そして、いよいよプロジェクトのキックオフを迎えた。
20階にある会議室では、机がロの字形に構成されており、総勢9名からなるメンバーはすでにそろって席に着いていた。
それぞれの手元には、坂口の作った「プロジェクト計画書」が置かれており、正面のスクリーンには、計画書と同じ内容が映し出されていた。
今回招集されたプロジェクトメンバーの構成は以下のとおりであった。
プロジェクトオーナー 西田義行(副社長)
プロジェクトオブザーバ 佐藤光一(IT企画部長:専務取締役兼CIO)
プロジェクトマネージャ 名間瀬勝也(経営企画部長兼IT企画推進室長)
事務局 坂口啓二(IT企画推進室主任)
事務局 伊東敦史(IT企画推進室)
製造部門担当 藤木直哉(製造部主任)
情報システム部門担当 八島秀樹(情報システム部主任)
配送部門担当 岸谷小五郎(配送センター副センター長)
営業部門担当 天海有紀(営業企画部長)
名間瀬がプロジェクトの概要説明とキックオフの趣旨を説明した後、坂口が計画書に沿ってプロジェクトの進め方ならびに進ちょく会議のメンバーなどについて説明を行い、各メンバーにプロジェクトへの協力を要請した。
佐藤 「俺には進ちょく会議に出るなということか? 俺がこの会社のCIOだ。俺のいないところで進ちょく会議はやらせんぞ!」
名間瀬 「は、はい。……そうですよね!! もちろん専務には出席していただきます。おい、坂口! 資料を修正しておけよ」
佐藤の剣幕に圧倒され、名間瀬はペコペコと頭を下げつつ坂口にいった。
天海 「今回のシステムは生産管理でしょう? 営業は関係ないわ。私は進ちょく会議に出ないわよ」
坂口 「営業とのシステム連携も視野に入れて構築したいと考えておりますので……」
天海 「だったら、坂口君が私に報告にいらっしゃい」
名間瀬 「天海部長、そうしましょう。坂口を報告に行かせます」
名間瀬は面倒を避けたい、といわんばかりに天海の提案を受け入れた。
坂口は名間瀬の発言に驚いて抗議の視線を送ったが、名間瀬は目を合わせようとしなかった。一方、天海は満足げにうなずいていた。
八島 「システム構築の対象機能ってさぁ、製造部門だけでよくない? だって生産管理システムなんでしょ、これ? 営業は営業でシステム作ればいいし、配送は配送でシステム作ればいいじゃん。連携なんて調整が面倒なだけだし?」
そう口にしたのは情報システム部主任の八島だ。背が低くおかっぱにメガネを掛けた風貌で、全体的に幼い雰囲気を醸し出している。そんな風貌の中、メガネの奥の目は鋭く光っているのが印象的だ。
坂口 「システムが連携していないことに起因するトラブルも前例がありますし、これを機に改善できればと考えています。また、他社の動向を見ても営業や配送などとシステム連携しているケースは増えてきていますので……」
八島 「そうなのぉ? ま、調整は事務局がやってくれるなら、ボクは別にいいけどさ?」
各方面からさまざまな質問が飛び交う中、伊東はただひたすらノートに議事録を取っていた。
そんな中、製造部主任の藤木と配送センター副センター長の岸谷は、以前のサンドラフトサポートのプロジェクトを坂口と一緒に取り組んできたこともあり、おおむね賛同の意思を表していた。
そして、そんなキックオフミーティングも西田副社長のこの言葉で締めくくられた。
西田 「まぁまぁ君たち。パチパチ、ピッでドーン!! というシステムを期待しとるよ」
坂口は取りあえず会議が終わったことにホッとしながらも、このプロジェクトのかじ取りの難しさを肌で実感し、一層不安を感じていた。
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