ITIL Version 3はなぜ必要なのか(前編)IT管理の最新事情(1)(3/3 ページ)

» 2007年08月09日 12時00分 公開
[三木 泉,@IT]
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新バージョンで敷居が高くなる?

――日本やアジアの国々では、ITILに本格的に取り組もうという組織がちょうど増えてきています。そういった組織にとってはITIL Version 3が出ることで敷居が高くなるのではないですか? 読まなければならない書籍もこれまでの2冊から5冊になり、公式研修コースの「ITIL Fundermentals」もこれまでの2日間から3日間に延長されると聞いています。

タービット氏 まず、ITILのバージョン1と2では、実際には44冊の書籍があり、これを中核的な7冊の書籍に絞り込んでいました。ほとんどの人々は「Service Support」「Service Delivery」の2冊しか読んでいませんでしたが、7冊を読んでいたとしたら、ITIL Version 3で示されていることの多くはすでに述べられていたことが分かるでしょう。ITIL Version 3では中核的な7冊を5冊にまとめ直しています。従って、読むべき書籍の数は減ったのです。そのうえでいくつかの新たなコンセプトを持ち込んでいます。

 バージョン2を導入している人々はそのまま続行してかまいません。しかし同じことを新しい文脈で見ることができます。例えばITとビジネスはこれまで「整合させる」(align)べきだとされていたのが、「統合」(integrate)するべきだというように変化しました。例えを1つ示しましょう。スペースステーションが宇宙にあり、スペースシャトルが補給品や新たな宇宙飛行士を載せてきたとします。最初に行われるべきなのは、ドッキングのために位置を合わせる(align)ことです。しかし、それだけでは不十分で、ドア(ハッチ)を開けて互いのリソースをやり取りしなければなりません。これでやっと、互いに価値を得ることができます。ITIL Version 3はこういうことを訴えようとしているのです。

 調査会社の米フォレスターリサーチは「ビジネスサービスマネジメントのS字カーブ」というモデルを作成しました。これはITILバージョン2を活用してビジネスサービスマネジメントを導入していく方法をステップ・バイ・ステップで示したものです。このモデルでは、最初に行うべきステップの1つは基礎的なITILの導入です。サービスサポートのために、インシデント管理、問題管理、変更管理などを導入します。その次にCMDBを導入し、サービスレベル管理を導入します。さらにITILバージョン2における7冊の書籍の残りの部分を組み込んでITILのフル導入を行います。ここまでくればオペレーションは安定したものとなります。そこでビジネスサービスマネジメントへの統合に移行できます。つまりITのテクニカルな観点ではなく、ビジネスの観点からの運用を進めていくのです。これはまさに、ITIL Version 3が提唱し、達成しようとしていることなのです。

 ITILバージョン2ではまた、人々が各プロセスをサイロのように個別に導入しようとする問題が生まれていました。このためにサイロを取り去り、統合をするためにやり直さなければならなくなっているところもあります。ITIL Version 3では、こうした問題が最初から起こらないように配慮されています。

――しかし、ITILはそもそもシステマチックなITサービス管理を実現するために生まれたものです。ITILバージョン2でも、個々の機能に力を入れている部分はあっても、サイロのようなことは起こってはならないはずなのではないですか。

タービット氏 たしかにその通りです。しかしほとんどの人たちは7冊の書籍を参照することなく、2冊のみに集中し、さらに多くの場合は「Service Support」1冊しか考慮していません。これが問題の源泉なのです。つまり、ITIL Version 3の意義の1つは、特定の問題を解決するために、特定のプロセスだけをつまみ食いするような利用方法を避けてもらえるように構成し直したことにあります。

著者紹介

▼著者名 三木 泉


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