パートナーベンダの見直しは慎重に!システム部門Q&A(15)(2/2 ページ)

» 2004年11月23日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]
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ベンダ能力の評価

 上記のような考慮をした結果、ベンダを変更するべきだという結論になったとき、どのベンダを選べば良いのか、そのベンダの能力をどうすれば評価できるのかが問題になります。

(1)共通の尺度はない

 「自社のニーズに合致したベンダを選べば良い」ということになりますが、そのニーズが千差万別なのですから、共通した尺度はないといえます。ベンダの財政的安定性、技術能力、過去の業績など、一般論的な尺度はあるとしても、情報分野でのパートナーとしての尺度となると、適切なものがありません。

 ここでは、今後長くパートナーとして付き合うベンダを対象にしていますが、ある業務の情報システムだけを依頼する場合もあります。特定の業務には専門医のようにその業務に特化したベンダが適していますが、パートナーとしてのベンダが、必ずしもその特定分野で最適であるとはいえません。個々の業務でパートナーを変えるというのでは、果たしてパートナーといえるかどうか疑問です。

 特定業務の発注ならば、RFP(提案依頼書)への提案を検討してベンダを決定すれば良いのですが、パートナーとして今後長く付き合うベンダを決定するのに適当なRFPを作成するのは、かなり難しいでしょう。

(2)口コミ・印象が重要

 ベンダの会社案内や決算報告書、あるいはベンダ総覧などにより、ベンダの得意とする分野、過去の実績、主な取引先、社員の資格取得状況、企業としての安定性・成長性などを調べることは大切です。これにより、対象とするベンダを絞り込むことができます。

 しかし、実際に将来のパートナーにするには、このような公表された情報だけでは不十分です。もっと実際に役立つ情報を得るには、そのベンダのユーザーを訪問するとか、ベンダの話を直接聞くことが重要です。

 ユーザー訪問では、よほどのことがない限り、ベンダを悪くいうユーザーはいないでしょう。ですから、「ベンダの上位者はどの程度来るか」とか「トラブルがあったとき、ベンダはどうしたか」といったような質問をすることが適切です。また、経営者や情報システム部長だけでなく、日常的に付き合っている情報システム部員の話が参考になります。そのときには、正式な訪問よりも、友人としてのルートで聞くのが適切です。

 ベンダは、当然自社の長所を強調するでしょうが、それを真に受けていたのでは、どのベンダも同じようなことになってしまいます。パートナーとしてのベンダを選ぶには、経営者の理念や経営方針を聞くのが適切です。そして、経営者同士が互いに相手をパートナーにしたいとの印象を持つことが重要です。

(3)ベンダ企業の能力と自社担当者の能力は違う

 よくある誤解は、著名なベンダに依頼したのだから、自社を担当するセールスやSEも優秀だろうと錯覚することです。どのベンダでも、ベテランもいれば初心者もいます。契約条件がベンダに有利であり、対象業務に魅力があれば、優秀な人材を割り当てるでしょうし、金額が安ければ、給料の低い初心者を充てるのは当然です。

 現実にプロジェクトを左右するのは担当者です。どんなに経験に富んだベンダでも、たまたま割り当てられた担当者が初心者では、その経験を活用することができません。担当者が初心者でもバックがしっかりしていれば大丈夫だろうと思うかもしれませんが、それも幻想にすぎません。バックのベテランも「時間いくら」で原価計算されるのですから、契約金額が低い案件では、依頼することができません。それに通常のベンダは、ベテランを待機させておくほどの余裕はないのです。せいぜい、ベンダが持つ豊富な資料やノウハウを利用できる程度ですが、それを取り出して活用できるかどうかは、担当者の能力にかかっています。

 ここで困るのは、どのような人が来るのかは、契約が進んだ段階での交渉で決まるのであり、ベンダ調査の段階では分からないということです。せいぜい、どのような資格を持った人がどの程度いるかを調べて、確率として評価する程度になります。逆にいえば、契約の段階で適切な担当者をよこすように交渉することが重要になります。

 当然、適切な人が担当になっても、将来もその人が担当を続ける保証はありません。プロジェクトが完了すれば、他社の担当になるので、次のプロジェクトにその人が来るかどうかは分かりません。しかし、いったん優秀な担当者を就けると、ユーザーがそれを基準としますので、後で不適切な担当者になったときには抗議するでしょう。それで、前回と同レベルの人を担当にすることが多いのです。それをうまく続けるようであれば、長期的なパートナーとすることができます。

(4)資格やITSSは評価になるか

 担当者の能力を事前に評価するのに最も単純なのは資格の有無です。第三者が何らかの基準により資格を与えたのですから、ある程度は客観的な評価尺度になります。また最近は、知識経験能力の共通の物差しとして、ITSS(ITスキル標準)が注目されています。

・資格と評価

 資格は能力とは一致しないという意見があります。特にペーパーテストでの試験では、実務経験がなくても合格できるので、実践の場には通用しないといわれます。また、ITコーディネータのような分野の広い資格では、実際に何ができるのか分からないといえます。

 しかし、資格を取得するためには、試験に関連した知識を得るための努力をしたはずです。その知識は、社会的に認められた知識体系に沿った知識です。資格を持っているということは、少なくとも、その分野での基本的知識を持っていることの証明にはなります。すなわち、資格を調べることにより、大きな「外れ」を防ぐことができます。

 ほとんどのベンダ企業は、資格取得を奨励しています。それでも取得しない人は、そんな資格など意味がないという、ずば抜けて優秀な人か、面倒なことはしたくないという消極的な人か、能力のない人だということになります。

 すなわち、資格で評価するのは危険ですが、資格の有無を一次審査での足切りに使うのは、危険を回避する有効な手段です。しかしそのためには、ユーザーが資格の内容やレベルを熟知していることが前提になります。

・ITSSと評価

 ベンダの人は、上席コンサルタントとかプロジェクトマネージャなどの肩書を名刺に書き込んでいます。このような肩書は社内で付けたものですから、年功序列で上席になっているだけかもしれませんし、新入社員がたまたまプロジェクト管理グループに配属されているだけかもしれません。

 それに対して、ITSSでの職種と専門分野とレベルは評価の尺度として有効です。個々のベンダ企業に任意解釈を認めているので、ある程度のばらつきがあることもありますが、基準として各レベルに要求されるスキルが比較的明確に定義されているので、かなり信頼性があるといえます。

・高いスキルの評価

 プロジェクトに大きな影響を与えるのは、多数のプログラマではなく、全体を運営管理するマネージャやリーダーです。パートナーとしてのベンダでは、なおさらこのような人たちの能力が重要になります。ところが、そのような高いスキルを資格やITSSで評価するのは、かなり難しいのです。

 作業支援者としての比較的低いレベルの評価では、一般的な知識や経験が求められるので、資格やITSSが適切な評価尺度になります。しかし、技術士やシステムアナリストのような高度の資格や、ITSSでの高いレベルでは、一般的な知識や経験よりも、高度に専門化した分野での知識経験が求められるので、ランク付けには適していません。例えば、ある業務において、レベル5よりもレベル6の人の方が適しているとは、必ずしもいえません。

 また、大した能力を必要としない業務に、必要以上に高いレベルの人を付けたのでは、かえって不適切な場合もあります。大規模プロジェクトを成功させたプロジェクトマネージャが、中小企業の会計システム構築プロジェクトをうまくマネジメントできるか疑問です。


 このような人を評価するには、資格やITSSなどだけで評価するのではなく、面接やノミニケーションの場を多く設営して、その人柄や考え方を理解するのが重要です。「この人と一緒に仕事がしたいか」とか「この人を信頼できるか」が重要であり、「ウマが合うか」が最終的な評価になりましょう。

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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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