優秀なプロマネはメンタルな働きかけもうまいプロジェクトの成功に本当に必要なもの(1)(2/2 ページ)

» 2006年07月19日 12時00分 公開
[今村智,@IT]
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実際のプロジェクトではどうすればよいのか

 ここまで読まれて、

「なーんだ、自己啓発書と同じことをいってるだけじゃないか」

と思われているかもしれません。

 一方では、このような話を当然のこととして受け入れられる方も多くいらっしゃいます。「なんかうさんくさいな」と思われた方は、どうぞ、疑いながら読んでください。そして読みながらいままでのご経験と照らし合わせてみてください。

 イメージ力や潜在意識の力をプロジェクトや組織の活動に生かす場合には、それらを生かす手法や場の構築を、あなた自身に適用するだけではなく、チームメンバーやその他の利害関係者にも適用しなければ大きな効果は得られません。そして、これらを実行するのに最も適したタイミングは、当然ながらプロジェクトチームの発足時です。

 このときまでにどのようなメンバーでチームを構成するのか、プロジェクトチームにどのような方向付け、意味付けを行うのかによってプロジェクトの成否が決まるといっても過言ではありません。

 我々の業界では、“火消し”というヒーロー的な活躍で、迷走したプロジェクトを立ち直らせるというケースも珍しくありませんが、それはあくまでも火消しです。一度火が出たものは、燃えカスも出れば、解体するしかない部分も出たりします。出火は未然に防ぐことが鉄則であることに変わりはありません。

 話を戻しますと、プロジェクト発足に当たっての最初のポイントは、どのようなメンバーを集めるのかということになると思いますが、答えを一言でいうならば、

「自己成長する人間をメンバーにする」

ということです。

 なぜならば、あなたには他人を変えることはできないからです。人が変わるのは、あくまでも本人が、“変わる”と決意したときだけです。あなたにできることは、自分で変わる可能性がより高いメンバーを集め、彼らに“気付き”の環境と適切な役割を提供することなのです。ですから、変わる・成長する可能性のより高い、自己成長する人だけを探し集めることが重要なのです。もちろん、本当は多くの人に変われる可能性があるのですが、時限付きのプロジェクトでは短時間で成長できるメンバーが必須なのです。

 それにもかかわらず、私がいままでに見てきたプロジェクトすべてにいえることは、

「メンバーの選考を全く、あるいはほとんどしていない」

ということです。

 きちんと選考したメンバーでチームを組成しても思うように進まないことが出てくるというのに、会社からいわれたからとか、同じ部だからという程度の理由でチームメンバーを構成するようでは、最初からプロジェクトの成功は難しいかもしれませんね。自己成長しないメンバーで構成したチームは、個々人がどれだけ優れた技術力を持ったメンバーであったとしても、チームとしては機能しません。たまたま、うまくかみ合うことで、そのままでうまくいくことがあるかもしれませんが、それはまさに偶然であって、実際にそのようにしてうまくいくことは非常にまれです。なぜなら、新しい人間関係の中で効率的に活動しようとすれば、いままでのやり方を多少なりとも変更していく必要があるからです。つまり、自己成長が必要ということです。

 ただし、誤解のないように付け加えておくと、これは癖のない、そこそこ優秀なメンバーを集めるということではありません。自己成長の素養があることを前提に、とがった、癖のあるメンバーを集めてもいいのです。癖のあるメンバーでも、素養が良ければ、後はマネージャ、リーダーのプロデュースする力に掛かってくるわけです。

 ということで、次の大切なステップは、良いチームを作るということになります。自己成長する良いメンバーを集めても、必ずしも良いチームが組成できたとはいえません。癖のある技術者を集めた場合には、1人1人が目指す方向性などがばらばらのため、かえってチーム力としては調和が取れず、弱いものになってしまうことも多いのです。それでは何をやるのか? ということになりますが、答えを極めて単純に表現すると、

「プロジェクトと各担当者のそれぞれのゴールを定めて、現状とのギャップを埋めるための行動を決定し合意する」

ということになります。

 ここでは、プロジェクトのゴールと各メンバーのゴールの両方が極力満たされるようにすることが重要になります。これを私はゴールアライメントの調整と呼んでいます。

 ただし、このゴールアライメントの調整は、

「今回のプロジェクトのゴールは**だけどいいですね?」

「今回の君のゴールはXXということだけど、今回のプロジェクトでそれは実現できそうかな?」

といった、ありきたりの確認方法では調整していないのと同じですから注意が必要です。この調整では、1人1人の役割におけるミッション、信念、能力、行動、環境の一貫性と、プロジェクトとしてのミッション、文化、戦略、行動、環境の一貫性との両方の調和を取ることが大切なのです。

 簡単な例を挙げると、とても優れた能力を持っているメンバーであっても、その能力を発揮するのにふさわしい環境がなければ、その能力は発揮されません。とても素晴らしい戦略を掲げた組織であっても、実際の行動がその戦略と矛盾しているようであれば、やはり目標の達成は難しいということです。


 今回は、開発技術、管理技術以外の、プロジェクト成功のために必要なものとして、メンタルな部分、ヒューマンスキルにかかわる部分に触れました。こうした分野の取り組みは、即効性がないという認識がなされており、それゆえに企業研修などでもあまり取り組まれてはいない分野です。しかし、私の経験からは、こうした部分の取り組みこそがプロジェクトの成功の原動力となるといえます。次回以降は、今回深くは触れなかった具体的な実践手順などをご紹介していきたいと思います。

筆者プロフィール

今村 智(いまむら さとし)

プロジェクト健全化推進会を主宰し、ソフトウェア開発にかかわる方々を少しでもハッピーにすべく、最新心理学のプラクティス等も取り入れた ・プロジェクトドライブセミナー ・要求開発のためのコミュニケーションセミナー ・個別プロジェクトコンサルティングなどの活動を行っている。Webサイト( http://www.human-process.com/ )からの情報発信も行っている。



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