ITIL Version 3はなぜ必要なのか(前編)IT管理の最新事情(1)(2/3 ページ)

» 2007年08月09日 12時00分 公開
[三木 泉,@IT]

ITIL Version 3登場の理由

――ITIL Version 3が必要だという判断に至った理由は何だと考えますか。

ニーブス氏 一番単純な表現をするなら、一貫した品質のサービスを顧客や業務組織に提供するという点で、IT組織があいかわらず苦労し続けているからだと考えます。

タービット氏 同時に、市場が変化してきているということも指摘できます。これに伴い、新たな機能が生まれてきました。ITILにおいてもこうした新しい機能を、ベストプラクティスの一部として主要な文書に組み込むことを考えなければならなくなってきたのです。従って、ITIL Version 3には「サービスマネジメント」「リクエスト・フルフィルメント」「アクセスマネジメント」といった要素が入れられました。これらは従来ITILに含まれていませんでしたが、市場においては理解が進み、取り込もうという動きが出ていたものです。

ニーブス氏 もう1つの例として、10年以上前に前バージョンが出た時点で、「オフショアリング」は石油業界の言葉でしたが、いまではIT業界で使われるようになったといったことがあります。

――しかし、ITIL Version 3は新しい要素を追加しただけでなく、全般的にバージョン2を再構成していますよね?

ニーブス氏 ITIL Version 3は第1に、従来のバージョンにおける一部の誤りを正しているという点で、進化を目指したものだといえます。第2に、いまお話ししたように新しい考え方への拡張も行っています。第3に、経済にはいろいろな産業があるということを改めて認識したということでもあります。バージョン2は製造業的なモデルと哲学を反映していました。しかし、サービスはこれとはまったく違うということを、世界中が理解するようになってきました。サービスの提供や利用のやり方は、例えば自動車を大量生産するやり方とは異なっています。従ってわれわれは、モデルを考え直す必要がありました。

ALT ニーヴス氏(右)とタービット氏(左)

ポーターのバリューチェーン」という有名なモデルがあります。ハーバード大学のマイケル・ポーター氏が生み出したモデルで、ステップの連続を基本にしています。原材料があるとすると、これに順次何かを行っていき、最終的に価値を付加することによって、価格を上げることができます。これが、ビジネスにおいて価値が生まれるあり方を定義する考え方だったのです。この考え方は1980年代、まだ米国も日本も経済における重点を製造業の改善に置いていた時期に生まれました。製造業にはうまく当てはまる考え方でした。しかし、サービスのコンセプトは物についてのコンセプトとは非常に違うということに気が付きました。ITサービスは自動車の生産とはかなり違うのです。

 サービスでは知識、戦略的なノウハウ、プロセスに関するノウハウ、コラボレーションなど、触ることのできないものばかりです。これは組み立てラインではなく、バリューチェーンは当てはまりません。従ってITIL Version 3では「ライフサイクル」という考え方を導入しました。「それもステップの連続ではないか」という人もいます。しかし、われわれは直線的なラインで考えるのではなく、動的なものとしてとらえ、いろいろなところからスタートすることができるし、いろいろな部分が相互に作用するというように考えました。非常にインタンジブル(無形な)で、生まれた場所でしか消費されないというサービスのありようを取り入れているのです。

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