組織的、総合的に“できるPM”を育成する方法有能プロジェクトマネージャ育成術(5)(2/3 ページ)

» 2004年12月18日 12時00分 公開
[大上建(株式会社プライド),ITmedia]

(1)自律的な創造・活用のスタート

 本会議においてこれまで抽出されたPMノウハウについて、各PMノウハウのオーナーである有能PMから、コンセプトとその実践事例を説明してもらった。一般PMからは活発な質問が出され、それに対して有能PMが実施上の「勘所」や、どのレベルまで実施するのかという「達成水準」を伝えた。

 例えば、「協力会社責任者と1対1の対話を持つ」(連載第2回)というPMノウハウでは、そのプロセスの中の「(2)顧客、当社、協力会社について、それぞれが持っている問題と体制上の余力を見極めておく」「(3)相手側の問題に関しては、問題を放置した場合の影響と、相手が受け入れられると考えられる要望を決め、それを相手に伝える」が話題となった。一般PMからは、実はこの部分が見極められていないと、この対話が価値を失うのではないかという質問が出たのである。

 この質問に対してPMノウハウのオーナであるG氏からは、技術・知識に上がっている「人のレベルや体制に起因する問題が引き起こす影響について、正しく見通す技術」は、仮説を構築する技術であることの解説があった。すでに起きてしまった事象を、材料の整った中で原因について分析するのではないというのである。協力会社や自社、さらに顧客の体制や人材を、自分なりにクールに評価し、それが協力会社に最大でどのような作用を及ぼし得るかを事前に考えておき、その仮説を確かめるための、対話中の質問事項まで事前に設計しておくのだというのである。このように対話前に十分な仮説を構築できるように、一時は先輩PMや周囲の有能PMと、どんな立場のどんな人材がどんな問題の原因となったかの事例を徹底的にディスカッションし、この領域に関する知見を高めたというのである。

 さらにG氏からは、このPMノウハウが自分の中で完成する前には、協力会社リーダーと十分対話したつもりが、本音の部分は腹を割ってくれてなかった経験があり、その中で初期的な合意形成の重要性を学んだという話が追加であった。「互いに相手から聞いたといわずに対処できる」という理論的なメリットだけでは相手の同意を得られないことがあり、真にプロジェクトを良くする熱意を示す必要があるというのである。どのレベルで熱意を示せばよいかは、真剣勝負の場でないと伝えられないということであった。

 一般PMの全員が、どんなPMノウハウも見聞きしただけでは自分のものとならず、理解したことを自分なりに組み立てて実践し、そのような経験を積む中で初めて自分のものとできるのだと合意した。そこで各一般PMは、自分の現場に有効で取り組みやすいだろうと考えられる、いくつかのPMノウハウを重点的に選び、自律的に取り組むこととした。また、今後の経験から得た気付きをPMノウハウのフレームワークで整理・蓄積することとした。

 このように全PMが合意し、まずは自律的な創造・活用を開始することとなった。

(2)PMノウハウ拡充会議

 すでに有能PMは意識せずに実施している有能PM同士のインフォーマルなノウハウの交換(立ち話など)を、公式な会議体に引き上げて実施することとした。これをPMノウハウ拡充会議と呼ぶこととし、一般PMもそこに参加するのである。PMノウハウの存在を意識したディスカッションを行うことで、ノウハウ交換の効率を高めることが狙いである。

 PMノウハウ拡充会議は、プロジェクトマネジメントに有効だと思われたノウハウの原型を持ち寄り、相互に発表しディスカッションする場である。そこではノウハウ適用の事例を材料にディスカッションするのである。聞いた側が事例からシンプルにノウハウのコンセプトが分からない場合は、発表者にさらなる具体的事例を求め、全員で意味解釈を行うのである。

 この会議は、シンプルであるが進め方は意外と難しい。有能PMの発表事例から意味解釈を行い価値あるノウハウが共有できることもある一方で、一般PMでは、意味解釈ができないうちに事例が途切れてしまうようなことや、追加で聞いた事例が最初の事例と無関係だったりすることが相次いでしまう。下手な進め方だと、一般PMの事例を無意味な方向へいじり過ぎてしまうのである。

 事例から価値あるものが抽出できないこともある。会議のファシリテーターは、その場合いじり過ぎることなくその事例の発表を終わらせ、その発表者が以降何に留意すべきかを助言できなくてはならない。その意味でファシリテーターは秀でた意味解釈能力を備えた人材が行うべきである。

 この会議で事例に対して質問を投げ掛けられるのは、何らかの意味解釈ができる人だけになる。従っておのずと会議では有能者中心の発言になるのである。それでも一般PMにとっては、有能PMの事例や意味解釈の内容を聞くことで、自分との差を具体的に理解できるので、人材育成上は非常に有効な場なのである。

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