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» 2007年05月28日 12時00分 公開

目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(7):戦う女のほろ苦い過去と、副社長の苦悩 (4/4)

[山中吉明, 石黒由紀,@IT]
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ライバル社の見学で、あの男に火が付いた!

2時間ほどの見学を終えた3人が、オフィス棟の外まで見送りに来てくれた園村にお辞儀をしていると、倉庫棟の方から長身でこわもての男が歩いてきた。

 帽子をかぶり、つなぎを着て安全靴を履いたその姿は、どう見ても物流センターの担当者だったが、園村がうれしそうにその男に声を掛けた。

園村 「あぁ、社長! いいところに。いま、ちょうどサンドラフトさんにうちのシステムを見学してもらったところですよ!」

 その男は社長の布袋泰博だった。眼光鋭く、目が合った坂口は思わずゴクリと唾を飲んだ。

布袋 「おー、よう来たなぁ、西田さんから聞いとるでぇ。まぁ、ゆっくりコーヒーでも飲んでいってくれ。ってうちの缶コーヒーやけどな。わっはっはっ!」

伊東 「さ、坂口さん、は、早く、帰った方が良さそうですよ……」

 伊東は布袋社長の威圧感に圧倒され、思わず坂口の耳元でささやいた。

坂口 「布袋社長、本日は大変貴重なお話をたくさんお伺いすることができました。大変ありがとうございました」

 坂口は深々と頭を下げてお礼の言葉を述べた。

布袋 「ええんや、礼なんて。それより、おたくらの会社もうちに乗り合ってもらえば、いろいろうまくいくでぇ」

坂口 「はい。御社のシステムは設計思想が素晴らしくて、感動しました。私たちの会社でもぜひ参考にさせていただければと思っております。また、日を改めまして、ごあいさつに参りたいと思いますので、本日はこれで失礼させていただきます。ありがとうございました」

 サンドラフト本社へ帰る車中、八島はなぜか時折顔をニヤつかせながら、ぶつぶつと一人言をいっていたが、不意に助手席の坂口に話しかけた。

八島 「ちょっと?、僕の話聞いてる?」

坂口 「えっ、え? 何ですか?」

八島 「だから、ホテイのシステムっていっても、大したことないじゃんってこと。僕ならもっとすごいシステム作れちゃうもんね?」

坂口 「確かに、仕組みはすごくシンプルだったし、メンテナンスも手間が掛かっていない印象でしたね。何であれだけの物流をあんな少人数のシステムメンバーで保守できるんでしょうね」

八島 「彼らは一度スクラップアンドビルドしてるんだよ、5年前に。昔からのしがらみなんて、きれいさっぱり忘れて新しいシステムに乗り換えたんだよ。うちは昔っからのレガシーシステムを抱えているから、彼らみたいに自由に作り替えることは容易じゃないと思うよ。でも、僕ちゃんならできちゃうんだな?これが」

坂口 「それに、園村さんの業務改革の話にはとても感動しました。模範的な業務改革に成功している会社ですよ。サンドラフトは、大いに見習うところがあると思います」

八島 「でも、ホテイの親分(ホテイビール)の方は、業績は右肩下がりだし、うまくいってないじゃん。同じグループなのに……。やっぱりあの不良社長の情熱と、センター長のセンスが良いんだろうなぁ」

 八島も坂口と同じように、今日の業務改革の話を聞いて、心の中に何かぽっと火がともるのを感じていた。いままでSEとして、サンドラフトのシステム開発を手掛け、それなりのシステムを作り上げてきた自負があったのだが、いままでのシステムは、本当にユーザーのことを考えていたのかという疑問を感じ始めていた。

 もしかしたら、今回のプロジェクトで自分は本当のシステム開発、いや業務改革に携わることができるのではないか、それはまさに自分の経験とスキルを存分に発揮できる機会になるのではないか、と思い始めたのである。一方の坂口は、この見学で、システム開発ありきではなく、業務改革の骨子がしっかりしていて初めてITが有効活用されるのだという、自分の信念に確信を持つことができたのだった。

 3人を乗せた車は、常磐道から首都高速に入り、隅田川を横目に眺めるあたりに来ると、次第に車の流れが悪くなり、やがて渋滞に巻き込まれた。夕日はすっかりビルの谷間に沈み、のろのろと進む車の窓から東京の夜景を眺めながら、坂口、八島、伊東はそれぞれに今日1日の出来事をしっかりと胸に刻み込んでいた。

秋……試験と試練の季節が到来する

 季節は秋。坂口がサンドラフトへ出向してから、早くも半年が過ぎていた。その半年の間、坂口の周辺は常に慌ただしかった。坂口を中心に新プロジェクトが産声を上げたが、サンドラフト本社のセクショナリズムに翻弄され、事は思うように進まなかった。IT企画推進室長の名間瀬とも意見の不一致で関係がぎくしゃくしている。

 そして、思いを寄せてくれている谷田とも会う回数がめっきり減ってしまい、数少ない機会である初級シスアド勉強会にも足が遠のいてしまった。そうこうするうちに、夏が過ぎ去った。

 ホテイドリンク社に見学に行った翌日の土曜日、坂口は自宅で情報処理技術者試験の受験票を眺めながら、この半年を振り返っていた。

(この半年間、息をつく暇もなかったなぁ……。それにしても、昨日の見学は本当に有意義だった。布袋社長は大した人物だ。園村さんは根っからのシスアドなのだろう。あの情熱と粘り強い姿勢はぜひ見習いたいなぁ。そういえば、今朝のニュースでは、山形蔵王でそろそろ紅葉が見ごろだといっていた。あっという間に秋になってしまったなぁ。あぁ……、明日は上級シスアドの試験だ。このところ、通勤時に問題を眺める程度でほとんど勉強できていない……。豊若さんから指南された準備論文はひとまず書き上げたけど、後は運を天に任せるしかないか……。)

 翌日、試験当日は、抜けるような青空で、少し肌寒い朝だった。谷田、深田、伊東の3人は、偶然同じ試験会場(都内の大学)になった。坂口は1人、自宅のある経堂駅から試験会場である都内の専門学校へと向かった。平日とは打って変わって空いている小田急線に揺られながら、昨晩、谷田から届いた携帯メールを眺めていた坂口は、ようやく谷田に返信を送った。

「おはよう! 今日は全力で頑張ろう! 努力は必ず報われるよ。坂口」

 一方の谷田は、昨日から伊東の度重なる質問メールの洗礼を受け、半ばうんざりしながらも丁寧に返信を出してやりとりしていたが、それはかえって良い直前対策になった。伊東の質問も、勉強会に参加した当初のころとは比べ物にならないくらいまともになってきていた。

 朝一番で携帯電話を見ても坂口からの返信はなく、悲しい気持ちで朝を迎えた谷田だったが、坂口の乗る電車の隣の車両で坂口からの返信メールを見たのだった。

 そのメールを見た谷田は、涙が出そうなほど感激し、みるみる元気がわいてくる気がした。そして谷田は、すぐさまメールを返信した。

「おはようございます! 今日は頑張りましょう。絶対に一緒に合格しようね。谷田」

 そして、それぞれがそれぞれの力を出し切り、秋の情報処理技術者試験は終了した……。


◆次回予告◆

 次回、プロジェクトの難解さに嫌気が差した名間瀬が責任を坂口に押し付けてきます。しかし、プロジェクトは一向に好転する気配がありません。また、ついに情報処理技術者試験の結果が発表されます。

 そして、さらに泥沼化する坂口、谷田、伊東の三角関係。さらにそこに天海まで加わって大変なことに……。

「目指せ!シスアドの達人-第2部」の登場人物関係図

ALT 「目指せ!シスアドの達人-第2部」の登場人物関係図
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IT企画推進室

室長 名間瀬 勝也(なませ かつや) 46歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 31歳


社員 伊東 敦史(いとう あつし) 24歳


今回登場メンバー
(注:SD=サンドラフト、SDS=サンドラフトサポート)

SD 副社長 西田 義行(にしだ よしゆき) 59歳


SD 専務取締役兼CIO IT企画部長 佐藤 光一(さとう こういち) 52歳


SD 営業企画部長 天海 有紀(あまみ ゆうき) 39歳


配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 42歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 34歳


情報システム部主任 八島 秀樹(やしま ひでき) 36歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 豊若 越司(とよわか えつし) 39歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 松嶋 七海(まつしま ななみ) 38歳


松嶋七海の娘 松嶋 真鈴(まつしま まりん) 10歳


ホテイドリンク 社長 布袋 泰博(ほてい やすひろ) 45歳


ホテイドリンク システムセンター長 園村 純(そのむら じゅん) 51歳


筆者プロフィール

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


山中 吉明(やまなか よしあき)

上級システムアドミニストレータ連絡会・会長

石黒 由紀(いしぐろ ゆき)

上級システムアドミニストレータ連絡会正会員。ソフトウェア会社勤務


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