IT経営を実践できる人材を見抜く術公開! IT経営実践ノウハウ(2)(1/2 ページ)

IT経営を推進・実践する「IT人材」を語るとき、スキルや知識がテーマになることが多いが、重要なのは「仕事に主体的に取り組む」という姿勢、すなわちマインドセットだ。そんな素養を持つ人材を見抜く方法とは?

» 2008年03月10日 12時00分 公開
[齋藤 雅宏,@IT]

プロジェクトに逃げ腰のユーザー

 わたしには、前から気になっているユーザー企業側に特有の言葉があります。「主体」と「支援」です。

 例えば、ある事業部でIT経営導入プロジェクトが立ち上がりました。そのプロジェクトには財務経理部門、法務部門、情報システム部門から社内専門家も招へいされ、プロジェクト計画が発表されます。計画書には各専門部局の担当者名と具体的なサブプロジェクト名が明記されています。

 その計画書を持ち帰った各専門部局の担当者は、所属長に「本件はこれまでわれわれがほとんど関与していない事業部の案件であり、現業へのインパクトも少ないことから、『支援案件』として対応します」と報告し、所属長からは「問題発生リスクが大きい感じがするので、『主体案件』として動くことは避けるように」とアドバイスを受けます。

 実際に「主体」とか「支援」という言葉を使っていないところも多いでしょうが、たとえ口に出さないとしても、心の持ち方として「主体」とか「支援」という線引きをしている人が多いことを実感しています。それは、実際にプロジェクトでトラブルが発生するとすぐに分かります。

 プロジェクトでちょっと不穏な雰囲気が感じられるようになると、常にリスク回避に気を使っている「支援スタンス」の人ほど、逃げ腰の発言が急に多くなります。それだけの余力があるなら本業にぶつけてほしいといいたくなりますが、本人はそんなことはお構いなしで、今後襲ってくるトラブル対応の荒波をどうやって避けるかの準備に躍起になっており、まったく周りが見えないようです。

 少々の困難にぶつかったプロジェクトでも、こんなスタンスのメンバーが混じっている状況では失敗の道を転げ落ちるのは必然だと思います。

「逃げ場は確保しておく」のがIT企業

 あともう1つ、前から気になっているIT業界特有の言葉があります。「受託」と「請負」です。ネットで調べてみると、けっこうな数のサイトが検索されました。内容は労働契約的な話か、技術者にとっての働き方とかやりがいについてがほとんどです。わたしが気になっているのはその点ではなく、発注者であるユーザー企業の立場から見た「受託」と「請負」に対する不満にあります。

 あるIT経営導入プロジェクトで、委託先と内容の確認が終了し、契約の段階になったとき、「今回の契約は『受託にしましょうか? 請負にしましょうか?』」と聞かれたのです。まだITプロジェクトに慣れていなかったわたしは「違いが分からないので答えられません」といって詳しい説明を求めたところ、驚くべき回答が返ってきました。

 「今回は御社が綿密に企画を練り、プロジェクト計画の草案まで作っておられるので、弊社としてはプロジェクト実行リスクを最小化できると判断し、『受託』でも構わないと考えています。ちなみに、もし実行リスクが大きい場合は『請負』で契約させていただいております。『請負』の場合は発注者の指示の範囲を超えては対応しませんので、双方にとってプロジェクトでトラブルが発生するリスクを最小化できますが、後からこの機能を追加したいといわれても、それは追加でお受けすることになります……」

ALT 脱出経路?

 経験不足だった当時のわたしには、IT業界の訳の分からない慣習はまったく理解できませんでした。「結局、何か起きたときのことを考慮して、いつでも逃げられるようにしているだけでは?」とあきれてしまいました。

 その後も多くのシステム関連企業と協業しましたが、本当にこのスタンスを取っている企業が多いのです。法律上、受託と請負の区分が要請されており、IT企業側でコンプライアンス上、必要であることは理解していますし、実際のところリスク要素を明確にしないままに要求や仕様を提示するユーザー企業が諸悪の根源であることは否めません。しかし、相手に応じて受託と請負を使い分けて、どちらにでも切り替えられるものとして扱うスタンスで仕事をしていると、普通のユーザーと対峙(たいじ)した場合、その姿勢は間違いなく不快感を与えてしまうでしょう。

 前置きが長くなりましたが、どちらの話も共通点は「腰が引けている」点です。これは見ていて本当に悲しくなります。

 経営者がせっかくIT経営の導入を決定しても、現場の指揮官クラスや彼らをサポートする委託先の腰が引けてしまっていては、すぐに現場担当者に伝わってしまいます。そんな状態の案件に対してどうして積極的に関与してくれるでしょうか?

 こういった理由でなかなかIT経営が普及しない現場をわたしは何度も見てきました。IT経営が普及しない理由には、こんな関係者のマインドセットが影響しているのです。なお、この弱点があるプロジェクトほど体制面がもろいので、プロジェクトに何かあると真っ先にそこに影響が出ますし、そこが決壊すると想像以上に混迷の度を極めることを知っておくべきです。

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