情報共有化の障壁を突き崩せ!システム部門Q&A(22)(1/3 ページ)

社内における部署間の交流不足解消や組織の活性化、創造性向上を狙ってグループウェアを導入する企業は多い。しかし、本来の目的から外れ、日常的な連絡事項しか行われないケースが目立つ。グループウェアが有効に利用されない原因を探り、解決策を紹介する。

» 2005年06月10日 12時00分 公開
[木暮 仁@IT]

質問A

グループウェア導入時のポイントを教えてください

100名程度で玩具の製造販売をしている者です。どうも開発グループと営業グループの間の情報交流が不足しているように感じます。情報共有のためにグループウェアを導入しようと思っていますが、どのようなことに留意するべきでしょうか?


質問B

グループウェアを導入しても、本来の目的で使われません

当社では、グループウェアを導入してから数年になり、利用度はかなり高くなっています。ところが、その内容は日常的な連絡事項がほとんどで、本来の目的であった組織の活性化や創造性向上などでは、目立った成果が上がっていません。その原因と対処方法を教えてください。


意見

情報システム部門の管理者です。ERPパッケージの導入では、カスタマイズを極力行わないことが成功の秘訣だといわれています。しかし「もっと業務に合わせたシステムにしてほしい」という利用部門の要求を拒否することは困難だとも思われます。どのような対処をすればよいのでしょうか。



グループウェアと組織文化

  (1)グループウェアへの期待と現実    

 ここでのグループウェアとは、グループウェアやナレッジマネジメントにおける「教えて/教えます」的な利用、あるテーマにおける意見交流での利用などのことを指します。例えば、「営業が顧客訪問をしたときに、土地を売りたい人がいるという話が出た。それを掲示板に掲げたところ、流通部門が関心を示して流通センターの設置へと発展した」とか「自社製品のトラブルについて掲載したら、業務的には関係のない部門の人からも多くのアイデアが寄せられ、技術部門が検討して改善したところ、現在では重要な特許となった」などです。このような話は、グループウェアの効果としてよく聞かれます。また、情報共有化による組織の創造性向上を期待して、グループウェアを導入することがよくあります。

 ところが、現状では次のような状態になっているケースも多いようです。

 電子メールや電子掲示板はよく利用されているのに、その内容は、会合の開催連絡や公式の伝達事項などがほとんどで、あまり興味のある話題がない。たまには土地やトラブルの情報を掲げていることもあるが、それに対するレスポンスはほとんどなく、関係部門への連絡のような状態になっている……。

 いくつかのフォーラムがあり、それなりの意見交換もなされているが、それぞれのフォーラムがアクセスできるメンバーが限定されており、メンバー以外の者はその内容を知ることができない。あるいは、広く開放されてはいるものの、行き当たりばったりの情報交換だけで、後は放置しているために、掲示板に膨大な容量を費やしている割には、必要な情報がない、前後の関係が分からない、重要なものに限って登録されていない……。

 情報の共有化への期待と現実に大きなギャップが生じる原因は何なのでしょうか?

  (2)グループウェアは組織文化を強化する  

 地位の違いや部門の違いに関係なく自由に発言できる組織、他部門の仕事に応援するのに抵抗がない組織、いろいろなアイデアを発表するのが喜ばれる組織、このような雰囲気や文化を持つ組織のことを「オープンな組織」とします。それとは逆に、ものいえば唇寒しで沈黙は金という文化で、他人の仕事には口を出すのをはばかれるような組織を「クローズな組織」とします。

 グループウェアの導入は、組織文化を強化する傾向があります。

 オープンな組織ならば、従来より上下の壁や部門の壁が低く、自由な発言ができるのですから、便利な環境ができたと喜ばれるほか、ますます活発な情報提供が行われて、それに対するレスポンスも活発になります。放っておいても、かなりの成果が得られるでしょう。

 成功事例の多くは、その組織が以前からオープンであったり、グループウェア導入に際して全社的な文化改造のキャンペーンを積極的に行った企業なのです。

 それに対して、クローズな組織では、グループウェアを入れても活発な情報交換は行われません。強制しても会合の開催連絡などの、誰からも文句をいわれない公式事項などになってしまいます。

 それどころか、場合によっては、従来よりも情報の交流が悪くなることもあります。商談報告を例にしましょう。部長に口頭で商談報告していたときは、先方の社長令嬢が結婚することになったとか、土地の出物があるといったことも雑談の話題になることもあります。ところが、掲示板に登録すると誰が見ているか分かりません。しかも、商談は千三(せんみつ)といわれるように、ほとんどが失敗の連続です。失敗を公表するのは嫌ですし、経営者や人事に見られて悪い評価をされるのも心配です。そこで、狭い商談内容だけにしますし、当たり障りのない内容にしがちです。

 自社製品のクレームも、このようなことを挙げたら担当者が迷惑するだろうと考えて、担当者に電子メールはしても、掲示板に掲げるのをはばかります。あるいは、極度にアクセス者を絞った掲示板を作ります。これがセキュリティ対策と重なると、アクセス権限を極度に絞るようになり、複雑怪奇なユーザーID認証やパスワード変更の実施につながり、人事異動シーズンでは大騒ぎの作業になります。

 また、登録が嫌だとはいえないので、「入力方法が面倒だ」といいます。それを真に受けて定型様式に変更し、選択肢指定や定例句辞書などの操作を容易にする工夫に走りがちです。これでは、ますます内容は無味乾燥になり、結局は交通費精算やアリバイ証明にしか使えない商談掲示板になってしまいます。さらに悪いことは、「掲示板に入れたのだから、部長に報告する必要はない。経営者も見ることができるので、部長も経営者に伝えなくてもよい」ことになり、土地の出物情報は日の目を見ないままに忘れ去られてしまいます。

 また、沈黙は金の状況では、クレームの話があり、ちょっとしたアイデアがあっても、他部門のことに口を出すのははばかれるし、上司から、「他人の面倒を見る暇があったら、自分の仕事をしろ」といわれるのではないかと思って、口を出しません。

    (3)オープンな文化へ     

 グループウェア導入だけでは、大した効果は得られません。それとともに、組織文化をオープンなものにする全社的な運動が必要です。

全社的な活動が重要

 グループウェアの導入をテコにして、クローズな組織をオープンな組織に意識改革をすることは重要です。その意識改革こそがグループウェアの最大の効果であるともいえます。しかし、意識改革には時間がかかります。そこで、身近なことから進めていき、改革の雰囲気を作り出すのが先決です。例えば、商談報告を何のためにするのか、それにはどのような情報が必要なのか、どのように報告ルートがあり、誰がどのように見ることができるのかといった仕事の見直しやルールの検討をするべきです。


 また、各人が情報への感度を上げる訓練をすることが必要になります。懇親会や雑談奨励(?)など、他部門の人との交流の場を多くするのがよいでしょう。あまり堅苦しくない異部門メンバーによる小集団活動なども効果的です。

 このようなことを行う過程において、情報共有が会社にも自分にも効果があるのだということを、全員が認識することができます。

 とかく、「グループウェア=コンピュータ=情報システム部門」という図式になりがちですが、文化大革命を起こして成就させるには、情報システム部門だけに任せるのは不適切です。全社的なキャンペーンや継続的な活動を行う必要があります。

初めてならば環境や練習も必要

 グループウェアの前提になるのが、電子メールの日常化です。中小企業ではまだ各人にパソコンが普及していないとか、メールアドレスを共有している状況もありますが、それではグループウェアは根付きません。対象とする部門を絞ってでも、環境を整備する必要があります。

 グループウェアの練習もしておきましょう。小規模で単なるメーリングリスト程度の機能ならば、「Yahoo!グループ」などの無料で利用できるサービスもあります。体験することにより、どのような便利さがあるか、本格的な利用ではどのような機能が必要か、運用するのにはどのようなマナーや工夫が要るかなどを知ることができます。利用者が増えてくれば、グループウェア導入・活用が円滑になります。

経営者介入が逆効果のことも

 グループウェアの普及では、経営者が率先して利用し「私も使っている。連絡や指示はグループウェアで行うから、みんなも使うように」というのは、普及に最も効果があります。グループウェア導入の初期段階で、これは必須なことです。

 ところが、クローズな組織では、経営者が極度に介入するのは、かえって自由な発言を妨げることもあります。若い連中でやっている掲示板を経営者が見て、激励のつもりで「良いことをやっている。頑張ってほしい」と発言すると、「経営者も見ている。変なことはいわないようにしよう」と身構えることになり、平凡な内容あるいは経営者礼賛の内容になり、不活発な掲示板になる危険も発生します。経営者・管理者にアクセスさせない掲示板を作ると自由奔放な議論が沸騰するというような例もあります。

 グループウェアは、経営者にとって裸の王様になるのを防ぐのに効果がありますし、部下の意識や行動を把握するのに適しています。しかしそれは、管理監視の道具としてグループウェアを認識しているので、いわばクローズな文化を維持することにもなります。経営者自身がグループウェアの目的を理解することが望まれます。

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