複数の共謀者による不正をどう防ぐか?SOX法コンサルタントの憂い(2)(2/2 ページ)

» 2007年05月21日 12時00分 公開
[鈴木 英夫,@IT]
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共謀に立ち向かうには、モニタリングが有効か?

 モニタリングを実際どうやるのか、例示しましょう。例えば、売り上げにモニタリングの焦点を絞ります。決算月、あるいは決算日の売上計上について、まず統計的なアプローチから始めます。

 まずは傾向値からの乖離や、前年同月比などとの比較です。そこで、「大きな乖離がありそうだ」となると、次には、顧客別の数字を見てみます。大きな取引先数社のみでも「大きな乖離」が見つかるかもしれません。それらの数字は限りなくグレーですね。さらに、それらの顧客から、決算の翌月に返品や、注文のキャンセルなどがないかどうか調べます。それらが、意図的に決算の数字を上げるために行われたとしたなら、「不正な押し込み販売」です。

 次に交際費にモニタリングの焦点を絞ってみましょう。こちらもまず、統計データです。例えば、所長なども含め、すべての営業職の交際費を多い順に並べてみます。さらに、交際費の売り上げに対する比率で大きい順に並べてみます。絶対額が大きい、あるいは、過大な増加を示している顧客や担当者について、伝票や証憑を詳しく見ます。こうすれば、すべての伝票を見ずに問題を発見しやすくなるので、モニタリングの効率は非常に良くなります。

 それから、モニタリングで参考になることがあります。最近ゼネコンの談合事件の例で、談合会社の1つが内部告発をされていましたが、あれは良いヒントですね。このケースでのミソは「告発者は無罪放免。名前も公表しない」ことにして、内部告発を促進したところです。

 すでに談合が実行されていたので発見的コントロールとして機能しましたが、共謀を働こうとする際に疑心暗鬼が働くので、予防的コントロールとしても機能するはずです。

 予防的コントロールとしての効果を高めるためには、不正に対しての社内処分を厳しく行うことが重要です。一罰百戒の精神です。交際費の横領などは厳しく解職処分にします。状況によっては、粛清の嵐が吹き荒れるかもしれませんが……。

 この内部告発の促進は、談合のみならず、複数の担当者の共謀によるあらゆる不正に有効です。例えば、売り上げでいうなら、複数の会社を介在した循環取引の発見に有効ですし、交際費にも同じ考え方が適用できるはずです。

 社内の親睦を図るための社内交際費使用については、「その場に居合わせた最上位者が責任を取ること」と責任の所在を社内規定で明文化し、その「最上位者がさらにその上司の承認を得なければならない」と決める必要があります。それに並行して、管理職の教育を行います。

 規則なしで教育だけ、というのでは効果がありません。教育されたからといってぬるま湯的な環境から抜け出すのは容易ではありません。「研修部やコンプライアンス室が何をいおうが、俺は俺のやり方でいく! これもコミュニケーションの一環だ。部下のモチベーションアップだ」という旧態然とした管理職も実際にいますから。

 部下としては、不透明な交際費での会食では、モチベーションはかえって下がるものです。部下からしてみれば、「正当な理由があるなら堂々と使って経費精算して、社長に承認してもらえ! 架空の顧客の名前を使って部下に精算させるな!」といいたいところでしょう。

 加えて、社内交際費の不正に対する罰則も規程に明記した方が良いですね。不正を働いた当人は少なくとも降格・配転にしないと、告発した部下がパワハラに遭う可能性があります。いくら告発者が誰なのか分からないよう保護しても、見当がつきますからね。

 だらしない上司が不適切な交際費使用に部下を巻き込む際、疑心暗鬼に陥ってくれれば、しめたものです。少なくとも不適切使用の回数は激減するんじゃないでしょうか。告発をした一般社員は無罪放免! そもそも一般社員は交際費なんて、そんな予算も持ってませんしね。

Profile

鈴木 英夫(すずき ひでお)

慶應義塾大学経済学部卒業、外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務める。

2004年から、同社のSOX法対応プロジェクトコーディネータ。現在は、SOX法・日本版SOX法コンサルタント。プランナー・オブ・リスクマネジメント、内部監査士。

著書:「図解日本版SOX法」(同友館、共著)

連絡先: ai-risk330@jttk.zaq.ne.jp

Webサイト:http://spinel3.myftp.org/hideo/ai-risk.htm


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