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» 2007年05月30日 12時00分 公開

戦略マップとビジネスモデルの融合実践! UMLビジネスモデリング(2)(2/2 ページ)

[内田功志,システムビューロ]
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洋菓子店の戦略マップ

 ここから架空の事例を挙げて、具体的に説明していきます。

 舞台は、小さな洋菓子店です。実はこの洋菓子店の例は、製造販売業全般に当てはまるものです。小さな店を例に、今後の連載を通してその基本的な流れを体感できるようにと考えています。

 さてこの事例について背景を簡単に説明しておきます。

 定年を機に夫婦で洋菓子店を始めようとしています。最初はクッキーのような手軽なものから始めて、次第にバリエーションを増やしていこうと考えています。2007年問題が始まる今年以降、増加していく可能性のあるビジネスモデルかもしれません。

 そもそも妻は洋菓子教室などに通って長い間、その腕を磨いてきました。いまでは洋菓子教室を主宰するようになり、近所の人からときどき贈答用の注文もあります。夫は長年勤めた会社を定年退職し、店を始めたいという妻を手伝うことにしました。退職金は家を改装して店舗を作ったり、設備を補充したりして商売の元手に充てることにしました。

ALT 図3 夫婦で営む小さな洋菓子店

ミッションとコアバリュー ? まずは「志」(こころざし)

 それではミッションやコアバリューを定義していきます。

 まずこの店のコアバリューは何かを明らかにします。いろいろと検討した結果、以下のようになりました。

コアバリュー

安全・安心・良質でおいしい洋菓子を作ることができる

 次にミッションは何かを明らかにします。コアバリューを活かしてどのようなミッションにするか検討して、以下のように定義しました。

ミッション

安全で安心・良質な材料を使用し、お客さまに喜ばれるおいしい洋菓子を、真心を込めて提供することで、多くの人々の豊かな暮らしに貢献する

3C分析 ? ビジョンの検討

 ミッションとコアバリューが定義できたので、これに基づいてビジョンを策定します。ビジョンの策定には3C分析を使うことにしました。主なものを以下に挙げました。

・顧客 ? Customer

  • こだわりのスイーツに対するニーズが高まっている
  • 高くてもおいしくて上質なものを求める傾向が強い
  • 気に入ったものを他人に紹介する人が増えている
  • 一度食べて満足できなければ二度と買わない
  • 気に入ったら定期的に購入することが多く、月当たり3000円程度は支払っている

・競合 ? Competitor

  • クッキーなどの焼き菓子は気軽に始められるので、新規参入が多い
  • 大手はフランチャイズを展開して規模を拡大している
  • 小さな店は口コミなどで顧客を獲得している
  • 小さな店でもインターネットを利用して全国に配送している店が多いが、成功例は極めて少ない

・自社 ? Company

  • 洋菓子教室を運営しているので、設備は整っている
  • すでに近所からの依頼があり、贈答用の洋菓子を提供している
  • 原料の仕入れを1社に頼っている
  • インターネットに関する知識が乏しい
  • 店舗は住宅街にあり、人通りは少ない

ビジョンの策定 ? 基本目標を定める

 これらを基にビジョンは、以下のように策定しました。これから始めるということもあって、1年後どうなっていたいかを決めることにしました。

ビジョン

-顧客は堅実に増やしていき、1年後には固定客を300人にする

-1年後には利益を出せるようにする

 最初からあまり欲をかいても仕方がないので、1年間で商売の土台をしっかり固めることにしました。固定客300人は年間の売り上げを1000万円以上にするための最低条件です。

 最初は売り上げから原価や光熱費を差し引いた残りが、夫婦が得られるお金ですが、これは利益ではありません。夫婦の人件費を差し引いた残りが利益になりますが、当面は人件費もままならないでしょう。1年後には人件費を確保して利益を得られるようにしたいと考えました。

SWOT分析 ? 己を知り、敵を知る

 さらにSWOT分析を行います。基本的なSWOTを挙げておきます。

・強み ? Strength

  • おいしい洋菓子を作ることができる
  • すでに設備はほとんど整っている
  • 開店前に顧客が存在している

・弱み ? Weakness

  • 店の前の人通りが少ない
  • インターネットなどを利用できない
  • 仕入れに不安がある

・機会 ? Opportunity

  • こだわりの洋菓子の需要が高まっている
  • 口コミで広がっていく可能性が高い
  • 多少高くてもおいしければ売れる

・脅威 ? Threat

  • 新規参入が多い
  • 大手は規模を拡大している
  • 一度評判を落とすと、回復するのは難しい

クロス分析 ? 策を練る

 引き続いてクロス分析を行い、基本になる戦略目標を導く筋道をつけます。

・強みと機会

  • おいしい洋菓子は需要が高いので、販路を拡大することで売り上げを伸ばすことができる

・弱みと機会

  • 口コミで広がるとはいえ、人通りが少ないのは致命的である。知名度を上げるような努力が必要である

・強みと脅威

  • おいしい洋菓子と自負していても一度評判を落としてしまったら小さな店にとって致命的である。常に高い品質を維持する必要がある

・弱みと脅威

  • 弱みを克服して脅威を排除するためには、いま最も不安な仕入れを安定させることである。ただ単に安定させるのではなく、「強みと脅威」で導いた高い品質を維持するためにも、安全で良質な原料を安定的に確保する必要がある

戦略目標を立て、戦略マップを描く

 以上のことから、基本的な戦略目標は以下のとおりです。

  • 販路を拡大する
  • 知名度を上げる
  • 高い品質を維持する
  • 安全・良質な原料を安定確保する

 これらを基に描いた戦略マップは、以下のようになりました。

ALT 図4 戦略マップ

戦略目標をビジネスゴールにブレークダウンする

 戦略マップを作成したら、その中の戦略目標にビジネスゴールをマッピングします。このとき、ビジネスゴールをさらに検討して。新たなビジネスゴールを識別します。

ALT 図5 ビジネスゴールへマッピングする

 ビジネスゴールは、戦略マップの戦略目標を基に導いています。そして現状(As is)のビジネスモデルのどの部分にビジネスゴールを適用するのかを検討し、それに即してあるべき姿(To be)へとビジネスモデルを洗練させていきます。

 ミッションとコアバリューに始まり、ビジョン、戦略目標を経てビジネスゴールまではつながっています。ビジネスゴールは、ビジョンや戦略にマッチしたビジネスモデル(To be)を導き出すための懸け橋なのです。

 つまり、ビジネスゴールを介してビジョンや戦略にマッチしたビジネスモデルを得ることができるわけです。それを基に有効なシステムを切り出していくのですから、そこで得られたシステムはビジョンや戦略にマッチしたシステムということになります。

 しかもここでいうビジネスモデルは、ビジネス全体を見える化したものですから、ビジネス全体の流れから有効なシステムを導きます。この方法によって、部門ごとに似たようなことを行っているのにシステムが違い、それぞれが連携していないために余計な作業が発生し、そのために不要なコストが発生していることは珍しくありません。

 この方法は、新規でシステムを見つけ出すだけでなく、すでにシステムを使っている場合もビジネスの流れの中で有効なシステムか否かを確かめることができます。その結果を受けて既存システムを修正することで、ビジネスの中で有効なシステムへと改修することができます。

 今回はビジョンや戦略にマッチしたシステムを導くための最初のステップとして、ビジネスゴールを導くまでを説明しました。次回以降でビジネスモデルを定義して有効なシステムを導くまでを説明していきます。

筆者プロフィール

内田 功志(うちだ いさし)

システムビューロ 代表。日立系のシステムハウスで筑波博に出展した空気圧ロボットのメイン プログラマを務め、富士ゼロックス情報システムにてオブジェクト指向の風に触れ、C++を駆使して印刷業界向けのシステムを中心に多数のシステムを開発。現在、ITコンサルタントとして、システムの最適化や開発の効率化などの技術面、特にオブジェクト指向開発に関するコンサルティングやセミナーを実施してきた。最近ではビジネスに即したシステム化のコンサルティングを中心に活動している。


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