新任シスアドの理想と現実と自己満足……(第1話)目指せ!シスアドの達人(1)(3/4 ページ)

» 2005年07月13日 12時00分 公開
[山中吉明(シスアド達人倶楽部),@IT]

新しい事務処理ツール

 坂口は、その日の夜、営業からオフィスに戻ると、すでに退社している松下のデスクの前に立った。乱雑に書類が詰まれているが、きっと一定の法則に従って配置されているに違いない。山を崩さないように、いくつかの申請書と手引きを抜き取って持ち帰った。

 新宿駅から小田急線に乗り、経堂駅で降りて10分ほど歩くと、坂口の住むワンルームマンションに着く。5階建ての最上階にある坂口の部屋の窓からは、右手に駅前のネオンが見え、左手には新宿の高層ビルが遠く夜空に浮かび上がっている。まだ空けていない山積みのダンボール箱を押しのけて、奥にある冷蔵庫から「太陽のDRY・生」の500ml缶を1本取り出すと、坂口はのどを鳴らしながら2度3度飲み干した。そのままバルコニーに出て、夜景を眺めながら、ため息をついた。

〜松下さんだって、きっといまのままでは困ると思ってはいるはずだ。自分の作ったやり方に愛着はあるにせよ、松下さんがいなかったら誰も経費精算ができないような状態になっているのはまずいよな。ひとまず、俺がいくつかサンプルを作ってみんなに使ってもらおう。申請書のレイアウトも工夫して、同じことを何度も書かなくていいようにして……実際のものを見れば、松下さんも納得するかもしれない……〜

 坂口は、早速自分のパソコンを立ち上げ、持ち帰った申請書を基に、エクセルできれいにひな型を作り始めた。翌朝には10枚ほどのサンプルが出来上がり、さらに複数種類の申請書の共通項目は、1か所入力するだけで、ほかの申請書にも自動的に複写される機能も付けて「申請書簡易作成ツール」として作り上げてしまった。

〜これなら、接待費や交通費の精算が、いままでの何倍も速いスピードで作成できて、しかも申請後の手続きも電子データだからペーパーレスにすることもできる。領収書をため込むこともなくなり、松下さんも楽になって、みんながハッピーになれるはずだ〜

 翌朝出社すると、松下の姿がなかった。谷田に聞くと、風邪をひいて休暇だそうだ。坂口は、カバンに忍ばせていた申請書ひな型を机の上に出し、パソコンを立ち上げると、ポケットからUSBメモリを取り出し、パソコンに「申請書簡易作成ツール」をダウンロードした。今日は、吉祥寺にある量販店で10時30分にアポイントが入っているが、出発まであと30分ほどあるので、ツールをさらに改良することにした。申請書作成画面に印刷ボタンを追加し、選択肢が限られる項目はリストボックスから選択できるようにした。出来上がったツールを社内イントラにある営業1課の寂れた掲示板に張り付けて、簡単な操作方法を明記した。

「坂口、そろそろ行くぞ」椎名が声を掛けてきた。

 坂口は、椎名の担当テリトリーの半分を引き継ぐ予定で、今週いっぱいは、2人であいさつ回りだ。椎名は引き継いだ分のパワーを新規開拓に注ぐことになる。坂口は、同じく担当テリトリーの維持と新規開拓、それに加えて新営業支援システム開発プロジェクトの推進がミッションとなる。中央線快速電車を吉祥寺駅で降り、北口からアーケード街に向かった。程なく取引先に到着し、あいさつと引き継ぎを済ませると、すでに正午を過ぎていた。

椎名 「それにしても、いい天気だなあ。昼飯はコンビニで弁当を買って、花見でもしながら食うか」

坂口 「お、いいですねえ、賛成です」

 2人は、駅前のコンビニで弁当を買い込むと、井の頭公園に向かった。

坂口 「今週末が見ごろって感じですね」

 公園のベンチに座り、5分咲きの桜並木を眺めながら坂口が切り出した。

坂口 「椎名さんは、経費精算をためる方ですか? ためない方ですか?」

椎名 「俺か? そうだな、精算は月イチだな」

坂口 「そんなに溜めるんですか? 立て替えがきついんじゃないですか?」

椎名 「まとめて出した方が、松下嬢の機嫌がいいからさ」

坂口 「はあ、そういうことですか……。俺、昨日、経費精算を簡単にできるツールを作ったんです。帰ったら、使ってみてもらえますか?」

椎名 「ふーん、そうか。でも、松下嬢が何ていうかな」

坂口 「昨日、ちょっと話をしたんですが、ちょっと機嫌を損ねてしまいました」

椎名 「そりゃまずいなぁ……」

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