分かりにくいITスキル標準を解剖してみよう〜ITプロフェッショナル育成協議会などの議論よりユーザー企業から見た「ITSS」(2)(2/3 ページ)

» 2005年10月25日 12時00分 公開
[島本栄光,KDDI株式会社]

ITスキル標準独自の用語の定義?

 フレームワークが何となくつかめたら、次はITスキル標準で挙げられている独特な用語を少しずつ見ていきましょう。ここでも、具体的なスキル項目などにとらわれるのではなく、まずフレームを理解するために、必要なキーワードを理解していくことが大切です。

 では、そのキーワードとはどのようなものなのか。それは、先の構成要素の図の中でも挙げられています。これらの用語は、ITスキル標準ならではのものも多く、一見して意味がなかなか理解できないかもしれません。そこで、それぞれの用語の定義をまずしっかりと押さえましょう。

  • 『職種』と『専門分野』
    −一言でいえば「キャリアの定義」
    −ITスキル標準では「〜を実施する」と表現しています
  • 『達成度指標』
    −一言でいえば「実際に実務能力があるかどうか評価するための指標」
    −ITスキル標準では「〜の経験・実績を有する」と表現しています
  • 『スキル領域』
    −ひとことでいえば「その職種の実務遂行に必要なスキル領域」
    −例えば「ソフトウェアエンジニアリング」とか「プロジェクトマネジメント」
  • 『スキル熟達度』
    −一言でいえば「課題解決能力と知識項目」
    −ITスキル標準では「〜ができる」と表現しています

 それぞれ、微妙に似通った言葉に思えるかもしれませんが、それぞれの定義をしっかりと理解することにより、ITスキル標準が少しずつ分かってくるはずです。

11職種38専門分野をざっくりと押さえよう  

 ITスキル標準のフレームワークと、そこで展開されている専門用語が大体理解できたところで、次にいよいよ各職種の内容に入っていきます。ITスキル標準は、11職種38専門分野に分かれて定義されています。それぞれの職種の名称ですが、割と一般的に使われているもの(コンサルタントとかITスペシャリストなど)から、普段あまり使われないもの(ITアーキテクトとかエデュケーションなど)まで、いろいろあります。

ITスキル標準 スキルフレームワーク


 ここで注意が必要なのは、あまり見かけないものよりも、割と一般に使われているものの職種の定義です。なぜ注意が必要かというと、一般的であるが故に、多くの人がその職種の名前に対してそれぞれのイメージを持っていて、意外と定義が一意ではなく、中途半端な認識のズレが発生しやすいからなのです。逆に、初めて聞くような職種名は、あまり定義が認知されていないので、ITスキル標準の職種の説明がそのまま解釈されて、多くの人の理解が収束しやすいといえます。

 ということで、各職種および専門分野については、多少面倒でも、11職種38分野すべてについて、一通り定義を確認しておく方がよいでしょう。そして、確認するのは、ITスキル標準の各職種の最初に記載されている『職種の概要』における「職種の説明」です。

職種の説明(アプリケーションスペシャリスト)(クリックで拡大)

(ITスキル標準センターWebサイトより)

 ITスキル標準における職種および専門分野の定義はすべてここに記載されているので、必ず押さえるようにしてください。以上のように、段階的に大きなところから少しずつ細かなところにブレークダウンしていくように見ていくと、ITスキル標準の姿がイメージできてきたのではないでしょうか。

ITスキル標準の改善活動

 ITスキル標準は多くの方々が英知を結集して考え、整理したものです。なんだかとっつきにくいというだけで、毛嫌いし、また誤まって理解されてしまうことは非常に不幸なことなのではないかなという気もします。逆にいえば、うまく活用することができ、人材育成・評価だけでなく、IT関連の組織ガバナンスやIT資源の調達といった面でも、かなり使える道具になるのではないかと思うのです。

 そういった観点で、ITスキル標準センターでもいろいろと見直し、改善のアプローチが試みられています。ここでは、その活動のいくつかをご紹介しておきましょう。

ITプロフェッショナル育成協議会の活動  

 ITスキル標準が公表されてから2年が経過した2004年11月に、ITスキル標準の現状の課題と論点を浮き上がらせるべく、ITプロフェッショナル育成協議会が設けられました。協議会の委員には、ベンダ企業やユーザー企業、大学教授、IT関連研修機関などの外部有識者16名と、経済産業省からのオブザーバー5名で構成され、2005年2月までに合計5回の協議会を開催しました。協議会の席では、さまざまな角度から意見が出され、今後のITスキル標準の普及/浸透に向けての方向性が示されました。

 本協議会で議論された主な論点は下記のとおりです。

1)ITスキル標準を活用する際の目的にかかわる論点

  • 戦略もなく、単にITスキル標準のフレームを当てはめることしか考えられていない事例が多い
  • 個人の視点でITスキル標準を見ていないケースが多々あり、個人のモチベーション低下を招いている

2)スキル標準の適用方法にかかわる論点

  • ITスキル標準は、あくまでも標準であり、これをすべて自社に組み込む必要はない」というメッセージがうまく伝わっていない
  • 「ITスキル標準をどのように活用すればよいのか?」という点を説明できるガイドが少ない。またはあったとしても、それが知られていない

3)人材育成の方法や環境、成熟度にかかわる論点

  • 人材育成が各企業で軽視されていることが多く、ITスキル標準もあまり重視されていない
  • 教育機関があまり深く理解せずに、「ITスキル準拠」とうたった研修コースを提供している

 この論点で指摘されたような状況を生んだ原因としては、「ITスキル標準センター側の説明不足」と「利用する側の認識不足」という点につきます。そしてさらには、「分かりにくいITスキル標準」というのがその根本原因になっているのです。ちなみにこれらは、ITベンダ企業側の状況です。ユーザー企業においては、いまだに問題にすらなっていないというのが現状です。

 逆にいえば、ユーザー企業が理解できるようになれば、ITスキル標準は一気に普及する可能性があるのです。例えば、ITベンダの選定や評価において、このITスキル標準が1つの分かりやすい「ものさし」になっていけば、IT業界における健全な発展が期待できるのではないかと考えるのです。

 こういった議論を踏まえ、本協議会では以下に示すような運営活動の方向性が示されました。

1)ITスキル標準の改訂

⇒2006年3月には、より分かりやすく整理されたバージョン2.0が公開される予定です

2)経営者向けITスキル標準概説書の策定

⇒人材育成は経営戦略とも密接に関係するという前提で、経営者にITスキル標準をきちんと理解してもらおうというアプローチです

3)プロフェッショナルコミュニティ活動の充実

⇒こちらは後で詳しく説明します

4)各種ガイドラインの策定

⇒研修ガイドライン、育成・評価ガイドラインなど、より実際の人材育成に活用できるガイドラインを充実させます

5)人材育成・管理の在り方の検討

⇒人材に関する検討は、企業の中ではある特定の組織だけでは取り組むことが困難なテーマであるということで、ITガバナンスを見据えた人材戦略について継続的に検討し、ITスキル標準をその1つの手掛かりにできればということです。

 以上のように、ITスキル標準は課題が山積みの状態です。しかし企業組織にとっては避けて通れない課題を洗い出すきっかけにもなり得るというのが、今回の報告で明らかになりました。また、今回の運営活動の方向性は、ITスキル標準センターにおけるコミットメントでもあります。今後のITスキル標準センターの活動が非常に楽しみであるともいえるでしょう。



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