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» 2004年10月27日 12時00分 公開

ユーザビリティの時代──ペルソナ/シナリオ法 理論編ユーザビリティ研究会より(1)(3/3 ページ)

[生井俊,@IT]
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2種類あるソフトウェアデザイン

 ソフトウェアデザインには2種類あります。1つは、ユーザーインターフェイスや画面構成、あるいは稼働環境をどうするかというような、操作デザインを含む広範なデザインです。もう1つは、内部的なアーキテクチャ、クラス設計やデザインパターンを『どこにどう適用するか』というような、プログラムデザインです。

 これらは、まったく種類の異なるデザインです。プログラマと操作デザイナーの役割分担は、プログラマが後者のデザインを、操作デザイナーが前者の操作デザインを担当するのが一番美しい形です。しかし、実際問題として、操作デザイナーの専任がいる会社はあまりなく、結局はプログラマが操作デザインも担当するケースが多くなります。この2つの分類があると覚えておいていただくだけで、プログラマ同士で話しているときも、正確な議論ができるのではないかと思います。

ペルソナ/シナリオ法を導入するうえでの3つのポイント

 ペルソナ/シナリオ法を導入してみて感じたポイントが3点あります。

 1点目は、機能についての議論はできるだけペルソナに代弁させることです。

 2点目は、ペルソナの設定にはどんなに時間をかけてもいいから最大の労力を払い、プロジェクトメンバーに徹底させることです。

 3点目は、ペルソナを詳細に記述することです。もしこのペルソナが、例えばWindowsユーザーとかブラウザを使ったことのある人とか、最悪の場合PCの電源を入れたことがある人というように曖昧模糊(あいまいもこ)としていたら、結局ペルソナを規定しなかったことと同じになります。ここは単にスキルだけではなく、例えば恋人との時間を大切にしたいとか、だからできるだけ残業はしたくないとか、そういう個人としての設定目標まで含めて規定します。例えば大学はどこを出て、その辺について負い目を感じているとか、そういうことまで徹底的に細かく記述することで、そのぶれを最小限にする、リスクヘッジのプロセスとしての詳細なペルソナを設定します。次回の研究会にお越しいただければ、具体例として「神尾みか」さんというペルソナをお見せします。

 この3点をやっておけば、実はペルソナはかなりうまく機能します。

質疑応答

──ペルソナのシナリオを作るのは、どんな人がいいでしょうか。

 ペルソナは大体、たたき台を作る人がプロダクトアウト的な最初の発案者です。それを基にみんなでレビューしていって、それが本当に妥当かどうか検証していきます。

──ペルソナは成長するものなのでしょうか。

 ペルソナは成長すると思います。シナリオは時系列で書かれています。初日のシナリオと、使い始めて1か月後のシナリオは違うのです。実は、初日はソフトの概念も、言葉も知りません。つまりペルソナがそのソフトに対して未知の状態です。これを使い込んでいき運用を繰り返していくことをシナリオとして書いていきますから、そういう意味ではペルソナは成長します。

──例えば、シナリオの中に周りにこういった人がいるから成長スピードがこれぐらいだという想定は可能ですか。

 それはできると思います。周囲に誰がいるかによって、そのツールの習熟度が決定的に変わるような場合にはペルソナに盛り込むべきだと思います。つまり、ペルソナは個人の生活まで書くわけですから、同僚にこういうスキルを持っている人がいるというのは、十分ペルソナの1項目なのです。

──ペルソナ像が、本当に自分たちの目的に合っているかどうかという見直しはできますか。

 ペルソナのリファクタリングのようなものでしょうか。それは非常に難しいところです。弊社の場合、最初に何カ月かけて、ぶれようがないぐらい議論したのでありませんでした。ペルソナがもしぶれたら、基本的にペルソナ/シナリオ法をベースとしている限り、その根本の設計が変わってしまうということですから、それは大きなリスクとなるでしょう。

──決裁文書を回すような業務アプリケーションを作る場合、人によって役割が違います。そういった場合もペルソナは1人にすべきですか。

 原則として使用するのは1人です。弊社では、ソフトを使ってスクリプトを作るフェイズと運用者の手に渡って運用するフェイズとがあります。運用する人と作る人は違いますから、設計フェイズのペルソナ、運用フェイズのペルソナというのは出てきます。ロールごとに主要ペルソナがいて、そのうえで全体として主要ペルソナは誰なのかをもう1回やるわけです。それが生産性を上げるためのツールなら、絶対に設計フェイズの主要ペルソナが全体でも主要ペルソナになるはずです。いろいろなフェイズやアクターがいるからペルソナが1人に絞り込めない、という場合には、テーマ設計をもっと絞り込む必要があると思います。

──最近はオフショア開発が盛んですが、オフショアでもペルソナ/シナリオ法が持ち込めますか。

 弊社は全部社内で開発しているため、やったことがありません。まず、日本だとどうだということを考えると、日本人同士でペルソナ/シナリオ法がみんなが分かるかというと、そうではないのです。

 オフショア開発の際に、海外エンジニアに説明をする障壁は、そもそもオフショア開発が本来的に持っているリスクだと思います。ペルソナだからという固有のリスクは、あまりないと僕は思います。

──ペルソナ/シナリオ法はどれだけ有効だったと思いますか。

 ビフォー・ペルソナ、アフター・ペルソナで実際にどのぐらい効果があったかの測定は結構難しいです。ただ同じものを並べて作っているわけではないので、ペルソナを使わなかったバージョン1と使ったバージョン2を比較し、工期がどのぐらい短くなったか調べても、違うものを作っていますから、そこは検証できません。ただ、1のときのディスカッションと比べると、体感レベルでは30%くらいは無駄な議論が減った印象があります。

profile

生井 俊(いくい しゅん)

1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコーを経て、現在、ライター兼高校教師として活動中。著書に『インターネット・マーケティング・ハンドブック』(同友館、共著)『万有縁力』(プレジデント社、共著)。


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