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» 2005年03月24日 12時00分 公開

リスクを緩和する上手な予算の立て方・使い方企業システム戦略の基礎知識(5)(2/2 ページ)

[青島 弘幸,@IT]
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反復型開発の落とし穴

 最新のシステム構築スタイルとして「反復開発」がある。これは、要求仕様が決まったところからシステムを部分的に構築し、早期に使用を開始する。そして、次の要求を決めて、また開発して、使用を開始する。こういった、要求仕様・開発・使用開始という短いサイクルを反復してシステム構築を進める手法である。

 背景には、前述の業務改革型や創造型のシステム構築では、具体的な仕様が決まらず、また、たとえ決めたとしても、従来のやり方では、仕様変更が多発し手戻りが生じて効率が悪いということから発生した手法である。

 問題は、プロジェクト全体のコスト・納期・品質をコントロールすることが難しいことである。決まったところから開発する場合、たいてい分かりやすい目に触れる部分から開発が始まる。システムの裏側で動く、データベースなどは、なかなか決まらないので後回しになる。その場合、肝心の基幹部分を開発する予算を使い切ってしまったらどうなるのか、あるいはこれまで開発済みの部分に大幅な手直しが必要になったらどうするのかといった点に工夫の余地がある。

 また、既存システムが保守で長年の反復開発を積み重ねた結果、誰も手が付けられなくなりブラックボックス化しているが、それと同じことが起こる可能性がある。

 リファクタリングなどの工夫がなされているが、その実行はプログラマの能力に依存する。これがうまく機能するならば、スパゲティ・プログラムなどという言葉は生まれていないはずだ。しかし、プログラムは保守をすればするほど複雑怪奇になってしまうのが現実。業界では、これを「保守地獄」と称しているが、反復型開発では、いつ終わるかも知れぬ「反復地獄」という、落とし穴が待っているかもしれない。

 反復型開発手法を用いる場合、全体のコスト・納期・品質を、どうやってコントロールするのか、その見通しを十分確認したうえで採用されたい。失敗すれば、止めどない反復とコスト・納期の超過、ツギハギだらけの劣悪な品質のシステムが待ち受けている。そうならないためには、やはり、上流工程で検討に時間をかけるフロントローディングは重要である。

リスクを軽減する段階的投資

 システム構築では要件が不明確であったり、変更が多発したりして、当初の予算を大幅に超えるといった失敗事例が後を絶たない。さらに、システムを十分に活用して成果を確実に得るためには、本稼働後の細かな改善や保守も欠かせない。

 このように不確実性の高い投資を行う場合に、一度に資金を投入するのでなく、状況が明らかになった時点で都度、投資判断を選択する権利(オプション)があるという考え方がリアルオプションだ。

 例えば、最初にすべての予算1000万円を一括で投資するのではなく、段階的なフェイズごとに投資意思決定をする。始めは、要件定義までを200万円で実施し、不確実性を減らし投資効果を確認する。次に、500万円を投資して主要な機能を開発し、実際に使用してみることで、さらに不確実性を減らし投資効果を確認する。そこで、結果が良好であれば、さらに300万円を投資して、機能を拡張する。

 なお、ここで500万円、300万円を開発に投資する場合に、それぞれにおいて前述の2:4:2:3の法則を適用し、段階的に追加型開発を行い仕様変更のリスクを緩和する。もし、途中までの出来具合によって投資を中断すれば、損失は最小に抑えることができる。システム業者の一式いくらの高額で不明瞭な見積もりに不安を抱きつつ、初めに一括投資するよりは、精神的にも健全な方法といえるのではないだろうか。

 たとえ、前述のようなさまざまな手を打って、仕様変更をなんとか吸収して、システムの完成までこぎ着けたとしても、実際に運用してみなければ分からないことは山ほどある。たかが使い勝手などと安易に考え、放置していてはシステムはすぐに使われなくなってしまう。また、事業環境や業務プロセスの変化に合わせてシステムを更新していかなければ、システムが足かせになってしまう。そのときに、システム開発に予算をすべてつぎ込んでしまったので、保守ができないというのでは困る。構築したシステムが、本当に想定した効果を発揮するかどうかは、使ってみなければ分からないという不確実性の高い投資が、情報投資である。

 従って、運用を開始してから効果を確認し、段階的に機能を拡張するなどの保守費用は必須である。その保守費用がないというような事態に陥らないように、初めから保守費用も考慮して予算配分を考えなければならない。そして、投資対効果についても保守費用まで含めて考えるべきである。

 次回は、見積もりの取り方について解説する。

著者紹介

▼著者名 青島 弘幸(あおしま ひろゆき)

「企業システム戦略家」(企業システム戦略研究会代表)

日本システムアナリスト協会正会員、経済産業省認定 高度情報処理技術者(システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、システム監査技術者)

大手製造業のシステム部門にて、20年以上、生産管理システムを中心に多数のシステム開発・保守を手掛けるとともに、システム開発標準策定、ファンクションポイント法による見積もり基準の策定、汎用ソフトウェア部品の開発など「最小の投資で最大の効果を得、会社を強くする」システム戦略の研究・実践に一貫して取り組んでいる。趣味は、乗馬、空手道、速読。

システム構築駆け込み寺」を運営している。

メールアドレス:hiroyuki_aoshima@mail.goo.ne.jp


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