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» 2004年07月03日 12時00分 公開

情報システム部門を戦略部門化できるか?システム部門Q&A(10)(2/2 ページ)

[木暮 仁,@IT]
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エンドユーザー部門の思惑

1.「戦略部門化」はむしろ迷惑?

 利用部門は、情報システム部門を高く評価していますが、それはIT部門としてではなくDP部門としての評価です。

 例えば営業部門は、経営戦略を実現するのは自分たちであり、それを支援するのが情報システム部門の任務なのだから、自分たちの要求を忠実に迅速に実現してくれる情報システム部門を望みます。その要求に対して、「それでは部分最適化になる。生産部門や流通部門なども加えて全体最適化を図ろう」などという提案は、実現を遅らせることになり、むしろ迷惑なのです。

2.アウトソーシングでの問題点

 これまでは、利用部門と経営者あるいはベンダとの間に情報システム部門が存在しました。そのため、ややもすれば利用部門は、情報システムの要求をするだけで、費用対効果などに対し、あまり責任を感じていませんでした。

 情報システム部門がIT部門になれば、必然的にDP業務をアウトソーシングすることになります。そうなると、情報システムに関する日常的な業務は、利用部門が直接に責任を持つことになります。ベンダとの折衝では、この業界特有の慣習があり、トラブル発生の機会も多くなります。利用部門としては「このような業務は情報システム部門が担当するべきだ」と主張するでしょうが、そうなると、情報システム部門がIT業務に専心できなくなります。

経営者のタテマエとホンネ

1.情報システム部門出身の経営者が少ない

 そもそも、なぜ情報システム部門を戦略部門にするのでしょうか。

 多くの経営者は、タテマエでは情報技術活用が全社的な戦略的な課題であるといっています。もしそうであるならば、当然ながら経営陣にそれに対処できる知識・能力を持つ役員が存在しているはずです。経営陣はさておくとしても、全社的・戦略的な分野を担当する企画部門には、そのような人材が豊富に配属されているはずです。もし、経営陣や企画部門に人材が配置されているのであれば、戦略部門に適していない情報システム部門をわざわざ戦略部門にする理由はないはずです。

 ところが上場企業ですら、情報システム部門出身者の役員が1人もいない企業が多いのです。企画部門でもおそらくそうでしょう。その原因は、タテマエはともかくホンネでは、経営にとって情報技術は相対的に重要性が低いと考えているのではないでしょうか。このような状況では、情報システム部門を戦略部門にしても、本当に戦略部門として活用できるとは思えません。

2.戦略部門としての訓練が不十分

 「情報システム部門は経営を知らない」とよくいわれます。これは情報システム部門の責任でもありますが、経営者自身、情報システム部門を戦略部門にするための努力をしているでしょうか。

 経営者は、営業部門や経理部門には頻繁に顔を出したり呼び付けたりしていますが、情報システム部門とはあまりコミュニケーションを図っていないようです。これも情報技術を重視していない証拠だともいえますし、それでは情報システム部門は経営を知らないのも当然だといえます。

情報システム部門を「人材育成部門」に

 冒頭の三段論法に戻ります。

 2の命題「情報活用技術の動向をよく認識しているのは情報システム部門である」状況こそが問題なのであり、経営者や企画部門が情報活用技術の動向をよく認識していることが重要なのです。それができていれば、3の命題「情報システム部門を戦略部門として経営の中枢に位置付けるべきである」の根拠が崩れることになります。私は、情報システム部門を安易に戦略部門化することよりも、情報活用技術の動向をよく認識している人材を経営陣や企画部門に(利用部門にも)供給する人材育成部門になることが前提であると思っています。

■1.企業で必要とされる人材

 情報システム部門だけでなく、多くの部門では、次のような能力を持つ人材を必要としています。

■システム思考ができる

  「Aが不合理だから改善する」というような単純な合理化はすでに実施しています。残された合理化は、「Aを改善しようとすれば、Bに副作用が生じる」とか、「Aを行うにはBができている必要があるが、BのためにはCが前提となり、Cを実現するにはAと矛盾する」というように複雑な関係になっている分野です。これらを解決するには、全体と個の関係をシステム的に把握できる能力が求められます。

■価値観の違いを統合できる

  対象が複雑になると関係者が多様化します。合理化手段が自社内から他社との協調が必要になり、利害の対立もあります。海外との関係になれば文化の違いも出てきます。このような価値観の違いを強制的に1つにしたり妥協するのではなく、価値観が異なることを認めて、それで共通の目的に向かって協同させる能力が求められます。

■プロジェクト管理ができる

  多様な関係者による複雑な長期にわたるプロジェクトでは、多様なアクシデントが発生します。それを予見して回避手段を講じたり、発生したときに適切な対応をする能力が求められます。

2.情報システム部門は人材育成に適している

 情報システム部門では、ほかの部門と比較すれば、その能力を伸ばすための方法論も確立していますし、日常の業務もこのような能力を発揮する機会が多くあります。それを進めて、情報システム部門を、このような人材を育成して各部門へ提供する部門であると位置付けたらどうでしょうか。

 それが認識されれば、幹部候補生としてふさわしい人材が得られます。能力を高めて提供することにより、その部門で活躍して評価が高まれば、企画部門に配属されたり経営者になることも多くなります。このような状況になれば、上記の「情報システム部門の文化」「利用部門の思惑」「経営者のタテマエとホンネ」などの障害は自動的に解決できます。

 すなわち、情報システム部門の経営戦略化を行う以前に、情報システム部門の人材育成部門化を実現するべきなのです。

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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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