BPMプロジェクト成功の鍵[3] - ROIの検討BPTrends(11)(2/3 ページ)

» 2007年09月10日 12時00分 公開
[著:デレク・マイヤー, 訳:高木克文,日本能率協会コンサルティング]

■BPMテクノロジの役割

 オプションを立案しビジネスケースを作成するうえで、ビジネスプロセス・マネジメント(BPM)テクノロジの機能の向上は、極めて重要な意味を持つ。BPMテクノロジによって、ビジネスアプリケーションの開発と配備をより迅速に進めるための、革新的な新しい方法を手に入れることができるのだ。それは、従来にはなかった、根底的に新しい能力をもたらす(少なくとも、完全に統合化されたアプリケーション開発環境という面において)。バックエンドシステムの連結と個別のアップグレードが行えることから、ビジネスプロセスとアプリケーションシステムの完全な分離が可能になるのだ。

 BPMテクノロジは、社内のビジネスプロセスをモデル化し、そのモデルを用いて対象ビジネスを完遂させるための業務を推進する能力を提供する。プロセスエンジンは、適切なサードパーティのアプリケーションと連結し、以後のトレーサビリティを確実にすることによって、個々の業務ケースの状況を追跡する。

 ビジネスのやり方を変更する必要が生じれば、プロセスモデルも変えなければならない。その場合は、目指すパフォーマンス目標の達成に向けて、それらのモデルを調整すれば済む。

 要するに、BPMテクノロジを効果的に活用すれば、迅速な反復と適合の機能を通じて、プロセスを継続的に改善できるようになるのだ。

■モデリング

 BPMテクノロジには、2つの主要「ドメイン」が存在する。モデリングと実行である。IT部門は、適切なプロセスモデリング・ツールの選定をめぐり、際限のない熱中状態に陥りやすい(まるで、ツールこそが成功と失敗の分かれ目になるかのように)。この点は留意に値する。時間と金は、ほかの場にも効果的に配分されなければならない。現実問題として、プロセスアーキテクチャとその実装にかかわるスキルと能力の養成にも、注力が求められるのだ。

 モデリングは多くのベネフィットをもたらす。しかし、効果的なBPMスイートに組み込まれたものと比較すれば、見劣りする。モデリングは、単独では、十分な有効性を発揮しない。良いスタートポイントではあっても、より広範な構図の中の一部でしかないのだ。すでにモデリング・リポジトリを持つ企業は多いが、導入の基本目的を、ほかの領域のほかの活動の支援に置くのが通常であった(すなわち、BPMプロジェクトの視点に直結していることはまれであった)。

 しかし、有効なモデルが存在するのであれば、それを活用すべきである。ただし、モデリング・リポジトリの装備から着手してはいけない。この種の作業には時間とリソースの集中的投入が求められるのが通常であり、数年間の努力を浪費してしまう。その期間に大量の詳細部分が構築されるのだが、モデリング作業が完了する前に時代に即さない不必要な産物になることが多い。

 一般的には、スタンドアロンのモデリング環境の設定が、BPM実施の成功に通じる迂回(うかい)路となる。ただし、このようなモデリング環境が一定の効果を発揮するのは、全社展開活動を行うときに限られる。短期的視点では、フルに統合されたモデリング・リポジトリを提供するBPMスイートの導入を検討するのがベストだといえる。

 シミュレーション手法は、将来の推移を想定し、潜在的ベネフィットの定量的把握と予測を行うのに役立つ。シミュレーション・モデルにより、取り組み対象として予定されるプロセスの、直感ではとらえられない特性を明るみに出すことができる。また、それらのモデルは、意思決定者に安心感を与え成功への確信を持たせる材料にもなる。

 しかし、シミュレーション・モデルの作成とテストには、膨大な量のリソース投入が必要になる可能性があることを、念頭に置かなければならない。加えて、それらが意味を持つのは、あくまで想定枠内での仮説と抽象概念としてでしかない。シミュレーション・モデルを用いるのは仮設の検証のためであり、仮説を隠ぺいするためではないことを銘記すべきである。

■BPMスイートによる業務改善例

 BPMスイートは、いくつかのコア・コンポーネントで構成される。スケーラブルなプロセスエンジン、ビルトイン・モデリング環境、ビジネス・データ/コンテント処理方法、統合コンポーネント・セット(既存アプリケーションを統合)、および継続的プロセス改善を促進するうえで効果を発揮するプロセスモデリング/解析機能、である。

 これらの属性のすべてを単一BPMスイートに組み込んだ企業の一例が、ファイルネット社だ。ファイルネットは、これらの特性のすべてを内包する効果的なBPMスイートを提供している。ビジネスイベント認識環境が、プロセス、コンテント、および解析機能と強固に統合され、ビジネスとオペレーションのパフォーマンスを最適化するための継続的プロセス改善システムとして運用されるのだ。

 ここで、生産性と効率の側面だけに絞って考えてみよう。これらの側面についても、BPMは不可欠のイネーブラーになる。

 まず、業務アイテムのエレクトロニック・マネジメントを通じて諸役割間のハンドオフ(※3)が自動化され、遅滞と過失がほとんど削除される。例えば、ウーリ銀行(韓国第2位の金融機関)では、支店従業員の就業時間の70%以上が退屈なバックエンド・プロセスに費やされていることを把握した。そのことから、顧客と直接かかわるセールスやマーケティングの活動は制約され、従業員のモラールにも悪影響を及ぼしていた。そこでバックエンド・プロセスを自動化した結果、付加価値をもたらす顧客サービスに専心する時間を70%にまで高めることができた。

※訳注3:ハンドオフ=あるアクティビティに対する責務の他者への移転あるいは自動化すること

 同行のプログラムの真の狙いは、サービスの差別化により競争優位を獲得することであった。そこで彼らが再度注目したのは、新規顧客の開拓と既存顧客との関係強化に費やす時間の増加であり、収益創出に結び付かないスタッフに掛ける経費を削減することであった。さらに、プロセスの改善とドキュメント検索時間の削減を推進した。数時間〜数日間をかけていたドキュメント検索時間は1〜2秒にまで短縮され、ローン処理時間の半減──6日間から3日間へ──に結び付いた。

 最終的に得られたのは、顧客満足度の劇的な向上であった。また、2,100万ドル以上の経費が削減される一方、推定値で1億1500万ドルの売上高増を手にしたのである。

 近年のテクノロジ統合の進歩は、BPMプロジェクトの様相を一変させた。1990年代のワークフロー・ツールには、統合業務におけるプロジェクト予算の70%が費やされた。ディベロッパは、サードパーティからの情報を必要とする個々のポイントについて、個別のスクリプトを作成しなければならなかった。ERPシステムのような複合的アプリケーションであれば、数千ものスクリプトを必要とすることもあったかもしれない。その結果、複雑さとコストがけた違いに増大した。その上、バックエンド・アプリケーションやプロセスが変更されれば、関連するスクリプトのすべてについて改訂が求められた。

 いまでは、モダンBPMスイートが、サードパーティ・アプリケーションの統合を全面的にサポートする高度なメカニズムを備えている。Webサービスを用いた「サービス指向」アプローチを採用することが、主なベストプラクティスの1つとなった。Webサービスの活用により、接続容易性とフレキシビリティを高めるためのフレームワークが得られる。コンポーネント・アプリケーションのアセンブリングが容易にできるサービスは、アプリケーションの迅速な開発と配備を可能にする。それが、企業の機敏性と順応性の向上の基盤になるのだ。

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