ここから架空の事例を挙げて、具体的に説明していきます。
舞台は、小さな洋菓子店です。実はこの洋菓子店の例は、製造販売業全般に当てはまるものです。小さな店を例に、今後の連載を通してその基本的な流れを体感できるようにと考えています。
さてこの事例について背景を簡単に説明しておきます。
定年を機に夫婦で洋菓子店を始めようとしています。最初はクッキーのような手軽なものから始めて、次第にバリエーションを増やしていこうと考えています。2007年問題が始まる今年以降、増加していく可能性のあるビジネスモデルかもしれません。
そもそも妻は洋菓子教室などに通って長い間、その腕を磨いてきました。いまでは洋菓子教室を主宰するようになり、近所の人からときどき贈答用の注文もあります。夫は長年勤めた会社を定年退職し、店を始めたいという妻を手伝うことにしました。退職金は家を改装して店舗を作ったり、設備を補充したりして商売の元手に充てることにしました。
それではミッションやコアバリューを定義していきます。
まずこの店のコアバリューは何かを明らかにします。いろいろと検討した結果、以下のようになりました。
コアバリュー
安全・安心・良質でおいしい洋菓子を作ることができる
次にミッションは何かを明らかにします。コアバリューを活かしてどのようなミッションにするか検討して、以下のように定義しました。
ミッション
安全で安心・良質な材料を使用し、お客さまに喜ばれるおいしい洋菓子を、真心を込めて提供することで、多くの人々の豊かな暮らしに貢献する
ミッションとコアバリューが定義できたので、これに基づいてビジョンを策定します。ビジョンの策定には3C分析を使うことにしました。主なものを以下に挙げました。
・顧客 ? Customer
・競合 ? Competitor
・自社 ? Company
これらを基にビジョンは、以下のように策定しました。これから始めるということもあって、1年後どうなっていたいかを決めることにしました。
ビジョン
-顧客は堅実に増やしていき、1年後には固定客を300人にする
-1年後には利益を出せるようにする
最初からあまり欲をかいても仕方がないので、1年間で商売の土台をしっかり固めることにしました。固定客300人は年間の売り上げを1000万円以上にするための最低条件です。
最初は売り上げから原価や光熱費を差し引いた残りが、夫婦が得られるお金ですが、これは利益ではありません。夫婦の人件費を差し引いた残りが利益になりますが、当面は人件費もままならないでしょう。1年後には人件費を確保して利益を得られるようにしたいと考えました。
さらにSWOT分析を行います。基本的なSWOTを挙げておきます。
・強み ? Strength
・弱み ? Weakness
・機会 ? Opportunity
・脅威 ? Threat
引き続いてクロス分析を行い、基本になる戦略目標を導く筋道をつけます。
・強みと機会
・弱みと機会
・強みと脅威
・弱みと脅威
以上のことから、基本的な戦略目標は以下のとおりです。
これらを基に描いた戦略マップは、以下のようになりました。
戦略マップを作成したら、その中の戦略目標にビジネスゴールをマッピングします。このとき、ビジネスゴールをさらに検討して。新たなビジネスゴールを識別します。
ビジネスゴールは、戦略マップの戦略目標を基に導いています。そして現状(As is)のビジネスモデルのどの部分にビジネスゴールを適用するのかを検討し、それに即してあるべき姿(To be)へとビジネスモデルを洗練させていきます。
ミッションとコアバリューに始まり、ビジョン、戦略目標を経てビジネスゴールまではつながっています。ビジネスゴールは、ビジョンや戦略にマッチしたビジネスモデル(To be)を導き出すための懸け橋なのです。
つまり、ビジネスゴールを介してビジョンや戦略にマッチしたビジネスモデルを得ることができるわけです。それを基に有効なシステムを切り出していくのですから、そこで得られたシステムはビジョンや戦略にマッチしたシステムということになります。
しかもここでいうビジネスモデルは、ビジネス全体を見える化したものですから、ビジネス全体の流れから有効なシステムを導きます。この方法によって、部門ごとに似たようなことを行っているのにシステムが違い、それぞれが連携していないために余計な作業が発生し、そのために不要なコストが発生していることは珍しくありません。
この方法は、新規でシステムを見つけ出すだけでなく、すでにシステムを使っている場合もビジネスの流れの中で有効なシステムか否かを確かめることができます。その結果を受けて既存システムを修正することで、ビジネスの中で有効なシステムへと改修することができます。
今回はビジョンや戦略にマッチしたシステムを導くための最初のステップとして、ビジネスゴールを導くまでを説明しました。次回以降でビジネスモデルを定義して有効なシステムを導くまでを説明していきます。
内田 功志(うちだ いさし)
システムビューロ 代表。日立系のシステムハウスで筑波博に出展した空気圧ロボットのメイン プログラマを務め、富士ゼロックス情報システムにてオブジェクト指向の風に触れ、C++を駆使して印刷業界向けのシステムを中心に多数のシステムを開発。現在、ITコンサルタントとして、システムの最適化や開発の効率化などの技術面、特にオブジェクト指向開発に関するコンサルティングやセミナーを実施してきた。最近ではビジネスに即したシステム化のコンサルティングを中心に活動している。
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