[アイシロン] クラスタストレージとともに事業を伸ばすストレージ関連ベンダ それぞれの戦略(7)(1/2 ページ)

簡単に設置でき、ニーズに応じて半自動的に容量を拡張していける新世代のNASを提供しているのがアイシロン・システムズだ。同社の戦略と今後の展望を聞いた

» 2006年10月19日 12時00分 公開
[三木 泉,@IT]

 アイシロン・システムズは、リアル・ネットワークス出身者が設立したNASベンダ。NASボックスを積み木のように組み合わせ、各ボックスの頭脳部分が相互に協調して単一のグローバルファイルシステムを実現するという方式により、容量の追加や障害対応の作業を大幅に自動化している。当初はメディア制作関連業界で認知されたが、最近ではエンタープライズ分野への取り組みを強化しつつある。米アイシロンのグローバル・セールス・パートナーズ担当副社長、トム・ペティグリュー氏に同社の戦略を聞いた。

──アイシロンのもっとも根本的な戦略は何ですか?

 当社の戦略は、クラスタストレージ・プラットフォームを確立し、年々このプラットフォーム上に機能を築き、全般的なストレージに関する課題をより多く解決できるようにしていくことです。これまでのストレージの世界はDAS、SANストレージ、NASしかありませんでしたが、クラスタストレージは次のメジャーな製品カテゴリになるでしょう。

 当社が最初に製品を出した当時は、クラスタストレージを非常に特定された市場やデータタイプに向けて提供しました。しかしその後製品を1つ1つ出し、「OneFS」(アイシロンのストレージのOS)のバージョンを重ねるたびに、市場を広げてきました。発表したばかりのOneFSバージョン4.5では、主にデータの可用性の点でエンタープライズ向けの機能を大きく拡充し、さらに広い市場セグメントに対応できるようになりました。

──「クラスタストレージ」という言葉は各社が使い始めていますが、それぞれ意味が違うようです。アイシロンではどういうクラスタストレージを目指しているのですか?

ALT 米アイシロン・システム グローバル・セールス・パートナーズ担当副社長 トム・ペティグリュー氏

 たしかに多くの企業が「クラスタストレージ」という言葉を使うようになりました。これはクラスタストレージがストレージにおける次の波となることを市場が認めたわけで、当社にとっては勝利だといえます。システムベンダのなかには2台のフェイルオーバーだけでクラスタリングだと称していたところもありますが、そういういい方は幸い消えてきたようです。ほとんどの企業はN個の機器で構成するのがクラスタリングだという点では一致しています。

 N個で構成される「クラスタストレージ」にもいろいろな実装が見られます。もっともよく見られるのはハードウェアを通常のストレージとして構成してから、ソフトウェアをこれにかぶせて1つに見せるというものです。ネームスペースの集約あるいはストレージの仮想化ともいわれます。こうした実装ではシンプルさを実現することができません。これに対して、当社ではシンプルさを自社製品における主要な価値だと考えています。

 当社のクラスタストレージでは、3ノード、5ノード、10ノードとクラスタを拡張する作業がほとんど人手を煩わすことなく自動的に行えます。クラスタ内の障害にも自動的に対応します。当社ではターンキーシステムを提供することが信念です。接続して電源を入れれば、それだけで使い始められるようにしているのです。ほかの企業の製品では、これを実現しているところはありません。RAID、ボリューム、ファイルシステムなどを人が設定しなければならないのです。

 当社のクラスタは自律的で、リソースが追加的に利用できる状態になると、それを自動的に認識して拡張を行います。何か障害が発生した場合もどうするべきかを分かっています。

一般企業にもクラスタストレージは浸透する

──エンタープライズ向けの機能強化を進めているということですが、アイシロンがもともと強みを発揮してきたメディアやコンテンツ・プロバイダを相手とするビジネスに満足せず、エンタープライズ市場での展開を進めているのはなぜですか?

 当社では現在のITの世界に2つの根本的なトレンドがあると考えています。1つはデータの爆発です。企業ではコンプライアンスのための電子メール保存が重要となり、医療機関ではMRIなどのデータの解像度が上がってきています。製造業における検査装置も機能が向上し、より多くのデータを吐き出すようになっています。どんな企業でもこうした情報量の増大が大きな問題になっています。もう1つは技術の進展で、プロセッサの性能がどんどん向上し、ネットワーク帯域も拡大を続けています。メモリやディスクもより大きく、より安価になってきています。

 この2つの点から、クラスタリングによってプロセッサやディスク、ネットワークを集約することは、今後支配的なパラダイムになると信じています。メディア、製造業、ヘルスケアなど、あらゆる産業でクラスタリングが求められるようになるでしょう。当社はストレージにおけるクラスタリングを実現するための力を持っていると思います。

 当社がビジネスを始めたころ、メディアやエンターテインメントの分野に注力しましたが、理由はこの業界で特殊な効果や高精細画像などの大きなファイルを扱うことが多いため、当社が明確な優位性を持っていたからです。エンタープライズ分野の一般的データを扱うことは、これよりもやさしいと考えています。

 当社はまず、成功できると確信が持てる分野からスタートし、OSのバージョンアップやハードウェアプラットフォームの追加で機能を増やしてきました。今後は新たな市場にどんどん進出していきますし、最終的な考え方としても、クラスタストレージは究極的にあらゆるストレージニーズに対応できると思っています。

──現在の売り上げは、メディア業界、サービスプロバイダ、エンタープライズでどのような比率になっているのですか?

 定義の仕方によって異なるので難しいですが、30〜35%が伝統的なエンタープライズでしょう。メディアやエンターテインメントが30%、サービスプロバイダが20から25%といったところだと思います。

──エンタープライズ市場を攻めるにあたっては、これまでの売り方を変えてきている部分はありますか?

 いえ、そうでもありません。マーケティング面では従来よりもエンタープライズに適した機能に力を入れ、これを強調しています。4.5リリースではスナップショットに力を入れました。さらに可用性にも注力し、N+3、N+4といった機能を組み込んでいます。しかし売り方は従来より間接販売モデルであるため、変化はありません。

──EMCやネットワークアプライアンスをはじめとしたストレージベンダは、暗号化や改ざん防止から仮想化まで、あらゆるソフトウェア機能を組み込んできています。アイシロンを同じような道をたどっていくと思いますか?

 EMCやネットワークアプライアンスも、当社と同様に、特定の分野からスタートし、次第に対象とする市場分野を広げてきたと思います。例えばEMCは非常に成熟した企業であり、買収により成長を続けています。ハードウェアが5種類のプラットフォームの上に成り立つようになってしまっているという問題はありますが、ドキュメンタムやヴィエムウェアの買収でさらに新たな市場を積極的に開拓していると思います。

 当社も同じような挑戦をしていかなければなりません。当社は若い企業ですし、特別なハードウェアを設計しているわけではなく業界標準のコンポーネントを活用しているわけですから、OSとその上のアプリケーションは非常に重要です。当社では提供するソフトウェアを今後も増やしていき、そのことによって市場のより多くの部分に食い込んでいくことで、企業としての進化を1歩ずつ進めていきたいと考えています。

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