ビジネス要求に基づく“役立つシステム”の実現手法特別企画:要求開発方法論のススメ(2/2 ページ)

» 2005年03月03日 12時00分 公開
[山岸 耕二,@IT]
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システム化対象を正確にとらえ、共通認識し、可視化せよ

 このプロセスで重要になるのは、システムの可視化である。業務は、企業(組織)内のさまざまなリソース(人、装置、設備、情報システムなど)がコラボレートして、生み出されるサービスである。情報システムはその構成要素であり、サブシステムに当たる。

 従来、システム化の議論は、情報システムの境界近辺から内側だけをテーマにしがちだった。しかし、業務全体の視野を持たずにサブシステムだけの範囲で最適化を図っても、業務全体のパフォーマンスが高まるわけではない。いまや業務は、人間系の活動や情報システムが複雑に絡み合った生身とCPUから成るサイボーグのような存在である。人とシステムを別々に設計したのでは、らちが明かない。トータルでコーディネーションして最大パフォーマンスを目指さなければならないのだ。

 そのためには、対象としている業務をまず正確にとらえることが第1である。業務が確実にとらえられ、かかわっている多数の関係者で共通に認識されれば、業務のレベルで効率化の議論が進められる。合意の下に業務が標準化されれば、それを支えるシステムはぐっとシンプルなものになる。

 業務の認識がばらばらであれば当然、意見はまとまらず多くの例外的な要求が整理されないままテンコ盛りされて、システム要求として膨れ上がる。情報システムの設計においてもUMLなどでその基本構造が正しく表現され、可視化できると、共通部分や変更への対応など、全体を見通したシンプルで拡張性の高いアーキテクチャに導くことができる。業務という、より複雑なシステムにおいてはより一層その効用を享受することができるだろう。

 プログラミングレベルの共通化より設計レベルでの共通化、さらには業務のレベルでの共通化など、上位での共通化を行うことで、情報システム側の不必要な例外対応機能は振るい落とされ、絞り込まれた簡素なシステムに落ち着けるはずである。

 業務の可視化は、要求開発の重要な活動になるが、そのモデル記述の道具としては、いまのところシステムの可視化で標準的な地位にあるUMLを中心に進めている。

ALT 図2 モデリングの全体像

 この理由は、業務をシステムととらえる以上、システムを記述できるレベルの表現力が必要であり、また、次のお題としてこの結果を情報システムの設計へとシームレスに渡さなければならないからである。ユーザーに分かりやすければそれでいいというものではない。

 その意味でも、要求開発には、ユーザーとIT部門との連携が重要である。IT部門はシステムを相手に日常的に抽象化や構造化を行っており、職業柄、システム思考が養われている。多くのユーザーは業務を抽象化してとらえるのは苦手で、表現は羅列的になりがちである。具体的業務を知っているのはユーザーなので、ユーザー主導でことは進めるべきだが、ガイドとしてIT部門の参画も必須である。

「要求はあるものではなく、開発するものである」

 業務可視化の必要性に対する認識は、先進企業においてはすでに共通するところである。筆者らは、この要求開発手法を確立する目的で2年ほど前に「ビジネスモデリング研究会」という集まりを発足させた。

 内輪で細々と始めたのだが、意識の高いユーザー企業、新たな技術に積極的なコンサル会社、システムベンダを口コミで巻き込みつつ現在約30社、90名の規模に膨らんできた。いつまでも内輪で収めるわけにもいかなくなり、このたび、「要求開発アライアンス」として正式に団体化することになった。

 「要求はあるものではなく、開発するものである」──これが、要求開発アライアンスのコンセプトを語る重要なメッセージである。

 主な活動は、要求開発方法論(Open Enterprise Methodology:略称Openthology/オープンソロジー)を共同で策定し、多くの参加企業の経験やノウハウ、実際のプロジェクトでの適用結果を反映させて、完成度を高めていくことである。標準的なIT化の手法として広く普及を図ることも重要な活動になっている。

 こうした性格から、この成果はアライアンス内部にとどめることなく、広くオープンドキュメントとして、公開していこうということで意見は一致しており、すでにこの1月からホームページを開設して、Openthologyを公開している。

リンク
「Openthology」ページ(要求開発アライアンス)

 まだ、完成度は高いとはいえないが、IT化を企画していくうえで、検討しなければならない多くの観点をカバーしており、この地図に従っていけば、取りあえず40点ぐらいのところまではいけるものと考えている。第1段階としては、このような活動によって、「要求開発」についての共通認識が生まれ、ビジネスモデリング体系化のベースラインが出来上がるところまでを期待している。(了)

profile

山岸 耕二 (やまぎし こうじ)

株式会社豆蔵 代表取締役副社長

技術士(情報処理)。1982年 京都大学工学部修士卒。同年にシャープ入社。超LSI研究所にて次世代デバイスの研究開発に従事。1989年にオージス総研入社。各種エキスパートシステム構築にかかわる。この時期より、オブジェクト指向データベース、オブジェクト指向開発方法論の導入など、オブジェクト指向技術をベースとするビジネスの立ち上げを行い、以後一貫してオブジェクト技術を適用したシステム開発やビジネス創出に携わる。2000年に(株)ウルシステムズのCTO(最高技術責任者)に就任。2004年に(株)豆蔵代表取締役副社長に就任。最近の訳書に「ユースケース実践ガイド」「適応型ソフトウエア開発」など。


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