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» 2007年05月28日 12時00分 公開

目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(7):戦う女のほろ苦い過去と、副社長の苦悩 (3/4)

[山中吉明, 石黒由紀,@IT]

ホテイドリンクの実力

 サンドラフト・情報システム部主任の八島は、前回のプロジェクト会議の後、名間瀬に呼び出され、RFIDの導入事例を緊急調査するように念を押されていた。

 坂口は依然、1年後のリリースに執着する名間瀬には反対の姿勢を崩していなかったが、新生産管理システムのグランドデザインを進めるために、他社の事例調査に着手したいと考えており、同業他社の情報システムの実態をヒアリングしようと、八島の元へ相談に来ていた。

坂口 「実は、他社の事例を実際に見に行ってみたいと思っているんです」

八島 「なんだ、それならいまちょうど段取りしてたところだよ」

 八島は、ビール業界3位のホテイビール系列の清涼飲料メーカー、ホテイドリンク社の配送センター兼システムセンターの見学会の企画を持ち出してきた。

八島 「日程ももう決まってるんだよね?。あさってなんだけど、よろしく」

坂口 「あ、あさってですか。分かりました……。それにしても、ライバルのホテイがよくOKしてくれましたよね。八島さんて意外と顔が広いんですね」

八島 「なんだ、こっちは忙しい中、段取りしてるってのに、意外とはないだろ」

坂口 「あ、すいません、失言取り消します」

八島 「まぁ、いいよ。今回の話は、西田副社長のパイプらしいな。佐藤専務が直々に僕のところに来てね、『おい、お前、坂口と一緒にホテイドリンクに見学に行って来い』、だってさ。ちょっとびっくりしたけどね?」

坂口 「西田さんが……」

 ホテイドリンクは、親会社のホテイビールから7年前に分社化し、清涼飲料メーカーとして、全国の大都市に独自の物流拠点を持つ中堅企業だ。ホテイビールの創業社長(現会長)の孫であり、ホテイビール社長の一人息子でもある布袋泰博氏が、社長として手腕を振るっている会社だ。

 独自ブランドの商品は少ないが、小規模の飲料メーカーの物流代行を請け負うビジネスモデルを確立し、ホテイビールの物流ノウハウを生かして独自のロジスティクスシステムを完成させた。小規模飲料メーカーの物流を押さえ、将来のグループ化も視野に入れての業務展開で、分社後7年目にして物流商品の扱い高は業界トップに肉迫している。そのアグレッシブなビジネススタイルが業界の間で注目され、清涼飲料業界の風雲児として布袋社長の暴れん坊ぶりには、高い評価が集まっている。

 ホテイドリンク社の配送センター兼システムセンターは、千葉県野田市の国道16号線沿いにあり、大規模な物流倉庫とシステムセンター棟を併設した拠点だ。坂口、八島、伊東の3人は、社有車でホテイドリンクへと赴いた。常磐道の柏インターを下りて、国道16号線を春日部方面へ向かい、しばらく走ると大型ショッピングモールに併設された遊園地の観覧車が目に入り、それを通り過ぎて間もなくホテイドリンクに到着した。

伊東 「ここがホテイドリンクかぁ……」

 後部座席から車を降りた伊東は、大型トラックが何台も横付けされている倉庫棟を見上げていった。運転席から降りた八島も倉庫棟を見上げていった。

八島 「ふーん、古い倉庫だなぁ……。どこかの会社のを買い取ったのかな」

坂口 「あそこがオフィスビルですね」

倉庫棟の向こう側に、オフィス棟の屋根が見え、屋上にホテイグループのシンボルである「ほていさま」のマークがこちらを向いてほほ笑みかけている。オフィス棟の前まで行ってみると、倉庫棟に比べて格段に新しく、新築の雰囲気が漂う近代的なオフィスビルだった。受付を済ませると、システムセンターらしくセキュリティIDカードを1枚ずつ渡された。程なく、セキュリティシステムに守られた自動ドアの向こう側から出迎えがやって来た。システムセンター長の園村純である。

園村 「いやぁ?、お待ちしておりました。システムセンター長の、そのむらです。さぁ、どうぞお入りください」

 システムセンター長にしては、昔かたぎの泥臭い雰囲気を感じさせる園村は腰低くあいさつすると、センター内へと3人を導いた。最上階の10階までエレベーターで一気に昇り、倉庫棟や先ほど通過してきた観覧車を一望できる、窓の多い明るい雰囲気の会議室に通された。そこにはすでにもう1人の社員がPCとプロジェクターの準備をしていて、坂口たちが来るのを待っていた様子だった。名刺交換を済ませて席に着くと、電動カーテンが閉まり、薄暗くなった室内のスクリーンにホテイグループのトレードマークが映し出された。

園村 「それでは、本日は皆さんに私どもホテイドリンクの会社概要と物流システムについて、ご説明させていただきます。まず、会社概要ですが……」

 園村は、いかにも慣れた口調で台本どおりともいうべき会社概要の説明をした後、ホテイドリンクの物流システムの生い立ちについて熱っぽく語り始めた。その話はシステムの中身というよりは、どのようにして新しい物流システムを導入したのかという、どちらかというと業務改革についての説明に重点が置かれた内容だった。

 坂口たちは、そこで30分ほどの説明を聞いた後、実際に筐体の設置してあるシステムフロアを見学した。八島は、整然と設置されたサーバ群を見ながら、見学に立ち会ってくれている社員に矢継ぎ早に質問している。

八島 「ここのプラットフォームは、何を使ってるの? Windows?」

社員 「いいえ、Linuxです。5年前に親会社のシステムから分離して、ホテイドリンク独自にWeb/AP/DBサーバを導入しました。社長がシステムと音楽は新しもの好きなもので……親会社に縛られるのはかなわん、といって独自のシステムを作ったんですよ」

八島 「ふうん、そうなの。ここは24時間365日止まらないの?」

社員 「はい。法定点検時にも完全停電しない設備を導入していますので、1年中稼働してます」

八島 「バックアップセンターはあるの? DBは分散処理とかしてるの?」

社員 「はい。大阪の物流センターにバックアップサーバを置いています。ここでもRAIDを組んでいますが、大阪とは別の同期管理システムが動いていまして……」

 伊東は、話についてゆけずに目を丸くして2人の会話を聞くばかりだった。坂口は、サンドラフトサポートのサーバルームにはよく出入りしていたが、これだけ大規模のシステムセンターに足を踏み入れたのは初めてで、いくつものサーバが立ち並ぶフロアで身震いするような感覚を覚えていた。

 そして、何よりも坂口を興奮させたのは、先ほどの園村が熱っぽく語った業務改革のエピソードだった。親会社から飛び出した放蕩息子に付き添い、長年面倒を見てきたホテイビールの基幹システムの運用業務に別れを告げ、一から新しい物流システムを作り上げたベテランエンジニアの園村は、年下社長の右腕として、物流システムの面で大きな支えとなる存在だった。親会社のシステムに寄り添っていた2年間は、社長の推し進める新しいビジネスモデルにシステム面で応えられずに苦労の繰り返しだったが、着々と新しい業務プロセスを作り上げて完成させたのが、現在のシステムだ。

 注目すべきは、システム投資の費用対効果が大変優れていることだ。昔ながらの力仕事でさばく物流の仕組みをシステムに合わせて大幅に変更することはせず、システム化する部分は必要最小限にとどめ、定型的な業務プロセスに限ってERPパッケージを積極的に導入して、シンプルで使い勝手の良いコストパフォーマンスに優れたシステムを作り上げた。そして、ホテイドリンクの物流システムに相乗りしている飲料メーカーはいまや30社を超え、取扱商品の総数は1000を超えている。これらを1つの間違いもなく物流システムに乗せ、かつ、鮮度管理を含めたより細かな管理を効率よく実現するための切り札として、昨年、期待のRFIDを導入したのである。

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