コンプライアンスとITILの本当の関係ブライアン・ジョンソン ITILの文脈(3)(2/2 ページ)

» 2007年05月31日 12時00分 公開
[ブライアン・ジョンソン,@IT]
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ITILバージョン3の意味とは

 ITILはバージョン3が公開されました。それでは、バージョン2でITILを推進してきた組織は、バージョン3に移行すべきなのでしょうか。その必要はありません。全般的な設計は変わっていませんし、さまざまな物事を統合してコントロールするという原則も変わっていないからです。すでに述べましたが、ITILは十戒ではありません。ITILに示されたことで1つでもあなたの組織にとって役立つことがあれば使うべき性質のものです。

 ITILバージョン3にはサービスデザインをはじめとするさまざまな優れた点が組み込まれています。しかしだからといって、バージョン3を使わなければないわけではないのです。繰り返しますが、ITILは規格ではありません。規格に導いてくれるものです。あなたがバージョン2で満足しているならそれでいいのです。バージョン3になったからといって、規格への道が短縮されるわけではありません。あなたの組織でITILをどう使いたいか次第なのです。

 バージョン3を一番活用しやすいのは、いままで何もやってこなかった組織です。「ITILについて耳にしたけれど、うちの組織に役に立ちそうだ、何から始めたらいいだろう?」と考えたなら、すでに述べたようにキャパシティやSLA、コストといった点をまずカバーすべきです。そこでバージョン3のアプローチや目標が役立ちます。問題管理や変更管理に対する投資をする前に、サービスレベル管理や可用性管理に関するコースを受けてどういうことなのか見定めようという行動につながります。しかし多くの組織は、すでにバージョン2の段階でITILに対して多額の投資を行っています。それを変更することは考えられません。

 ITILや規格への準拠に興味を持っているわけではなく、ソフトウェアをうまく使うことで、問題管理やヘルプデスクに関して継続的な改善が実現することに満足している組織も存在しています。つまりポイントは、バージョン2やバージョン3で何が述べられているか、何が述べられていないのかをいちいち気にすることではなく、あなたの組織で実務的な活用を図るということです。バージョン3で特徴的な点の1つはサービスカタログの考え方です。バージョン2でも見られますが、バージョン3ではサービスカタログの作成手順を詳しく説明しています。これをやりたいと思ったら、もちろんやるべきです。しかし、それがあなたの進みたい方向でなければ、そしてあなたのお金を使いたい対象でなければ、やる必要はないのです。

ITILはどんな企業がどこから始めるべき?

 ITILはだれでも始めることができます。ITILは従業員5人の企業にも当てはまるのです。この程度の規模の企業でITを担当している人でもITILに出会って、こういう方法を使えば2、3台のポータブルPCの利用でも問題が減るということを学べます。(ITILの)コンサルタントと話したこともなく、研修を受けたことがなくても、ちょっとITILについて読んだだけで、うちの組織のポータブルPCにそれぞれ変更を加え続けるのでなく、まとめて作業を行うことができないかと考えることもできます。これがITILの原則なのです。とても小さな会社であっても、従業員5000人以上の大企業であっても、当てはまることが見つかるはずです。

 ITILをまずどこから始めるべきか。これについては、どこからでもいいという答えもありますが、だれも最初にやりたがらないという状況があることも残念ながら真実です。バランスの取れた最良の指針は、何が一番目障りなことかを話し合うことです。英国のOGCではヘルプデスクが9つもあったという例を前に挙げました。これは単純にいって格好のいいことではありませんでした。ITやITIL以前の問題として、良い状況とはいえませんでした。こうしたことを見つけ出して、問題を解決するとともに、将来どうやっていったらいいかを考えるべきです。皆で集まって、今日何を解決するか、来週は、来月は何ができるのかを考えることから始めるべきです。

 その後で、信頼のおける業者に相談すべきです。その業者がCAであればうれしいですし、そうでなくてもいいのですが、われわれはソフトウェアを売るということばかりを考えているわけではありません。あなたの組織は最終的にソフトウェアを必要とするでしょうが、すぐに必要だとはいえないのです。まずはプロセスについて考えなければならないからです。良い業者は、何が必要かを一緒に考え、計画しましょうというでしょう。ソフトウェアをすぐに入れるというのではなく、あなたの組織で何を変えなければならないかを計画し、それに即した形でソフトウェアを構成するでしょう。

 社内で同様なプロジェクトがいくつ走っているか、それぞれがどれだけのコストを使っていて、そのうちどれがITILに関連しているのかをあなたが知らない場合もあります。そうなると、重要なのは問題を解決することよりもまず、社内で何が起こっているのかをしっかりと確認することが先決です。結果として4人がそれぞれ別個のITILプロジェクトを走らせていることが分かったとしたら、これはコミュニケーション上の問題です。それぞれのプロジェクトを吟味して1つのプロジェクトにまとめ上げるよう考えるべきですし、改めて適切なときに適切な人とコミュニケーションをし、現時点での主要なニーズは何なのかをはっきりさせることが肝要です。

著者紹介

▼著者名 ブライアン・ジョンソン(Brian Johnson)

米CA ITIL実践マネージャー。英国政府機関CCTA(現OGC)で、情報システム運用管理のベストプラクティス集「ITIL」の企画・執筆メンバーとして活躍。世界的なITILのサポートグループ「itSMF」を創設し、その終身名誉副会長となっている。


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