IT投資を失敗させる“3つの落とし穴”企業システム戦略の基礎知識(1)(1/2 ページ)

IT導入はどうして失敗するのか? なぜ、導入効果が分からないのか? ユーザー企業が知っておくべきITに関する知識と考え方を“本質から”解説していく

» 2004年11月19日 12時00分 公開
[青島 弘幸,@IT]

 ある調査によると、ITプロジェクトの70%が失敗しているという。これは、何も昨日今日IT化を始めた企業の話ではない。一方、書店に行くとIT関連の書籍が山積みされているが、いずれも専門性が高くIT技術者向けに書かれたものが大半である。ユーザー企業の立場で実務的に解説したものは極めて少ない。

 しかしIT導入を行う企業は、IT業者に任せる部分は任せるにしても、ITの本質を知り、自社で押さえるべきところは押さえ、業者の説明や見積もりを理解して、対等に渡り合えるようになるべきである。本稿はそうした「最小の投資で最大の効果を得、会社を強くする」企業システム戦略実践のための基礎知識を連載していくものだ。少しでも皆さまのお役に立てれば幸いである。

ITの本質

 近年、IT(情報技術)という言葉が盛んに使われるようになった。そして、いろいろな場面でITを活用することで、さまざまな経営課題が解決できるかのようにいわれている。

 かつて、コンピュータが企業に導入され始めたころも、コンピュータは何でもできる魔法の道具のようにいわれた。一体何が変わったのだろうか。実は、本質的なところは何も変わっていない。

 なぜなら、人間の情報処理という営み自体が何も変わっていないからだ。情報処理の本質は、「入力?処理?出力」である。何のことはない、大昔から人間の知的活動の基本とされている、いわゆる「読み・書き・そろばん」のことである。

 そもそもコンピュータが、この人間の知的活動を模して作られた機械なのだから、当たり前といえば、当たり前である。本質を知ってみれば、何も難しいことはない。

 コンピュータ側の専門用語や実現方法(How)は専門家に任せて、ユーザー側が考えるべきことは、「どんな“読み・書き・そろばん”(What)を、コンピュータという機械にさせるか」に尽きる。

 では、最近のITは何が変わったのか。

 それは、経営環境の変化にともない、必要とする情報の質・量・タイミング(時空)が変わってきたのである。例えば、かつての伝票処理の効率化では、必要な情報は計算結果が印字された紙の伝票であった。しかし、組織間での商取引を効率化しスピードアップを図るためには、紙の伝票ではなく電子データの受渡しが必要となった。さらに、その電子データは、より大量かつ頻繁に時間と空間を超えて必要とされるようになった。

「自動化」の落とし穴

 IT活用では、経営効率化のために業務プロセスを改革し、自動化することが多い。

 しかし、自動化すれば必ず、効率化できるとは限らない。実は、自動化には大きな落とし穴がある。業務プロセスを自動化することで、柔軟な対応ができなくなったり、内部統制が甘くなったりすることがあるのだ。

 例えば、発注業務を手作業で、人が介在する形で遂行していたころは、注文金額の書き間違いがあったり、単価の急な変更があったりしても現場の人間が柔軟に対応できた。ところが、ここにEDI(電子情報交換)を導入し、自動発注システムを構築したとする。すると、間違った金額のまま取引先にデータが送られたり、単純な単価変更でも正規の手続きを経ていないなどの理由により対応できない──ということが発生する。つまり、自動化によって業務プロセスがブラックボックス化・固定化してしまうために、人間の勘や融通が働く余地がなくなってしまうのだ。

 業務プロセスを人を介してつなぐというのは、ちょうど自動車のハンドル(ステアリングホイール)でいう“遊び”のようなものでもある。この遊びが人間の細か過ぎるハンドル操作をそのままクルマに伝えることを防ぎ、滑らかな走行を可能にしているのだ。

 自動化・リアルタイム化された業務プロセスは、遊びがまったくないハンドルのようなもので非常に危険である。1か所で入力したデータがリアルタイムで、各方面に自動伝達されるのは一見格好よいが、ひとたび誤ったデータが流れれば、そのために関係者が右往左往させられるというのは、ハンドルの遊びがないためにクルマが蛇行するのに似ている。遊びを取り入れていない業務プロセスは、非効率かつ危険極まりない。

「ペーパーレス化」の落とし穴

 ITを活用した業務効率化では「ペーパーレス」も古くて新しいテーマだ。昨今のネットワークや情報端末の発達によって、業務から「紙」をなくすことは技術的にはそれほど難しくなくなった。デスクワークや事務処理において、あるいは営業や物流などにおいて、紙の伝票を不要とすることについて、その効用に異論はない。大量の伝票発行に掛かる紙代を削減するという直接的な効果だけでなく、それにかかわる管理費や業務のスピードアップ、最新情報の迅速な伝達などメリットは多い。

 ところが、製造現場などで紙をなくしてしまうと思わぬところで落とし穴にはまる。紙の良いところは、何でも自由に書き込みができるところである。作業者が作業中に思い付いた改善事項のメモや不良発生時の記録、後工程への申し送り事項など、紙を媒体とした情報伝達によって、現場は自律したコントロールやノウハウを確立していたりするのだ。

 一方、ペーパーレス化では情報端末を通じて情報を伝達することになるので、自由に情報を付加することができない。こうした現場の実情を知らず、あるいは無視してペーパーレス化を進めれば、現場に混乱を来すことになる。また、現場では自衛手段として(システムとは別に)紙を流したりする。これは情報・指示系統の二元化となり、間違いのもとだ。

「統合業務システム」の落とし穴

 「統合業務システムの導入」という掛け声もよく聞かれる。企業の中で歴史的に部門や業務ごとにばらばらに開発されてきた業務別システムでは、データが不連続であり更新の時間差が発生する。そこで個別業務システムを捨てて、統合業務システムに入れ替えることで、データを一元管理し、全体最適化を目指そうというものだ。

 しかし、業務システムを統合して全体最適化することは、裏返せば全体最悪に陥るリスクもあるということだ。万一、統合業務システムが故障すればすべての業務が停止する。むしろ、業務システムが分散しているのはリスク分散の面から都合が良いともいえる。どこかの業務システムが停止しても、別の業務システムを利用する業務は継続可能だからだ。

 また、業務別システムであれば機能や能力の追加・強化も、徐々に拡張していくというやり方が可能だ。環境変化の激しい時代だからこそ、開発にも運用にも小回りの利くシステムが必要なのであり、統合業務システムはいかにも融通の利かない重厚長大な感じがする。

 このような観点から、分散された業務システムを連携して動かす技術などが出てきている。

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