ストレージは以前に比べて大きく進化し、大企業でなくともさまざまな選択肢を利用できるようになってきた。このストレージの世界の基本を紹介する
私が小型スーパーコンピュータのサポートを行っていた時代、顧客の関心は、CPUの処理性能やOS、アプリケーションに集中しており、ストレージにはなかったと記憶しています。 容量は1Gバイト程度でしたが、ストレージの物理的なサイズが非常に大きく、取り扱いに苦労しました。 OSの機能を使用して、一般のシステム領域やファイル領域には通常のボリュームを作成し、高速性を要求される領域にはストライピング(RAID0)ボリュームを作成して使用していました。 ストレージの障害が発生した時には、オープンリールのテープ(140?160Mバイト/巻程度)から懸命にリストアを行ったことを覚えています。その後、サン・マイクロシステムズやヒューレット・パッカードに代表されるエンジニアリングワークステーションが主流になり、サーバ・クライアントの分散環境が普及しました。
2000年頃からでしょうか、ファイバーチャネルを使用して、IPの世界とは別にストレージのネットワークを構築するSAN(Storage Area Network)という考えが普及してきました。当初SANは、構成機器(ホストバスアダプタ、ファイバーチャネルスイッチ、ファイバーチャネルストレージ)が非常に高価であることや、相互接続に注意が必要であることから、大企業や先進的な構成を好む企業にのみ採用されるという状況でした。
しかし近年は、その構成機器が以前に比較して安価になり、相互接続の問題も稀(まれ)になってきており、より多くの企業で導入が検討できる状況になってきています。昨今は、個人情報の流出防止、法規制などの影響から、データをできる限り1カ所に統合し、管理(セキュリティ)を容易にする製品が注目されていますが、このようなシンクライアント機能を提供し得る製品とSANストレージを使用することにより、ビジネスの継続性を高めることも可能です。
SANは、高速性、ストレージの統合、リソースの有効活用が可能という特徴から、現在でも年率10パーセント以上の伸びがあります
このように、サーバの内蔵もしくは付属品という立場であったストレージは劇的に進化しています。具体的には、容量の拡大、高速化、低価格化、可用性向上、信頼性向上などが挙げられます。さらに、導入のしやすさ、管理手法、機能の種類など価格以外の要素も考慮して、企業規模、使用目的に合わせた機器選択が可能になってきています。 まずは、ストレージの基本であるディスクドライブから見ていきたいと思います。
ディスクドライブは、高価な大規模ストレージに搭載されているファイバーチャネルの製品、アーカイブやバックアップ目的に多く使用されているATAドライブ、デスクトップPCやノートPCに搭載されるドライブ、デジタルカメラやMP3プレーヤーに使用されるドライブまで、その容量、速度、価格に幅広い選択肢があります。
用途 | 容量 | インターフェイス |
---|---|---|
基幹系、業務系、IT一般 | 147Gバイト、300Gバイトなど | FC4G/2G、Ultra 320 SCSI、Serial Attached SCSIなど |
アーカイブ、バックアップ(一次ストレージとしての運用も増加傾向) | 400Gバイト、500Gバイトなど | SATA、ATA133など |
デスクトップPCやノートPC | 60Gバイト、100Gバイト、120Gバイトなど | IDE(ATA)など |
デジタルカメラ、MP3プレーヤーなど | 6Gバイト、8Gバイトなど | PATA、CE-ATAなど |
上記のように、使用用途によってインターフェイスはさまざまです。デジタルカメラやそのほかのコンシューマ製品、PCなどにはATA系のインターフェイスが使用されます。大規模のプライマリ・ストレージは、一般的に高速性と高信頼性が要求されますので、多くの場合ファイバーチャネル・インターフェイスの製品が選択されます。
日立製作所、富士通、EMCなどのファイバーチャネルストレージは、ホストバス・アダプタ(HBA)とファイバーチャネルスイッチを使用してSANを構築し、可用性・拡張性の確保やストレージ統合を行います。
Ultra 320やUltra 160 SCSI、ファイバーチャネルといったインターフェイスで、サーバとストレージを1対1で接続する構成は、DAS(Direct Attached Storage)構成(「直接接続構成」の意)といいます。DAS構成は、初期導入コストがSANに比較して安価に抑えられるというメリットはありますが、拡張性やリソースの有効活用に課題があります。
新たなストレージ専用ネットワークを構築せずに、既設のネットワーク環境へ容易に接続が可能であり、しかも異なるOS間のファイル共有が可能という特徴から、SANと共に年率10パーセント以上伸びている製品として「NAS(Network Attached Storage)」があります。Windowsベースの製品や安価な製品、さらにはネットワークアプライアンスやEMCといった企業から販売されている中規模から大規模の製品があります。アイシロンという企業からは、SANの拡張性とNASの柔軟性を備えたクラスタストレージという新しい形態の製品が発売されています。
また、ネットワークのプロトコルであるTCP/IP上に、ストレージのプロトコルであるSCSIを載せて通信を行うiSCSI製品もあります。
その実装方法は大きく分けて2種類あります。 1つ目は、通常のネットワークアダプタが搭載されたサーバにiSCSIドライバをインストールして使用する方法です。この手法は、安価に構築可能というメリットはありますが、通信処理のためにサーバの負荷が高くなるというデメリットもあります。もう1つは、iSCSI専用のインターフェイスアダプタを使用する方法です。この手法は、サーバに負荷をかけずに既存のネットワーク環境にストレージを接続できます。
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