連載
» 2005年01月22日 12時00分 公開

健全なEUC推進に適した組織とは?システム部門Q&A(17)(2/3 ページ)

[木暮 仁,@IT]

初期段階での留意事項

 すべからく企業の活動は、経営者の承認を得て公式に行うべしといった“正攻法”を主張する人もいるでしょう。しかし、当初から正攻法を採用すると、次のような危険があります。

  (1)具体性を迫られる  

 経営者に正規の提案をするには、目的や効果、具体的なスケジュールを示すことが求められます。しかし、EUCは一種のインフラですから、当初から具体的な効果を示すのは困難です。「必要な人が、必要なときに、必要な情報を入手して、業務の改善・改革に役立てる」といっても、「具体的に誰がどの情報を入手するのか」と聞かれたら答えようがありません。

 もし例を挙げれば、「それなら、その情報を情報システム部門が出力して彼に渡せばよいだろう。その方が簡単ではないか」といわれます。まして、「その情報を得たら、何がどう改善されるのか」とか「その改善には、その情報が不可欠なのか」と突っ込まれると、立ち往生してしまいます。

 また、EUCの普及は各人の情報活用の認識を変えることですし、各人の認識は企業や部門で異なるので、標準的なものではありません。多様なアプローチを試行錯誤で行うことになります。それなのに、具体的なスケジュールを求められ、それに従って実現することを強制されたのでは、おそらく成功しないでしょう。

  (2)部内体制の未整備が問題になる  

 EUCが情報システム部門内で歓迎されるとは限りません。「ユーザーが勝手にシステムに侵入してきたら、業務に差し支える」とか「ユーザー教育で多忙になる」という反対論もあります。正攻法が承認されても、情報システム部門自体がそれに対応する体制になっていないのでは、空回りするだけです。

 EUCを行うためには、ユーザーがアクセスするデータを適切なファイルにして公開したり、それに適した簡易ツールを提供したりする仕掛け作りの準備が必要です。正攻法にすれば多様な部門が参加するので、多くの公開ファイルなどの準備をしなければなりません。部内体制も不備な段階で、それを短期間に行うのは困難です。準備がない状態で推進すると、ユーザーからの非難が殺到します。

  (3)不適切なキーパーソン  

 正攻法では公的な推進組織が必要になり、各部門の管理職にキーパーソンを指名してもらうことになりますが、部門の上司はキーパーソンの意義を十分に理解していないので、好ましからぬキーパーソンが任命される危険があります。

 特に初期段階では、キーパーソンはEUCが業務に役立つことを示し、自ら活用することが必要です。それには、業務に精通してその改善に意欲的な人でないと困ります。ところが、パソコンの使い方を教えたり、お手伝いをしたりするような仕事だと思われ、「パソコン坊や」のような人が指名されがちです。

 「自分は営業を志望してこの部門に来たのに、いまさらコンピュータなんかやりたくない」と思っている人が任命されることもあります。それをあからさまにいうのははばかられるので、「コンピュータは難しい」とか「求めた結果が現実的ではない」などと、EUCの効果を妨げるような発言をします。これでは、逆の効果になってしまいます。

 任命されたことに発奮して、積極的に取り組む人もいます。しかし、熱意が過度になると、まだ準備態勢の整っていない情報システム部門へ過剰な要求を乱発します。それが脈絡もない要求だと、情報システム部門は対処できなくなります。また、EUCをあまり理解していないために、基幹業務系システムとして構築するべき事項を、EUC推進のための事項として要求することもあります。これらの要求が受け入れられないと、情報システム部門無能論の主張者になってしまいます。

成長段階での留意事項

 実務者時代に移行するとき、利用者増大が目的になってしまい、それに迎合してEUCの堕落が起こる危険があります。

  (1)ユーザーの無関心と迎合  

 本来は、ユーザー部門が業務を改善するためにEUCを利用するのだから、ユーザー部門が中心になってEUCを推進し、情報技術的なことだけを情報システム部門に依頼するのがスジです。ところが、現実にはユーザー部門は消極的で、情報システム部門がユーザー部門にEUCをお願いすることになります。

 ユーザー部門に言わせれば、「われわれは固有の業務をしている。コンピュータは自分の仕事ではない」し、「それを支援するのが情報システム部門の任務」なのだから、「気付いたときに電話するから、10分以内に結果をよこせ」ばよいことです。EUCとは、情報システム部門の仕事をユーザー部門に押し付けることだと考えられてしまいます。

 情報システム部門は、いつの間にかEUC推進の責任部門になり、その利用増大が部の評価尺度になります。そのために、1をクリックすれば〇〇集計表、2ならば△△分析表というような「個別帳票メニュー提供方式」にして、「ほら、こんなに簡単ですよ。メニューは情報システム部門で作成しますので、どしどし要求してください」という態度になります。EUCでも「私、要求する人。あなた、作る人」の状況は変わらないのです。

 これでは、単にパソコンから帳票が出せるだけであり、基幹業務系システムの延長にすぎません。教祖の意図した理想とは懸け離れたものになってしまいます。しかし、個別帳票メニュー提供方式によるEUCは便利なので、急速に普及します。すると、情報システム部門がメニュー作成のために多忙になり、部員からは文句が出るし、ユーザーからは頼んだのにいつになってもやってくれないと不満が出ます。

 それを回避するために、公開ファイル提供方式にして、ユーザーが簡易ツールを用いて任意の切り口で検索加工するようにすればよいのですが、そうすると、教育普及の労力が増加したり、ユーザーが「コンピュータなんか、自分の仕事ではない」と反発したりします。

 しかし、公開ファイル提供方式にしなければ、情報検索系システムの効果が発揮できませんし、データウェアハウスへの発展も期待できません。反対勢力があっても達成しなければなりません。実務者のマネジメント能力が問われるところです。

 教育はしたのに、ユーザーが使わないこともあります。その理由は、ツール操作を習得するのが困難なのではなく、どのようなファイルがあって、どのファイルとどのファイルを組み合わせれば求める情報が得られるのかが分かりにくいのです。また、得られた結果が実際と違っており、コンピュータなんか信頼できないとして使わない場合もあります。この原因は、データ項目の定義が明確でないことから起こることが多いのです。例えば、5月に100個売り上げたのに、6月に10個返品されたとき、5月の売り上げは100個なのか90個なのか、90個として1つのデータになっているのか、それとも100個のデータと10個のデータがあるから、それを引かないと実際の90個にならないのかが明確でないと、間違った結果になる危険があります。

 このように、ユーザーが項目やファイルの定義を明確に理解していることが重要です。それには、オンライン文書にして、ユーザーが容易に確認できるようにするのが適切です。それをここでは「ユーザー辞書」といいますが、このユーザー辞書が整備できれば、データ体系が明確になり、情報システムの管理にも役立ちます。

▼参照記事
連携におけるアドオン開発のメリット/デメリット(企業システム構築)


  (2)強制的なEUC普及手段  

 単にユーザーの認識が変わるのを待っていただけでは、なかなか普及しません。強制的にEUCをさせる手段も必要です。

 その最も単純なのは、これまで基幹業務系システムで定期的に出していた帳票類を止めてしまうことです。そして、それがEUCで出せるようにしておき、必要ならば自分で出せとするのです。私の経験では、これで過半数の帳票は不要であり、残りの半分はEUCで出すようになり、半分は定期的に出力するよう要求される程度です。これの欠点は、どうしても個別帳票メニュー提供方式になってしまい、ユーザーがそれを当然だと思うようになることです。

 次には、ユーザーの帳票出力要求を拒否するようにします。「要求の帳票は、〇〇と△△の公開ファイルから出せる」と却下するのです。本当に必要なものなら、ユーザーが苦労してでもEUCを使うでしょう。これを続けると、基幹業務系システムへの要求が、重要なものだけに絞られるようになります。

(3)情報システム部門からの転出者をヒーローに

 この段階では、各部門のキーパーソンが重要になりますが、現実には、情報システム部門からユーザー部門に要員を提供する必要があります。そのときに重要なのが、その転出者を便利屋にしないことです。

 情報活用に消極的な部門では、強制的にコンピュータを使わされていることに不満を持っています。そこに情報システム部門からA君が来れば、そのような仕事をすべてA君に押し付けようとします。極端な場合では、基幹業務系システムへのデータ入力やワープロソフトでの清書まで押し付けます。それほどではないにせよ、LANやサーバの管理をさせられますが、周囲に知識がないのでその管理の難しさが分かりません。完全に円滑に使えて当然、ちょっとしたトラブルがあれば無能だと評価されます。

 本来、A君はこの部門の業務を習得して、それを改善するための情報活用を推進する任務なのに、周りはA君はコンピュータ屋だと決め付けて、部内の会合も「A君はコンピュータで忙しいだろうから、出席しなくてもいいよ」などといわれてしまい、業務を知るどころか、この部門で浮いた存在になってしまいます。

 周囲の若い人は、A君の悲哀を見ているので、「コンピュータなんかに手を出したら、Aさんのようにされてしまう。会社では情報オンチのふりをしていよう」と思います。このような状況では、いかにEUC推進を図っても普及はしないでしょう。そこで、ユーザー部門に転出させるときは、ユーザー部門の管理者と相談して、業務改革のヒーローとして処遇するようにすること、それができる人材を転出させることが重要です。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ