ITILを本当に推進できるのはだれかブライアン・ジョンソン ITILの文脈(2)(2/2 ページ)

» 2007年05月22日 12時00分 公開
[ブライアン・ジョンソン,@IT]
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ITILを本当に推進できる人はどこにいる?

 一般企業の内部で、ITILを本当に推進する立場になれる人はだれなのか。これはすでにお話ししたITILコミュニティの課題とも関連するテーマです。世界一のITIL書籍を執筆して、「CIOは絶対によむ必要がある」と訴えたとしましょう。それでもこの書籍を読んでくれるCIOは、おそらCIOになる前にITILを勉強してくれた人たちです。これがいつになっても大きな問題です。

 ITILのプロジェクトには上からの強いサポートが必要です。いつでも何らかの障害があり、スムーズに進むとはいえないからです。しかし現場でやっていることをトップの人がいつも見守ってくれているということが分かっていればうまくいきやすくなります。

 英国のOGCで私が経験した例をお話ししましょう。OGCでは以前、過去からの成り行きで9つのヘルプデスクを持つに至っていました。私が民間を経験して戻ってきたとき、OGCのトップが「われわれはITILにいわれているようなことをすべきではないのか」と私に聞きました。トップ自らが、これをやるべきではないのかと話したのです。私は「はい、ビジネスサービスデスクを設置してヘルプデスクを統合しましょう」と答えました。そして「これからは何か問題が起こったら、(ヘルプデスクではなく)サービスデスクに電話してください」と頼みました。そのトップは「分かった。やろう」といってくれました。この爵位を持つ、政府で非常に重要な人物でした。その人が何かにつけてサービスデスクに毎日電話をかけたのです。皆、この人がやっているのだから、私たちだってやれるはずだと思いました。書籍に何が書かれているかよりも、トップの人がコミットしてくれ、努力を理解してくれているということが重要だったのです。この人はさらに、サービスデスクは最高だ、こんなことも、あんなこともやってくれたと公言してくれました。

 この話は、以前にお話したITILは何から手を付けるべきかという議論にもつながります。当時のOGCではサービスデスク関連が組織としての課題でした。課題がそこにあるならば、インシデントや変更管理からITILを始めることに何の問題もありません。ただし、プランニングでは、どんなことがあってもキャパシティの点から検討し始めるべきです。十分な人は確保できるのか、トレーニングは可能か、プロジェクトを始めたときに組織のITサービスに与える影響はどれくらいなのか。こうした点を十分考慮しないままに、これを直したいから早くやろうといって全体計画のないままに見切り発車してしまうと、問題をさらに大きくしてしまったり、後でやり直さなければならないことが出てきたりします。そうするとITILが批判されます。よく行われているように、インシデントや問題解決を始めてしまい、後でISO 20000に対応しようとするとプロセスに修正を加えなければならないといって、ITILを責めるのです。これは完全に的外れです。

コストとSLAに関するユーザーの要求に応える

 最終的には、コストやSLAに関する組織としての要求に応えるということが、ITILの原動力となるという意見は正しいと思います。コストをまず最初に検討することで、何を実施できるかを把握できます。「ITの必要性を満たすために、この3つのサービスを買え」という人が現れたとします。しかしまず、これらのサービスを導入したら、現在稼働している各種アプリケーションはどういう影響を受けるのか、特にユーザーが気付きやすいSLAを損なうことはないかを考えなければなりません。現金会計処理で新しい入力方法を試したいといったときには、支払い後の会計処理のシステムや、一部の再支払い関連の処理や、経営陣に対する報告にも影響をもたらす可能性があります。どんな影響があるかをまず見定めなければならないのです。

 ここでコストやSLAの考慮が必要になってきます。場合によっては。「この方法だと、組織として支払いたいコストの枠内では、十分な可用性が保てなくなる」といった議論にも発展します。(ITILのために)導入しようとするITサービスのコストが明確化されていないと、どれくらい組織としてコストを支払いたいかすら決められません。現在のITのサービスレベルを保つためだけに、1日数千円のコストが上積みされるとすると、この上積みされる金額を組織として支払いたいのか、そうでないならば、どれくらいのサービスレベルで納得するのかを明確化する作業を通じて、ITと業務の双方は歩み寄ることができます。

著者紹介

▼著者名 ブライアン・ジョンソン(Brian Johnson)

米CA ITIL実践マネージャー。英国政府機関CCTA(現OGC)で、情報システム運用管理のベストプラクティス集「ITIL」の企画・執筆メンバーとして活躍。世界的なITILのサポートグループ「itSMF」を創設し、その終身名誉副会長となっている。


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