“のりしろ”マインドがIT経営を実現する公開! IT経営実践ノウハウ(1)(2/2 ページ)

» 2008年02月04日 12時00分 公開
[齋藤 雅宏,@IT]
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ビジネス環境に漬かってビジネス語で語れ

 この仮説は後日、その事業本部長からいわれた「君は違うが、君の部下はわれわれと同じ言語で話ができないようだ……」という言葉で確信に変わりました。

 私も彼にいわれるまで気付かなかったのですが、営業現場には独特の「あうんの呼吸」みたいなモノが存在します。私も入社当初、システム部門に所属していたときはこの見えない壁にぶつかって結構苦しみました。営業現場にはどういうわけか、システム部門の人が生理的に受け付けにくい空気が“壁”として存在します。われわれはこの壁を乗り越えて、同じ土俵に上がらなければ何も始まらないことを知るべきです。それができないと、営業現場の人間に「外部の人」という印象を与え、例えば先ほどの事業本部長の「同じ言語で話ができないようだが」に代表されるイメージを与えてしまうのです。

 私は解決策を求め、現場で試行錯誤を重ねた結果、自主的に“のりしろ”機能を担い、自主的に現場で実践する姿勢を取ることで、違和感なくこの壁を乗り越えられることが分かりました。この“のりしろ”は外国語の習得と同じで、うわべで理解したつもりでもなかなか身に付きませんが、現場にどっぷり漬かってみると案外簡単に体得できてしまうものです。怖がらずに現場に身を投じて、とにかく一緒に苦労すること。これが一番の近道です。

 それからというもの、IT経営推進者(システム部門担当者)には「とにかく相手の懐に入り、少々お節介なぐらい現場で一緒に実践する“のりしろ”機能を意識せよ」と口を酸っぱくしていい続けました。すると、OJTでは解決しなかった問題が徐々に良い方向に向かい出したのです。

ALT 壁を乗り越えろ!

 最近、システム担当があまり現場に入ってこないという話をよく耳にしますが、間違いなく生理的に受け付けないこの壁を無意識のうちに避けているのだと思います。これは防衛本能によって避けてしまっているので、周りの人間が半強制的に指導しなければいつまでも受け付けないままになってしまいます。

 そしてこの壁を乗り越えられない人ほど、プロジェクトで人的トラブルに出くわす(引き起こす?)傾向が強いようです。ですから、この“のりしろ”はIT経営推進者には必須のスキルであり、老舗の焼き鳥屋のタレのごとく、代々受け継いでいかなければならないものだと思います。

 最近この伝承が途絶えてしまったことこそ、この業界が構造不況といわれる主原因なのではないでしょうか? こういうときこそ、初心に帰って足元を見つめ直すべきだと思います。

プロフィットマインドを持って、『IT経営実践』を行うことの意味

 これまで、IT側の話ばかりしましたが、現場側にもいいたいことがあります。

 少々極論かもしれませんが、私はプロジェクトに関与する営業、管理、システムの担当者が本気で対応すれば、プロジェクトが失敗するはずはないと信じています。よって、プロジェクトがうまくいかないということは、関係者が本気を出していないだけと思っています。やはり、自分の成績に直結しないコストセンター業務だと考えて、どこか甘えてしまうのかもしれません。

 そういうことなら、『IT経営』プロジェクト自体をプロフィットセンター化し、採算管理してみてはいかがでしょうか。担当者ごとの採算を出してしまえば、みんな腹をくくらざるを得ません。そうすれば、失敗なんてそう簡単にできないでしょう。

 それ以上に、マインドに関する話で気になるのが、経営・営業にかかわる人の多くは『IT経営』というと、すぐに「それは情報システムの話なので、自分には関係ない」といい出すことです。まずはここを変えないといけません。そこで対岸の火事的イメージのある『IT経営』と一線を画すためにも、私は意識的に『IT経営実践』という言葉を使って、自主的にプロジェクトに関与する重要性を、口を酸っぱくしていい続けたいと思います。

 今回の話を含め、私自身がこのようなマインドでさまざまなプロジェクトの運営に携わってきた結果、なかなか手に入らない成功事例や教訓や失敗事例のノウハウをたくさん蓄積することができました。

 そこで次回以降、『IT経営実践』活動を通じて私が体得した成功事例や教訓や失敗事例をテーマごとに紹介する予定です。これらの情報群がいずれ、営業出身の新任CIOや情報システム部門長向け入門書となることを目指して書いていく所存です。どうぞご期待ください!

著者紹介

▼著者名 齋藤 雅宏(さいとう まさひろ)

ライト・ハンド株式会社

1992年に三菱商事(株)に入社し、システム開発部に配属される。数百万ステップ規模の会計系基幹システムの開発・保守に従事。その後、食品VANの開発、ECサイトの企画・開発、新規事業の立ち上げ、事業投資先の経営支援、内部統制構築など、各種案件を経験する。これらの経験をノウハウ化すべく、2001年10月から2004年3月まで東京工業大学 社会理工学研究科経営工学専攻の非常勤講師に就任し、事業創造論を学部生および院生に指導。2007年、三菱商事(株)退社後は、ベンチャー企業へのハンズオン型経営支援(支援例:(株)クエスト・ワン)を通じて、『IT経営実践』の普及をライフワークとしている。


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