論理的には全面移行をするべきですが、そうするにはあまりにも敷居が高いし、リスクが大き過ぎます。そこで、多くのコンサルタントやベンダは「ERPパッケージは小さく生んで大きく育てることが成功の秘訣だ」と逐次移行を勧めます。それは適切なアプローチなのですが、次のことを認識しておく必要があります。
○いつになったらオフコンを廃棄できるのか
逐次移行では、オフコンと新規のオープン系が併設されているので、かなりのコストが掛かりますし、運用の人員も分散されます。
逐次移行といいながら、移行しやすい部分だけを移行して、それ以外の移行には消極的なのでは困ります。当初から全体移行を最短化する移行スケジュールを明確にすることが肝要です。
○新旧のインターフェイス費用を考えよ
逐次移行では、オフコンでのシステムとERPパッケージでのシステムの間で、データ交換のためのインターフェイスのツールが必要になります。標準的なツールは準備されているとはいえ、新旧システムは異なる発想で構築されているものですし、旧システムは長年のパッチ当て的な保守により複雑になっていますから、かなりのシステムを構築する必要がありますし、そこでのエラーが頻発します。
しかも、そのシステムは、旧システムが新システムに移行したら不要になるのです。移行段階を多段階にすればするほど、インターフェイスシステムの開発が多くなります。逐次移行とはいえ、かなりまとまった単位での移行をしなければなりません。
一般的にオフコンのアプリケーションは、バッチ処理でした。データ入力は対話方式であるにせよ、それらがデータベースを更新したり、あるシステムの出力がほかのシステムへの入力として受け渡すのはバッチ処理で行いました。ところがERPパッケージでは、データを入力すると関係するすべてのデータベースがリアルタイムで更新されることが原則になっています。このリアルタイム性は望ましいことではあるのですが、移行においては面倒なことにもなります。
○新旧システムでのタイミングが異なる
オフコンに残った旧システムのデータを、リアルタイムで新システムに受け渡すようにするのは至難です。バッチで渡すときに、新システムで入力したデータとの矛盾が生じることがあるからです。
極端な例を挙げれば、得意先マスターの更新をオフコンで行い、受注データの入力を新システムで行う場合を考えましょう。この場合、新システムではマスターにない得意先からの受注データは受け付けないので、オフコンからのバッチ受け渡しが完了するまで、受注データの入力ができないことになります。単価更新処理を旧システムで行うのであれば、誤った単価での結果が多くのデータベースに反映されてしまうことになります。
また、移行したシステムでデータ入力しても、旧システムにはリアルタイムには反映されません。これも極端な例ですが、出荷システムが新システム、入荷システムが旧システムで行われているとき、在庫量が正しく反映されるまでにはタイムギャップがあります。その間に「在庫なし」の状態が発生するかもしれません。
このように、データの受け渡しで矛盾が起きない範囲を単位として移行業務を設定する必要があります。特にマスターファイルは多くのシステムに関係しているので、できるだけ早期に新システムで一元管理するのが適切です。
○リアルタイムに耐える業務になっているか
先ほど、「システムでの在庫と実在庫が異なる」という例を挙げました。実は、一気通貫のシステムになっていなかったのには、「できなかった」のではなく「しなかった」理由もあるのです。ERPパッケージでは、受注データが発生すると在庫をチェックしてから出荷指示を出すようにしていますが、実務では往々にして実在庫があれば出荷してしまい、その後で出荷データを入力する方が便利な仕組みになっていた場合があります。そのような業務の仕組みのままでERPパッケージを導入すると、トラブルの原因になるし、トラブルが広範囲に影響することがあります。
「だから業務を抜本的に改革するのだ」というのは正論ですが、それが簡単にできないから、逐次移行になるのです。特に成熟度が低い環境では、リアルタイム性の効果よりも副作用が多いこともあります。このような事情を考慮して、逐次移行のスケジュールを計画することが必要です。
「ERPパッケージを導入するのだから、これまでのシステムの知識は必要としない」というのは、大きな間違いです。現状のシステムが不都合なことが多いとはいえ、長年かけてニーズを取り入れてきたのです。
逐次移行するときのインターフェイスの作成では、現行システムをよく知っていないと正しいデータの受け渡しができません。
その事情をよく知っているのはベテランです。また、ベテランはその不都合な事項も知っています。情報システム部門のベテランだけでなく、利用部門のベテランの知識も必要です。昨今、2007年問題が騒がれていますが、ベテランのいる間に移行の大部分を完了させておくことが適切です。これは、ベテランのスキル伝承にも役立ちます。すなわち、オフコンからオープン系への移行、ERPパッケージの導入は、2007年問題対策からも緊急性の高い課題なのです。
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木暮 仁(こぐれ ひとし)
東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している
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