「電話加入者数が世界最大」などと報道される中国だが、企業進出という面から見ると通信インフラにもさまざまな課題が発生することがあるようだ。KDDIの担当者に中国の通信事情を伺った
中国の通信は急激に拡大しつつある。中国信息産業部(情報産業部)の統計によれば、2003年に固定電話加入者は2億6331万人、携帯電話は2億6869万人に達し、ユーザー数で比較すれば世界最大。電気通信事業も2003年に6兆9000億円に達し、2000年以降は毎年、前年比15%の成長を続けている。ブロードバンドも都市部でのADSLを中心に急激に普及しており、昨年末にはブロードバンド利用者は1740万人にも達し、日本を抜いた。
こうした状況だけを見れば、中国の通信インフラは相当に整備されつつあるように見える。
一方で、ここ数年の日本企業の中国進出は著しい。日経新聞の記事などによれば、中国進出企業の数は1万4000社を突破している。中国は莫大な労働力を供給する生産地でもあり、そして同時に空前の規模の消費市場でもある。中国にどれだけ進出できるかどうかが、製造業の試金石にもなりつつあるという状況なのだ。
こうした中国進出ブームの中で、“中国慣れ”していない企業が現地で思わぬ障壁にぶつかってしまい、困惑するというケースも増えている。
何しろ1970年代までは純然たる社会主義の統制経済を行っていた国であり、文化や経済が完全に資本主義化されるようになったのはここ十数年のことでしかない。そしてとかく忘れられがちだが、今も政治体制としては社会主義を守っているのである。こうした状況を認識していない日本企業が現地に進出し、日本と同じような感覚で工場の立ち上げなどを行おうとすると、さまざまな問題にぶつかる結果となる。
特に通信インフラに関していえば、冒頭に紹介したような統計数字だけでは見えてこないさまざまな問題が、依然として横たわっている。こうした問題を知らずに中国に出かけていくと、たいへんなしっぺ返しを受ける可能性があるだろう。
特に難問が多いのは、開発区である。
開発区というのは、1980年代初頭からの改革開放政策のもとで、おもに外資系企業の誘致のためにさまざまな優遇政策が用意された地区のことを指している。そう書くと、日本の「工業団地」のようなものをイメージする人も多いだろう。しかし規模はまったく異なっている。
中国の国土は広大である。同様に、開発区も圧倒的に広い。15キロ四方に広がっている開発区も少なくなく、中国政府が認めた公式の開発区、それに地方政府が政府非公認で行っている開発区なども含めると、中国国内に存在する開発区の総面積は日本列島と同じ程度になるという。中国経験の長いある日本人ビジネスマンは、こんな風に話している。
「広州から香港へと幹線道路を走っていくと、道の両側がすべて開発区となっており、延々とだだっ広い土地と工場群が広がっている。中国の圧倒的な生産力を実感させられる光景です」
この開発区に外資系企業が進出する際は、まずどの開発区のどの場所に工場を建てるかを視察して選ぶ。決定したら現地法人を設立し、その上で開発区を管理している官公庁から土地使用権を購入し、契約が完了した段階で工場の建設を開始することになる。この手続きは各地の地方政府によってまちまちで、かなり煩雑な手続きを必要とすることから、ほかのことにはあまり注意が回らないケースが多いようだ。
そこに最初のトラブルの落とし穴が存在しているのである。
ここでKDDIの担当者に登場していただこう。同社は中国に現地法人「KDDI中国」を設立し、日本企業が中国に進出する際のネットワーク構築やシステム環境構築の支援を行っている。日本では通信大手として知られるKDDIだが、中国は外資系企業には通信事業者の免許を与えていない。このため同社も、中国ではあくまでネットワークベンダとして業務を展開している。
KDDI中国の今城史裕氏は、約10年前から中国とのビジネスに関わり、3年前からは北京に駐在している。夫人は中国人だそうで、KDDIきっての中国通として有名だ。今城氏が話す。
「工場の建設が始まった段階で、中国の通信企業に回線敷設を申し込み、申請書を電信局に提出するという順番になります。ところがその後になって突然、『回線がありません』『開発区の最寄りの局が設置されていないため、回線が敷設できるのは半年後になります』という驚くべき回答がやってきて、あわてふためくことになるというケースが少なくないようです」
先に述べたように開発区は非常に広く、しかも北京や上海、大連といった都市部からは数十キロも離れた場所に作られていることが多い。中国ではADSLを主としてブロードバンド回線が普及しつつあるものの、依然として都市部が中心で、地方にまではまだ回線の普及が進んでいないという現状がある。
「中国政府は『回線の申請が出てから2カ月以内に回線を敷設しなければならない』というルールを作っている。ところが通信キャリアの側はコストや物理的な問題などからそのルールを守れないことも多いため、まだ局ができていない場所で回線の申請が出ると、一時金を受け取らず、申請を受け入れないというケースも出ているようです」
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