働き盛り年代減少で危機を迎える情報サービス産業情シス部のリバイバルプラン(番外編 )(2/2 ページ)

» 2006年12月21日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]
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年齢構成のゆがみの原因

 年齢構成のゆがみの原因には大きく次の3つが考えられる。

採用抑制

 バブル経済が崩壊した1992年以降、日本経済は低迷期に入った。情報サービス産業も同様に低迷期に入り、現在抱えている従業員の生活を確保するための営業・受注活動に追われることになった。そのため、80年代の大量採用から一転し、採用を極端に抑制した(図4参照)。

 1998年以降、2000年問題特需が期待され若干新規採用が持ち直すが、バブル経済崩壊以前のレベルには、到底至らない状態である。

3K化

 情報サービス産業が採用抑制を続ける中で、情報サービス産業界の長時間労働の慣習がマスコミに取り上げられることが多くなり、学生の中に「キツい」仕事として認識が広まった。

 そのため、学生における人気が急落し、採用拡大を図ろうとした昨年度は募集定員に満たない採用数で終わった企業も多い。今年度もバブル時代さながらの学生獲得合戦が繰り広げられたのは周知の事実である。

 大学や専門学校においても、情報処理学部や情報処理系専門学校は人気がなく、18歳人口の減少とともに、専門学校の中には廃校に追い込まれたところも出てきている。

若年者リストラ

 実際には、情報サービス企業における新規採用数の推移で類推した年齢分布以上に30代人口は少ない。その原因は、バブル経済崩壊時に行った若年者を対象としたリストラの影響である。バブル経済崩壊時、日本のほとんどの産業においてリストラが実施され、情報サービス産業も例外ではなかった(図7参照)。

ALT (図7)情報サービス産業の従業員数推移

 しかし、多くの産業では中高年を中心としたリストラが行われたが、情報サービス産業は80年代後半に急速に拡大期を迎えた産業であったため、中高年の社員が非常に少なくリストラの対象となることはなかった。

 その代わりに対象となったのが、バブル景気に乗って大量採用した若年層であった。入社1?2年の社員が最も多くリストラの対象とされたため、バブル経済崩壊から十数年を経過した現在において、30代後半の人口の減少という事態を招いている。

ゆがんだ年齢構成を乗り越えるための3つの方策

 足のないワイングラスのようなゆがんだ年齢構成を乗り越えるために、次の3つの方策が考えられ、これらを同時に行う必要がある。

若年層の早期育成

 30代後半から半ばという働き盛り年代の人材数不足を補うためには、その下の年代を早期に育成し代替させることが考えられる。プログラム開発の経験を最小限にし、プロジェクトマネージャに早期に育成するとか、特定のテクノロジに関する英才教育をするなどが考えられる。促成栽培による弊害が発生する可能性はあるが、人的資源の解消策として実施すべき方策である。

スペシャリスト育成と複線型人事制度

 若年層による人材不足解消には限度がある。なぜなら、早期にスキルを身に付けることができる人材は限られており、また、20代人口も採用抑制や3K化による情報サービス産業の不人気により、人材数が多いわけではないからだ。

 そのため、40代以上の人材に期待することも考えなければならない。40代以上の人材は、通常管理職への道を目指していると思われるが、スペシャリストとしてとどまり、プロジェクトの中核的仕事を継続して行うことを促す必要がある。

 待遇面でも、スペシャリストで活躍することが不利にならない人事制度面での考慮が必要となり、複線型人事制度の導入は欠かせないものとなる。

グローバル・アウトソーシング

 若年層が上位の仕事をするようになると、従来、若年層が受け持っていた仕事であるプログラム開発をする人材が不足する。いままでは、国内の他社に委託したり、人材派遣を受けたりすることによって人材不足を解消してきたが、日本の情報サービス産業全体で若年層が不足する状態であるため、日本国内での人材調達は難しくなる。従って、海外の力を借りざる得なくなる。

 いままでは、コスト削減を目的としたオフショアに取り組む企業が多かったが、今後は人材不足解消のためにオフショアに取り組む企業が増加すると思われる。

根本的解消には情報サービス産業の産業としての魅力向上が必須

 日本の情報サービス産業のゆがんだ年齢構成を解消する方策を考えてきたが、根本的な解消にはならない。根本的な解消を図るには、情報サービス産業がほかの産業と比較して魅力のある産業になる必要がある。

 そのためには、情報サービス産業の社会的な重要性を正確に世の中に知らしめるとともに、長時間労働の解消や、多段階下請け構造の改善、人月見積もりからの脱却など産業としての体質改善に取り組む必要がある。

 情シス部が人材ポートフォリオと集中特化によりリバイバルすると同時に、パートナーである情報サービス産業が働き盛り年代の減少という危機を乗り越えることができれば、情報システムを基盤とする日本企業の競争力を向上させることができると確信している。

著者紹介

▼著者名 井上 実(いのうえ みのる)

横浜市立大学文理学部理科卒。多摩大学大学院経営情報学研究科修士課程修了。グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。人材ポートフォリオ構築、人材開発戦略立案、キャリアパス構築などに関するコンサルティングを担当。中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。

第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。

著書:「システムアナリスト合格対策(共著)」(経林書房)、「システムアナリスト過去問題&分析(共著)」(経林書房)、「情報処理技術者用語辞典(共著)」(日経BP社)、「ITソリューション 〜戦略的情報化に向けて〜(共著)」(同友館)。


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