ゆでガエルになる前に情報子会社は経営の見直しを何かがおかしいIT化の進め方(33)(2/3 ページ)

» 2007年11月14日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

情報子会社の位置付けを親から見ると

 親を頼りにしたい、親のいうことに忠実な人は以下のことをよく考えてみてほしい。

 客観的にということで、経営の係数的な面から情報子会社を見ると、どういう問題になるだろうか。親会社が出資して別会社という形を取っていようと、親会社の業務が中心という場合には、連結会計で親子の間の取引は相殺されるから、名目上の利益が出ようが出まいが、しょせん会社ごっこの域を出ない会社ということになる。

 外販で外から収益を稼ぐという話についてはどうだろう。

 仮に、5年後に外販比率を50%(親会社取引と同額)にするという計画を、子会社が作ったとしよう。これを親から見ればどういうことになるだろうか。

 金融などごく一部の分野を除けば、企業のIT支出は売り上げの1〜2%だ。利益率が仮に5%とすると、親から見ればリターンは1〜2%の5%、つまり1万分の1のオーダーの規模の話になる。配当率などを考えれば、さらにもう1けた下がる。

 2番目の商品が続かず、線香花火に終わった外販事業の例は少なくない。継続して外から収益を得るためには、それなりの投資と体制、何より、その覚悟とアイデア創出や営業努力の継続が必要になる。子会社としては大変な努力が必要になる問題である。しかし、親にとってはこの程度の話である。経営はしょせん数字だ。

 このあたりの意識のギャップをよく認識しておかないと、本当に「無い物ねだりをしていた“ゆでガエル”」になる。

客観的に物事を考えよう

 ここでいう客観的とは、身びいきや自分に都合の良い楽観論、その場だけの楽な考え方を排するという意味である。

 親はいつまでも「すねかじりができる」存在ではない。親子関係はドライに、物事はビジネスライクに考えてみよう。

 親子の間でも、会社が別になれば、相反する利害関係も生じるし、価値観や目指す方向も変わっていくのが当然だ。

 親はビジネスパートナーとして、古くからの常得意(上得意ではない)客と考えよう。

 親に力(IT部門の親会社の中での政治力)や、親会社に余裕のある間、また強力な人脈がある間は、親は多少の無理も聞いてくれるかもしれない。逆に親の権威で無理難題を要求してくるかもしれない。しかし、お互い追い詰められてくればどうなるだろうか。筋の通る姿=客観性が、判断のベースになるはずだ。

 冒頭に述べたように、全体の2割の中の2割の企業は、背景はともかく子供を養子として外に出したわけである。身内に情報子会社(つまり、ITの実務機能)は必要ではないということを行動で示したわけだ。いまは親子の関係であっても、将来、より有利な取引を求めた動きが親会社に出てきても不思議ではない。同じ業界の分社した会社や、同じ業種分野で経験を積んだベンダや外国企業が強力なライバルとして登場する可能性も否定できない。

 情報子会社が自社の強みと考えている「親会社の業務理解」の検証を、客観的にしてみる必要性はないだろうか。

 目に見える形で、内容・質の高いシステムができているだろうか。それを客観性を持って説明できているだろうか。明確な優位さを持って、他社より安いコストでより短期にシステムの開発ができているだろうか。柔軟性の高い運用や効率的なメンテナンスができているであろうか。「親会社の業務理解」という問題はこんな形の結果となって表れるべき問題なのだ。

 また、この強みを保つために必要な行動はできているだろうか。技術力など、一般に指摘的に指摘される情報子会社の弱みをカバーし得るほどの強さはあるだろうか。

 外国企業との競争では、日本語は本当に武器になり得るのか。客観的に考えてみてほしい。

人材の供給と育成

 IT関連分野は、3K現場(Kの1つは「帰れない」のKらしい)として、日本の学生から、すでに人気のない分野になっている。

 こうしてしまった原因の多くは、ユーザー企業を含めた日本のIT業界にある。やりがいのある、将来に希望の持てる職場作りをしない限りは人は戻ってこない。日本と逆の状況にあるインド・中国などと、この面での差は広がるばかりだ(すでに、米国のSE現場は、そこからはい上がることが難しい、ブルーカラーの職場だ)。

 IT企業が目先の数字にこだわった「量の競争」から脱却しない限り、この問題は解決しないと思う。競争で必要以上に苦しいのは、皆が同じ分野で競い合い、また適切でない分野や仕事に固執している故ではないだろうか。それぞれの企業がそれぞれのビジョンを描き、「質を求める戦略」に踏み出す必要があると思う。

 3Kイメージが行き渡ったいま、学校からの新しい人材の供給はあまり期待できないのが現実だ。苦労して採用できた新人は大切に育てよう。気心・特性の知れた現有の既存要員の再教育・育成がなにより大切だ。誰をどのように育成するかには、各人の特性への考慮が欠かせない。各人の将来方向は適材適所を意識した育成を徹底しないと、もう時間の余裕がない。

 企業理念→経営方針→経営戦略の設定から、将来、組織として必要な分野の能力を具体的にして、そのうえでこれに基づく人事計画・育成計画を決め、これをブレークダウンしたOJT(仕事のやり方・組織の見直しが必要)と、知識学習の計画と実施の徹底が必要である。

 改革など出直し的施策の鍵は、何事も「上位者から始めてやることだ。上が変われば下はおのずと変わる」。

 現場要員への小手先の施策が強調されるが、大不祥事を起こしながら、経営層と本社スタッフの意識が一向に改まらない、経営体質が変わったようにはまったく見えない企業がまだある。

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