時代はグループウェアからエンタープライズウェアへエンタープライズ・コラボレーションはいま 特集 PART 1

 最近、さまざまなジャンルのソフトウェアで“コラボレーション”がうたわれるようになった。協働ということでは歴史のあるグループウェアもコラボレーションソフトと呼ばれるようになってきている。果たして、「グループウェア」はどのように「コラボレーションソフト」に進化しようとしているのだろうか?

» 2002年11月26日 12時00分 公開
[大河原克行,@IT]

 一部ベンダなどで、グループウェアを「コラボレーションソフト」と呼ぶようになってきている。しかし、ユーザーサイドでは、従来のグループウェアソフトと何がどう違うのか、使い方をどう変えればいいのか、とらえあぐねているというのが現状ではないだろうか? 特にグループウェア導入の基礎を築き終えたユーザーの現場サイドからそうした疑問がわき上がっている。だが、コラボレーションソフトとは、まさに、グループウェアソフトの進化を的確に示した言葉ともいえる。

 果たして、その進化とは何か。主要な「コラボレーションソフト」メーカーの取材を通じて、コラボレーションソフトの進化と現状、そしてメーカー間の勢力図を追ってみた。なお、今回の記事では、“グループウェア”と“コラボレーションソフト”の2つの表現を本文中に取り入れた。それぞれの言葉を使い分けることで、進化の過程を表してみたつもりである。

ノーツ/ドミノが切り開いたグループウェア市場

ノーツR5 クライアントの画面

 グループウェアソフトといえば、まず多くのユーザーが挙げるのが「ノーツ/ドミノ」である。

 1989年に登場したノーツは、1993年のノーツR3の発売以降、爆発的なヒットとなり、いまや全世界で9000万人、日本だけでも1000万人以上が利用するグループウェア分野のトップシェア製品だ。

 だが、当初は、まだ1人1台のパソコン環境すら整っていなかった市場環境において、スキルセットの高いユーザーたちを対象に利用されていた製品にすぎなかった。つまり、現在のような、だれもが使えるコラボレーションソフトという位置付けではなく、グループ内の、しかも限られた人たちが使うという形からスタートした。

 グループウェアとしての本格的な導入が開始されたのが、Windows 95の導入を境にして、パソコンが1人1台の環境へと大きく変化してからである。

 特に1999年まではノーツの全盛期ともいえる時期で、ノーツを活用して部門情報の共有化を図ろうという企業が数多く登場した。中には、数千台単位で導入する企業も見られたが、基本的には部門主導で導入される例が多かったといえよう。ここまでは、ノーツが唯一のグループウェアソフトとして、市場を切り開いてきたといえる。

ノーツユーザーが抱える課題

 だが、ノーツの普及とともに、幾つかの「弊害」ともいえる問題も出始めた。

 ここでは、あえてノーツの「弊害」という言葉を使ったが、裏を返せば、それだけノーツが浸透していたことの表れでもあり、これらの経験が現在のコラボレーションソフトとしてのノーツ/ドミノのベースになっているともいえるだろう。

 第1には、部門導入を中心として浸透し始めたことを背景に、部門間や全社規模でのデータ統合の問題点が発生したことだ。

 ノーツの特徴の1つに、部門においても比較的容易に導入できるという点が挙げられる。情報システム部門が乗り出さなくても簡単に部門内のグループウェア環境を構築できること、そして、すでに導入された1人1台環境のLAN接続のパソコンを利用すれば、部門予算内で導入することが可能という点にあった。

 だが、その結果、部門ごとに「似て非なるノーツデータベース」が数多く誕生し、いざ、部門ごとのデータを全社データとして統合化、一元化を推進しようとすると、一筋縄では行かないという問題が発生してしまったのだ。

 2点目として、ノーツのWeb対応の遅れという問題があった。

 1998年以降、イントラネットが急速な勢いで企業に浸透し始めたが、ノーツ/ドミノの対応は大幅に遅れた。その間隙を縫って登場したのがマイクロソフトの「Exchange Server」である。同ソフトについては後述するが、ノーツにとっては大きな打撃となった。

 そして、ノーツ4からノーツ5へのアップグレード戦略の失敗という問題も発生した。

 日本IBMによると、現在でもノーツ4.6を利用しているユーザーは、国内の全ノーツユーザーの35%に達しているという。ノーツ5が登場してからすでに3年半以上も経過しているのに、依然として4.6にとどまっているユーザーがこれだけいるのだ。この背景には、互換性の問題、ライセンス制度の変更に伴う問題、そして移行ツールの提供が遅れたといった問題などが指摘されている。これに対して、日本IBMは、こうした問題の解決を重点課題の1つに掲げ、このほど発表されたノーツ/ドミノ6で、ノーツ4.6あるはノーツ5からの移行促進を強力に図る考えを示している。

 加えて、もう1つ見逃すことができない弊害が、トランザクション系の基幹系システムとの連動までを含めたシステム構築を進めた企業が出始めてしまったことだ。業務アプリケーションとの連動はノーツ/ドミノにとって得意とするところであったが、非定型データのレポジトリであるノーツ/ドミノにとって、トランザクション系との連動は得意分野ではない。裏を返せば、連動性の高さや優れたカスタマイズ性能がそれだけ頼りにされたともいえるが、これをガチガチのシステムとして構築してしまった故に、その後の拡張や機能強化の際に、どうにもならなくなった、という声も一部のユーザーから出ている。

 今回のノーツ/ドミノ6の発表に合わせて、同社では、コラボレーションシステムとトランザクションシステムとの違いを強く訴えている。

 「コラボレーションは、新たなアイデアを創造し、活用し、変化し続けるための思考能力。そして、トランザクションシステムは、企業の生命を維持し、活動するための生存能力」という表現を使っており、「トランザクション分野は、コラボレーションソフトがカバーする領域ではない」ということを明確に示している。

グループウェアからコラボレーションソフトへ

 いずれにしろ、グループウェアソフトからコラボレーションソフトへの発展は、こうしたノーツの進化と失敗をベースに、ある程度の方向性と製品の特徴が形作られた分野であるといっても過言ではないだろう。

 現在、コラボレーションソフトの重要なキーワードの1つに、部門利用から全社利用へ、そして全社利用から企業間活用へという動きがある。

 日本IBMのソフトウェア事業部ロータス事業推進部門では、ノーツ/ドミノ6の発売に合わせて、「コラボレーションシステムの全体像」として図1をユーザーに提示している。

図1 日本IBMが示す「コラボレーションシステムの全体像」

 縦軸に利用規模を3段階で示し、横軸に利用環境の進化を示している。右上に行くほどコラボレーションソフトとしての高度な利用が進められるわけだが、すべての企業が右上に行く必要があるというわけではない。企業の置かれた立場や規模などによって、的確に自分の位置と進化の方向性を見極めることが大切だと同社では訴える。

 例えば、ノーツの代表的な大規模ユーザーであるリコーの場合は、コラボレーションソフトの導入によって、「現場の業務改善意識の向上」「業務効率化による創造的な時間の確保」「社員からリーダー、トップまでの適切でスピーディーな意思決定」の3点を、ノーツ/ドミノ6の導入目的に挙げている。

 その具体的な解決方法として、新入社員によるノーツを利用した業務改革研修に始まり、従来からのEUC(エンドーユーザーコンピューティング)、EUD(エンドユーザーデベロップメント)によるチーム業務支援から全社およびグループ全体での情報共有へと拡張すること、また設計・製造といったコアプロセスのコントロールまでの実現、人事・総務系ワークフローのグループ全体への拡張、各プロセスでの適切で円滑な意思決定──といった手法や実現目標を挙げる。これらを図に示すと、図2のようになるというわけだ。

図2 リコーのエンタープライズ・コラボレーション実現への方向性

ユーザーの進化を示すサイボウズ新製品

 一方、こうした部門から全社、そして企業間へといったユーザーの要求変化の動きを、製品の進化として明確に示しているのが、サイボウズの動きともいえる。

 同社のグループウェア製品である「サイボウズ Office」および「サイボウズ AG」は、まさに部門が手軽に導入できるという点を最大の武器に急成長してきた。

 導入規模も数人から数十人という部門および中小規模の企業が、スケジューラによる情報共有という目的から導入することが多かった。サイボウズAGの導入実績は、これまで1万4000社1万9000部門に達しているが、実際に導入できるのは、最大300人規模での利用が限界であり、しかも、その段階までくると、決して効率的に利用できるというレベルではないというのが実情だった。

 そこで同社が新たに投入したのが、「サイボウズ ガルーン」である。

 部門導入という限定的なユーザーターゲットから全社で導入できる企業ポータルへと発展することを狙ったコラボレーションソフトで、同社では「EIP型グループウェア」という名称で同製品を位置付けている。

 これもユーザーの利用変化を背景にしたものであるのは間違いない。

 「サイボウズAGの手軽な操作性を維持したまま、部門ごとに導入されたものを統合できないか、あるいは、部門導入にとどまっていたものを全社規模の導入に拡大できないか、という要望を数多くいただいた。それを具体化した製品がサイボウズガルーン」とサイボウズの青野慶久COOは位置付ける。

 サイボウズユーザーの進化に合わせて投入された製品というわけだ。

製品の特性が十分に理解されていない?

 このように、グループウェアソフトは、コラボレーションソフトへと進化するに伴い、全社規模あるいは企業間を超えた情報共有のための戦略的ツールへと成長してきている

 だが、一般的に代表的なコラボレーションソフトといわれるロータスのノーツ/ドミノ、マイクロソフトのExchange Server、そしてサイボウズのサイボウズAGを比べると、その特性はまったく異なるといっていい。

 「 一部競合する部分はあるが、3つの製品はまったく別のターゲットを狙った製品」(マイクロソフト製品マーケティング本部エンタープライズサーバー製品部コラボレーションサーバーグループ・中川哲マネージャ)、「ロータスとサイボウズが提携しているように、2つの製品が目指す分野は明らかに異なる。また、ノーツは、Exchangeとも対立構造で示されるが、実際には得意分野は大きく異なる」(日本IBMソフトウェア事業部ロータス事業推進・神戸利文部長)と異口同音に語る。

サイボウズCOO 青野慶久氏

 また、サイボウズの青野COOも、「それぞれの特徴を示すとすれば、Exchangeはメールサーバーとの連動をベースにしたグループウェアから発展したもの、そしてノーツは業務アプリケーションとの連動を強みとした製品。それに対して、サイボウズはスケジューラ、掲示板という最も初歩的な部分から導入を図ったグループウェアである。微妙にはかぶっているが、直接競合する製品ではないというのが基本的な考え方。しかし、多くのユーザーが、この差を理解していない」と指摘する。

 次回、それぞれの製品の特徴を踏まえて、各社の製品戦略上の差別化策をとらえてみたい。

【参考リンク】
グループウェア一覧

Profile

大河原克行(おおかわら かつゆき)

1965年東京都出身。IT業界専門紙「BCN(ビジネス・コンピュータ・ニュース)」で編集長を経て、現在フリー。IT業界全般に幅広い取材、執筆活動を展開中。著書に、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社刊)など


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