非常事態から企業活動を復旧する手順事業継続に真剣に取り組む(5)(2/2 ページ)

» 2007年02月02日 12時00分 公開
[喜入 博,KPMGビジネスアシュアランス株式会社 常勤顧問]
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業務再開フェイズ

 不測の事態の発生に伴い、BCP発動フェイズで決定されたBCPに基づき、業務再開フェイズの作業を行います。対応作業の検討に当たっては、次のことを考慮します。

  • 業務のすべてを再開するのではなく、活用できる資源も考慮して最重要な業務のみを再開する
  • 本来の作業手順、方法とは異なり、その時点で活用できる資源、要員などにより可能な手順、方法で業務活動を行う(例:手作業による対応)
  • 本来の業務活動とは異なる場所、組織などにより業務活動の全部、あるいは一部を再開する(例:情報システムのバックアップセンターへの移行)

 BCP発動フェイズから業務再開フェイズへの移行に伴い、役割分担や要員のシフトが発生します。なお、この時点では、次の状況になっており、これらを考慮した対応が必要です。

  • 策定されているBCPが、すべてそのまま適用できるとは限らない(弾力的な変更も必要)
  • 自然災害などの場合、再開作業に必要な関係者が被災している場合がある
  • 業務再開フェイズに必要な資材、設備などが被災・損傷している場合がある

 業務再開フェイズで実施する主な対応事項は、表2のとおりです。

項目 作業内容
(1)業務再開フェイズ体制の確立 対策本部の下に、必要ならば業務再開フェイズ実施チームを組織する
(2)業務再開フェイズ手順の確認 業務再開フェイズ手順は、すでにBCPによって策定されているが、その内容の確認を行う。すでに策定済みのBCPの内容が現在の状況に不適切、不十分な場合には、その変更を行う
(3)業務再開フェイズ開始のための準備作業 要員(体制)・設備などの代替リソースの確保、代替施設への移動などを行う
(4)業務再開フェイズの実施 手作業による業務代行、一部製品の製造縮退、代替設備によるシステム運用などの業務再開を行う
(5)業務回復フェイズの準備 次の段階である業務回復フェイズのための資源の手配、確保、手順の確定など
表2 業務再開フェイズにおける対応項目

業務回復フェイズ

 前のフェイズである業務再開フェイズでは、取りあえず企業にとって重要な業務の再開を行いましたが、この業務回復フェイズでは、その業務やサービスの範囲を拡大します。業務回復フェイズで徐々に業務活動の範囲を拡大することにより、最終的な全面回復フェイズへの準備を行います。リスクによっては、長期間の業務回復フェイズが必要となる場合も想定する必要があります。業務回復フェイズで実施する主な対応事項は、表3のとおりです。

項目 作業内容
(1)業務回復フェイズ体制の確立 対策本部の下に、必要ならば業務回復フェイズ実施チームを組織する
(2)業務回復フェイズ手順の確認 業務回復フェイズ手順は、すでにBCPによって策定されているが、その内容の確認を行う
(3)業務回復フェイズ開始のための準備作業 要員(体制)・設備などの代替リソースの確保、代替施設への移動などを行う
(4)業務回復フェイズの実施 業務の復旧の範囲を拡大させる
(5)全面復旧のための準備作業 全面復旧のための、資源の手配、確保、手順の確定を行う
表3 業務回復フェイズにおける対応項目

全面復旧フェイズ

 全面復旧フェイズの作業は、暫定対応していた業務を、平時の事業の状態に復旧する作業です。復旧の目標は、通常時の業務のレベル(業務範囲、業務量、および品質など)を回復することです。一刻も早い再開は必要ですが、不測の事態が社内体制の不備などで発生した場合には、再発防止策、あるいは社内体制の改革などを実施した後、再開する必要があります。特に火災や不祥事による事業中断の場合には、再発防止策の策定が必須となります。全面復旧フェイズで実施する主な対応事項は、表4のとおりです。

項目 作業内容
(1)全面復旧体制の確立 対策本部の下に、必要ならば全面復旧実施チームを組織する
(2)全面復旧手順の確認 全面復旧手順は、すでにBCPによって策定されているが、その内容の確認を行う
(3)全面復旧対応開始のための準備作業 要員(体制)、設備などの本来の生産設備、施設の復旧計画の策定、暫定対応から全面復旧の移動など行う。対象が情報システムの場合には、暫定対応時に処理したデータなどを本来の情報システムへ反映する方法、手順などを検討する
(4)全面復旧への移行のテスト 業務回復フェイズから全面復旧対応への移行の確認を行う
(5)全面復旧の実施 手作業による業務代行、一部製品の製造縮退、バックアップサイトや代替設備によるシステム運用などの暫定対応から、不測の事態が発生する前の本来の業務体制、業務分野への移行(本来業務への復旧)を行う
(6)全面復旧の状況確認 全面復旧の実施状況の検証・確認を行う。併せて再発防止の対応状況のレビューを行う
(7)BCP発動状況の総括と対策本部の解散 事態発生から全面復旧の一連の活動の評価、検証を行う。不具合な点があれば、BCPに反映させる。役員会に活動報告をするとともに、対策本部を解散する
表4 全面復旧フェイズにおける対応項目

 全面復旧フェイズの対応で忘れがちなのが、業務回復フェイズで業務活動を実施していた間にたまった業務案件(バックログ)の解消です。事業中断の間に停止していた業務、暫定対応していた業務をいかに通常の業務体系に反映させるかを検討します。バックログの解消とは、暫定対応として処理した業務を通常業務の手順に移行・反映させること、あるいは手作業や簡易処理をしていた業務処理にかかわるデータを通常の情報システムに反映させることなどです。またデータを最新の状態にする作業の実施と検証をいつ行うかにより、業務回復フェイズからの切り替えのタイミングが決まります。

著者紹介

▼著者名 喜入 博(きいれ ひろし)

1969年日本ユニバック(現日本ユニシス)入社。 都銀第1次オンラインシステムの開発、金融機関の情報システムの開発などに従事。 2002年KPMGビジネスアシュアランス入社。2003年より金融庁CIO補佐官を兼務。2005年まで、内閣官房「情報セキュリティ基本問題研究会第二分科会」委員、および経産省「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会」委員。


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