前回、複数の担当者が共謀して不正を働くケースの防御策を考え、対策として3つの施策を紹介した。今回は、日本より数年先行している米国SOX法のケースを取り上げ、米国におけるSOX法の問題点を探る。
米国では米国SOX法への対応に、1社当たり平均で5億円とも10億円ともいわれる費用が掛かったそうです。
その要因は、監査費用がこれまでの2倍になったことと、それだけの監査に耐え得る内部統制の文書化と評価のために、システム作りなど費用を費やしたからです。それだけ投資したにもかかわらず、実施1年目(2004年)には16%、そして次年度でも7%の企業が「その内部統制は有効ではない」と評価されるなど、厳しい結果となりました。
これはなぜでしょうか? それは、SOX法そのものが原因ではなさそうです。米国SOX法では基本的に、
1.経営者は財務報告にかかわる内部統制を評価し、内部統制報告書を作成すること
2.内部統制は、独立した公認会計士の監査を受けること
3.財務報告書類にはCEOとCFOが宣誓の署名をすること
4.虚偽の記載などがある場合には、経営者には厳しい実刑と罰金が科せられること
5.内部統制監査を監視するためにPCAOB(公開会社会計監視委員会)を設置すること
の5点を中心に書かれているだけなのです。問題は、悪名高きPCAOB(公開会社会計監視委員会)が、やたらと厳しい監査基準を作ったことにより起こりました。
「AS2(Audit Standard No.2)」と呼ばれるこの監査基準は、211ページにわたる長大な文書で内容は難解です。従って、これに縛られる監査法人は、この基準を保守的に解釈し、企業には必要以上に厳しい評価(Management Assessment)を要求したのです。
ある調査(注1)によれば、2004年に費やされたこれらSOX法対応費用のうち、39%が内部統制の文書化に、25%が内部統制の評価に、14%が計画立案とプロジェクトマネジメントに、10%が内部統制の改善に支出されたとされています。
2005年には、文書化の作業がほとんどなくなったにもかかわらず、内部統制の評価コストが増えたために、全体の費用の16%しか減少しなかったとされています。
注1:FEIサーベイMar05&Mar06ならびに、米Ernst Young社の調査結果から
企業からは、立法に携わった議員に苦情が持ち込まれました。また、「新規上場企業は、SOX法による義務を忌避せんがために、ニューヨークを避けてロンドンそのほかの証券市場で上場するようになった」と、まことしやかにいわれています。
さらに、全米商工会議所は、「米国SOX法は、煩雑な規制により企業の革新を阻害している」と述べたと伝えられています。2006年12月25日付の「ウィスコンシン法律ジャーナル誌」は、「改善は確かにあった。しかし、その対価はあまりにも過大過ぎた。にもかかわらず、不正は完全には払拭(ふっしょく)できないままである」と報告しています。
こういった批判の中、2006年5月10日にはSEC(米証券取引委員会)とPCAOBの共催による公開のラウンドテーブル会議が開催され、これらの諸問題が討議されました。この議事録は、PCAOBのWebサイト上に「Web-cast」として掲載されています。
さらに、2006年10月31日に米国副大統領は、「SOX法は行き過ぎている、ホワイトハウスはSOX法規制軽減を検討する」といった旨の発言をしています。SOX法の提案者の1人であった、サーベンス上院議員も、「現状はわれわれが望んでいたものではない」とコメントしたと伝えられています。
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