「顧客との関係強化」をITで実装顧客指向開発のすすめ(6)(1/2 ページ)

これまでの総まとめとして、IT側の観点から顧客との関係強化に当たっての実装ポイントを示す。

» 2007年09月04日 12時00分 公開
[營田(つくた)茂生,日立ソフトウェアエンジニアリング]

顧客との関係強化とIT

 誤解のないように先に筆者の考えを書いておく。ITを使うことで、企業と顧客との関係におけるすべての課題を解決できるわけではないと常々考えている。あくまでも従であると。

 ただ、すでに社会もITを前提に動き始めている。ITの恩恵を全く受けずに企業活動を行っていくことは、コストも時間軸も見合わないものになってきていることも事実である。

 これまでこの連載では、第1回から第5回まで企業と顧客の間の関係強化についてさまざまな角度から述べてきた。今回は連載の最終回として、企業と顧客の間の関係強化について、ITとしての実装を述べていきたい。

顧客との関係についての要求分析

 企業と顧客という関係において、現在よりも良い関係に変えていきたいとする場合、企業内のITシステム各種を、現在よりも進化させることとなる。顧客との関係を強化するためのプロジェクトを正式にスタートする前に、何を対象とすべきなのか、要求を明確化するための要求分析が重要である。

 現在のITシステムに、顧客との良好な関係構築を阻害する「何か」があるとすると、その「何か」について明らかにしなければならない。この「何か」を明らかにし、解決するためには、ソフトウェア開発の上流で可能な限り完全に要求を確定しておくことが重要になる。実際には、システムは使ってみないと分からない要求もある。すでに現在のITシステムは存在するので、継続的なソフトウェア進化の中で要求仕様の成長を考える必要がある。

 このようなITシステムの要求仕様は、誰でも自然に記述できるものではなく、系統的な手法により、抽出した要求仕様を継続的に検証して更新していく必要がある。つまりアドホックな要求仕様作成ではなく、定式化された要求仕様の作成方式が必要である。

(1)要求の抽出

 ステークホルダ(ITシステムの利害関係者:経営者、社内の利用者、社外の利用者、運用者など)、文書、業務知識(ドメイン知識)市場調査などからシステム要求を見つける。このプロセスは、要求の発見や獲得などとも呼ばれることもある。一般に要求抽出では、インタビュー、シナリオ分析、プロトタイピング、打ち合わせ、ユーザー行動の観察などの手法を用いる。

 今回の連載で進めてきた、グッド・カスタマー・エクスペリエンスの継続的な創出を目標とした場合、重要となる要求は以下の4点に集約される。

  a) 顧客維持と顧客との関係構築

  b) 組織間をつなぐナレッジの共有

  c) チャネル間の連携

  d) 顧客とのインタラクティブ設計

(2)要求分析

 要求分析では、異なるステークホルダから抽出した要求間の競合を解決し、システム化の範囲を明確化する。このため要求分析では、適切なモデルを用いて要求の構成要素間の関係を明確化する必要がある。このような要求のモデルとしては、制御フロー、イベント、ユーザーインターフェイス、オブジェクト、データフローなどがある。

 要求を具体化する過程では、ITシステム全体のアーキテクチャを考慮することになる。ITシステムをどのようなアーキテクチャに基づいてコンポーネントに分割し、要求をどのコンポーネントに割り当てるかを決めていくことになる。

 また、ステークホルダ間、機能と制約間などで発生する要求間の競合も解決しておかなければならない。競合解決には、多くのトレードオフ要素について、合意を形成していくことになる。

(3)要求の文書化から要求管理

 分析された要求について、すべてのステークホルダが理解できるように文書化する。従って、対象業務の用語を用いて記述することになる。また、開発者が設計や製造で参照できるように、定式化されたモデルで要求を適切な詳細さで文書化することも必要である。

 モデルを文書化する記法・技法についてはさまざま存在するが、ここでは省略する。

 要求管理では、ITシステム開発の全工程で次のように要求を管理する。

  a) 合意された要求を識別し、要求の内容を管理

  b) 指定された要求に対する変更を管理

  c) 要求間の関係や、要求とITシステム開発に関するほかの文書との関係を管理

make-or-buy分析

 顧客との関係強化を図るために、既存のITシステムに手を入れる、あるいは新たなIT(サブ)システムを追加導入するというプロジェクトが無事開始されたとしよう。

 PMBOKでは、統合マネジメント、スコープマネジメント、タイムマネジメント、コストマネジメント、品質マネジメント、組織マネジメント、コミュニケーションマネジメント、リスクマネジメント、調達マネジメントと、9つの知識エリアを持つ。

 この中で調達マネジメントに含まれる、make-or-buy分析(内製対外部調達の得失分析)について、特記しておきたい。これは得てしてこの分野(「CRM」:customer relationship management、「SFA」:sales force automation、「KM」:knowledge management)の導入となった途端に、どのソフトを使うかという話か、現状に少し手を加えただけでなんとかするという話に堕してしまうことが多いためである。

 make-or-buy分析のポイントとしては後続の章でもいくつかの観点を述べるが、「実現までのスピード」と「IT投資の抑止というポイント」を外すわけにはいかない。

 顧客との関係強化を図るために、ITシステムに何らかの変更を与えるとする場合、一足飛びには業務システムも情報系システムもグループウェアも対応することはできない。そのすべてとの連携が不可欠である以上、全体最適を考えてmake-or-buy分析を進めなければならない。

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