPを導入する背景には、SCM(Supply Chain Management)の広がりがある。例えば、大手のセット・メーカーに連なる部品メーカーは、セット・メーカーと生産計画に関する情報を共有し、部品の適正生産を行っているわけだが、そのサイクルがどんどん短くなってきている。そこで、部品メーカーも部品在庫や部材の手当てなどに関する情報を精緻に把握することが求められる。それを実現するためには、Web-EDIなど受発注システムの整備にとどまらず、自社の経営資源を統合的に管理するツールが必要になる。ERPが求められるゆえんである。

大手企業が推進するSCMは、パートナー企業とのビジネス・プロセスの統合を求めてくる。そのバリューチェーンに参加するためには、中堅・中小企業といえども、基盤システムの整備が必須となる

 大手企業の要請によるSCMの推進、そして資源の統合管理のほかにも、ビジネスを革新したいという経営者の思いもERP導入へと進ませる。コックピット経営あるいはリアルタイム経営という言葉は大企業のものだけではない。中堅・中小の企業経営者からも聞かれるのである。

 コックピット経営とは、飛行に関するあらゆる情報をモニタリングする計器をウオッチしながら航空機を制御するパイロットのように、経営に関する情報のすべてを把握し、状況に応じて素早く経営の進路を転換する経営手法のことである。コックピット経営は、リアルタイム経営の前提でもある。

 コックピット経営を実現するためには、あらゆる業務に伴うデータが統合的に管理されていることが欠かせない。販売や出荷、在庫などのデータがバラバラのシステムで管理されていては、データを活用する、つまり経営のシミュレーションができないからだ。そこで、ERPが求められるのである。

 例えば、経営者が売り上げを拡大させようと考え、データを基に分析したとしよう。最終的に売り上げが計上される経理データを見ても、売り上げを増やすための分析はできない。経理データに現れるのは成功した案件だけだからだ。売り上げを増やすためには、成功した案件とともに、失敗した案件を分析することが欠かせない。そこで、顧客の引き合いから見積もり、経理に至る各フェーズを統合的にとらえるシステムが求められる。

 これは、最近のCRMおよびERPのトレンドで語られるプロダクト・ライフサイクル・マネジメント(PLM)の考え方と根は同じ。要は、製品や顧客あるいは案件を切り口にビジネスのライフサイクルをクローズアップできるようにすることが大切なのだ。数多くのERP導入コンサルティングを行ってきたTRUソリューションズの西嶋陽一社長は、「営業の効果を見るためには引き合いから経理までつながっていないと見えない」と指摘している。ビジネス・プロセス全体を把握し、さらに効果を上げるビジネス・プロセスを考案するための基盤、それがERPである。

経営マインドの違いがERP導入意欲の差に

 冒頭に、大企業と中堅企業のERP導入率を示した。大企業の導入率が高いものの、中堅企業にもERPが普及している。では、どんな中堅企業・中小企業がERP導入を推進しているのだろうか。

 そこを見るには、中堅企業と中小企業のERP導入率という数字とは別の、経営者あるいは企業体質や経営マインドという観点が重要だ。

 前出の西嶋氏は、「従業員が500〜1500人程度の中堅企業の動きは遅い」と見ている。その指摘は、ERPのみならずIT導入全般に関するものだ。大企業の場合、同業がERPを導入するとなれば、「わが社も」と横並び的に導入を急ぐ。導入コストは問題になっても、ERPの導入自体は問題とならないことが多い。それに対して、中堅企業では、大企業の動向を見てERPの導入を検討するものの、いつまでも議論を続けて意思決定ができないケースが多いという。それなりの歴史を持つ中堅企業の場合、新しい手法に対して足を引っ張る勢力が存在する。

 環境面でいえば、前述のように大手企業からSCMへの対応を迫られて、ようやくERP導入に踏み切る中堅企業の場合が存在する。要は、環境に対しどのように手を打つのかという、トップのリーダーシップが問われている。

 一方、従業員が200人以下のクラスの中小企業の場合は、トップの意思決定によってERPの導入が素早く行われるケースが中堅企業よりも多いという。社内で議論や根回しに時間を使わないで済む身軽さ故だろう。

 大手企業の傘下で生き残りを図ろうと俊敏に動く中堅企業、そしてさらなる成長を目指して投資を進める中小企業。ERP導入に積極的な中堅・中小企業とそうでない企業の違いは、こうした経営マインドによるところが大きいようだ。

大手主導のASPも有力

 大企業が中堅企業以下にERPの導入を後押しするケースもある。その目的は、ITをツールとして下請け企業の経営改革を進めるためだ。ある大手自動車関連企業は、自身でERPを導入しているが、傘下の部品メーカーにもERP導入を広げようとしている。傘下の企業の経営品質を向上させることによって製造コストの削減を実現することが狙いだ。大手企業にとって、傘下の企業に対するERPの利用促進は系列を巻き込んだ競争力強化戦略の一環である。

 とはいえ、傘下の中小企業がERPを導入することはたやすくない。そこで選択したのは、その会社のERPを傘下企業に利用してもらうという方法である。いわば、自身がASP(Application Service Provider)の形でITサービスを傘下企業に提供するというわけである。この方法なら、中小企業でもパソコンがあればERPを利用できるから、導入コストの負担が非常に小さくて済む。また、大手企業にとっては、傘下企業が個別にERPを導入するのを待つのではなく、多数の傘下企業が同時期にERPの利用を開始することができるというIT化のスピードアップが図れるのもメリットとなる。

 自治体では、電子自治体の実現方法として、ASPが注目されている。ERPも含め、ITインフラをアウトソーシングしたり、共同利用したりする。あるいは、東京都などのように市区町村にソフトの共同利用を呼び掛けるといった動きがそれである。市区町村は、自治体といっても小規模で、要員や費用の面で自前による電子自治体の実現は容易ではない。そこを支援するのが自治体ASPというわけである。同様に、大手企業がASPを展開するという方法は中小企業のERP利用を促していくうえで有力な手段と考えられる。

 以上、見てきたように、中堅・中小企業のERP導入状況は大企業に劣るものではないといえる。しかも、ASPが普及するなら、ERPの活用度ですぐさま高いレベルに至る中小企業が現れる可能性があるといえる。

 次回は、中堅・中小企業ではどんなERPパッケージが利用されているのか、また、中堅・中小企業がERPを導入するうえでの留意点について触れる。

Profile

小林 秀雄(こばやし ひでお)

東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌『月刊コンピュートピア』編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわりを主要テーマに取材・執筆。著書に、『今日からできるナレッジマネジメント』『図解よくわかるエクストラネット』(ともに日刊工業新聞社)、『日本版eマーケットプレイス活用法』『IT経営の時代とSEイノベーション』(コンピュータ・エージ社)、『図解よくわかるEIP入門』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)など


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