業務をパッケージに合わせるのではERPは成功しない特集:ERPトレンドウォッチ(3)(1/2 ページ)

今回は会計における仕訳を完全に自動化し、そのデータをそのままデータウェアハウスに保存することで財務会計と管理会計の一体化などを実現した富士通のERPパッケージ「GLOVIA」のシステムや思想などを聞いた

» 2004年12月04日 12時00分 公開
[大津心,@IT]

 大企業におけるERPパッケージ導入では、SAP R/3が大きなシェアを占めている。では、R/3が大企業におけるERP導入の最適解なのだろうか?

今回は、会計における仕訳を完全に自動化し、そのデータをそのままデータウェアハウスに保存することで財務会計と管理会計の一体化などを実現した富士通のERPパッケージ「GLOVIA」システムの開発に携わった俵一雄氏に話を伺った。(本文中敬称略)

SAP R/3に存在するさまざまな問題

ALT 俵コンサルティング代表取締役
俵 一雄氏

 俵氏は富士通の経理部門に20年以上在籍し、さまざまなERP導入コンサルタント業務などを経験した後、現在は俵コンサルティングの代表取締役を務めている。

 富士通は1994年に、20年以上動いていたレガシーシステムを一新。その際、SAP R/3の導入を検討したという。しかし、R/3はシステムを作るのは簡単だがメンテナンスが大変、3階層組織までしか持てない、ABAP(Advanced Business Application Programming)/4という特殊言語でプログラミングする必要があるなど、いくつかの問題があったために利用しなかった。

 同氏は、「SAP R/3で全業務が効率的に動いている事例は極めて少ない」と断言する。利用されている場合でも、会計部門などで部分的に利用するだけであるという。この原因を、同氏は「業務をパッケージに合わせる方式」にあると指摘している。このような方式を用いていることから、「カスタマイズをして、ガチガチに作り上げてしまい失敗している」のだという。

 また、SAPでは「全業務を理解している神さまが必要」な点も問題だとしている。このような社員は現実的には存在しているわけがないため、必然的に使いこなせなくなるのだという。

 逆にいえば、すべての業務が見渡せるサイズのビジネスであれば、「R/3型のERPでも適応できる」(俵氏)。これは、中堅企業や大企業の事業部程度のサイズが該当する。では、まったく異なる複数の事業を持っている場合や、M&Aの多い大企業の経営システムはどのようにあるべきなのか?

社員10人が3日徹夜しても終わらない作業量からスタート

 富士通は昭和50年ころ、売り上げデータや原価データはすでにほとんどが電子化されていたが、それを擦り合わせる部分が完全に手作業であり、10人が3日徹夜しても計算が終わらない状況だったという。その状況を改善するために、情報システム部門にシステム開発を依頼したが、「1年半待ったらやってやろう」という回答だったという。これを聞いた俵氏は、「待ってられないから、自分たちで作ってやる」と思い立ち、SE2人を含む6人のチームを結成。2年間かけてCOBOLによる原価計算システムを作った。

 この原価計算システムは手計算の部分をシステム化できただけではなく、原価計算が終わった後に売り上げと原価などの数値を、商品別、プロジェクト別、地域別、顧客別といったジャンル別に自動集計が可能になった点が大きかったという。このときにシステム化の素晴らしさを体感した同氏は、1998年にパッケージソフトの開発を依頼される。

「共通ルール」「チェックは1回」「即時入力」がキーワード

 1998年当時、富士通は「カプセル」という会計ソフトを販売していたが、このソフトは中小企業での利用が限界で大企業での利用が難しかったため、大企業でも利用可能なERPパッケージソフトの開発を目指した。

 会計は基本的にどこの企業も複式簿記で行っているはずであり、この際の仕訳とは「現場の作業を勘定科目としてまとめること」だといえる。そして、まとめたデータで決算を締めるという作業を行う。しかし、実際にはまとめる作業が非常に膨大で、前述のように10人が3日徹夜しても終わらないような状況だったという。そして、その苦労から抜けるためには、「月末過ぎて月初めの1日に朝目が覚めたら、完全無欠の決算書ができているのが夢」という結論に達した。しかし、これを達成するためにはどうすればよいのか?

 その答えとして出たのが、「共通ルール」「チェックは1回」「即時入力」の3つのキーワードだった。これは取引があったという事実を、「電子化」「可視化」し、全員で共有しよう、という発想から生まれたのだという。1998年当時、現場のデータはほとんどがデータ化されていたため、「いかにそのデータを取り出すか?」が問題となっていた。このことから、データベースへの入力を徹底するために、「現場で何かアクションしたら、その結果を即時に電子データにするべし」と通達。さらに、チェック作業を効率化するために、その電子データを上司が1回承認したら、それでOKとする手法が取られた。

 これは、従来の紙での決算申請時には、現場が申請→上司が承認→業務・管理→総務・人事→経理という4段階の承認を経る必要があった。これを電子データでも繰り返していたら、スピードや効率面が著しく悪化し、電子データ化する意味が薄らいでしまうためだ。このことから、「チェックは1回」という、電子データであるが故に可能となった制度を導入したのだという。

 このような経緯を経て会計ソフト「SUMMIT」が完成した。SUMMITの開発日程は、上流部分で半年、仕組みを作るのに1年、インプリメントするのに半年の計2年程度だった。

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