どうしたら、しこりなくローテーションができるのか?システム部門Q&A(40)(3/3 ページ)

» 2007年04月16日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]
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転出による戦力アップ=業務を転嫁する

 むしろ転出をさせることにより、回り回って戦力アップになる方策を考えることが必要です。優秀な人材を転出させるのですから、IT部門の持っている業務の一部を持参金として持たせましょう。それによって、IT部門の負荷を減らすことを考えましょう。

 それには、いろいろな工夫があると思いますが、Aくんのときには、これが引き金になって情報検索系システムの普及が実現しました。情報検索系システムとは、基幹系システムで収集・蓄積したデータを、ユーザーが使いやすい形式にして公開し、ユーザーが任意の切り口で検索加工する利用形態です。その典型的なものがデータウェアハウスです。

 Aくんの異動により、流通部からの新規帳票出力の要求はほとんどなくなりました。また、その成果は販売部、経理部、製造部なども認識するようになり、数年後には情報検索系システムが全社的に普及しました。

 それに伴い、それまでの基幹系システムで行っていた帳票出力の70%程度を削減することができました。そして、結果としてシステム改訂やオペレーションなどの業務は半分以下になりました。大きな戦力アップになったのです。

 現在では、多くの企業がすでに情報検索系システムは普及しているので、この例のような対策では戦力アップにつながらないでしょうが、業務改革・業務改善の分野ではさらに大きな効果があるでしょう。

転出先を選ぶ=業務統合部門をクッションに

 いかにローテーションが有効だといっても、IT部門から直接支店の営業部へ転出したり、工場の作業要員が転入してきたりしたのでは、すぐに戦力アップになりませんし、当人も困惑するでしょう。

 それには業務統括部門をクッションにして、IT部門⇔業務統括部門⇔支店・工場のようにローテーションするのが効果的です。業務統括部門とは、営業本部とか本社経理部のような販売や経理など支店や工場などにある機能を統括している部門です。そこに、IT関連の係を設置するのです。ITを活用した自部門での業務改革・改善や、支店・工場でのエンドユーザー支援などを担当します。

 業務統括部門を経由することにより、IT部門からの転出者は該当部門での重要課題を理解してIT活用の実績を上げるでしょうし、現場部門への支援を通してその部門への異動が円滑になるでしょう。

 また、支店や工場からの転出者は、全社的な観点とローカルな観点との双方から課題解決の方法を考える機会にもなりますし、IT係の業務を行う間にITに関する知識やIT部門の文化も理解できます。

 さらに効果があるのは、経営トップとの接触が多いことです。一般的にトップは、IT部門や現場部門に来ることは少ないし、来ても一般社員と接触する機会は少ない状況です。それに対して、業務統括部門には日常的に来ていますし、単に業務的事項だけでなく雑談などもしていきます。トップの考えを理解するのに適した場所です。

 先のAくんの例では、その活動がトップの目に留まり、いくつかの特命事項を与えられたりしました。そして、その優秀さが認められてほかの主要部門へ移り、そこでも実績を上げて、その後取締役にもなりました。

最後に

 今回で、本連載「システム部門Q&A」も最終回となります。2003年11月から約3年半にわたって好評連載させていただいた本連載も40回を迎え、一度終了とすることにいたしました。いままでありがとうございました。

 後日またお会いする機会を持ちたいと存じます。ご意見などいただければ幸甚です。

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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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